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BAD BITCH 2

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 脱ぎ散らかしてあった下着を身につけ、おなかの肉をつまんでみた。祐介の言うとおり、つまんだ肉の厚みが少し増したような気がする。胃腸があまり丈夫ではないので、食べても太らない体質だと思っていたのに、二十代の後半あたりから、少しでも気を抜くと、あっという間にウエストの周りに肉がつくようになった。普段なら夕食をダイエット食品に置き換えたりして、すぐに戻せるけれど、ここのところ外食の機会が多く、それも難しい。
 祐介とつき合い始めて、半年になる。知り合ったのは、マンションを探しに行った不動産屋で、祐介は営業社員だった。三十七歳になって、結婚の予定もなく、賃貸住宅に住み続けるのにも嫌気が差して、中古マンションが値上がりしないうちに、買ってしまおうと思い立った。ひとり暮らしが長いので、いっしょに暮らすペットを飼いたかったのも理由のひとつだった。頭金はニ百万円。月々のローンは家賃より少し高くなる程度なので、返済も、それほど大変には思えなかった。
 
 祐介に案内されて、いくつかの物件を見せてもらったあとに、食事に誘われた。それから仕事抜きで時々会うようになり、人当たりがよくて、物怖じしないところに惹かれた。営業所で、一、ニを争う優秀な営業であることは、あとから知った。
 自分で言うのもどうかとは思うけれど、朋子は美人だ。でも、可愛げというものがないらしく、モテたことがない。なぜか普通の男からは敬遠され、今までに寄って来た男は、自己認識が若干歪んだストーカータイプか、既婚者のどちらかしかいなかった。歳の離れた既婚者と何度かつき合ったのちに、同年代の男はほとんど寄りつかなくなった。
 
 二十代の半ばぐらいまでは、可愛くなろうとか、彼氏をつくろうという努力は惜しまなかったけれど、そういう努力をすればするほど、同性に反感を買うだけだということがわかり、仕事に打ち込んだ。もともと性格的に歯に衣をきせぬところもあって、ますます男に怖がられるようになった。もちろん男性の同僚とは良好な関係を保っているとは思うけれど、それとこれとはまったく別の話だ。
 
 祐介は三十四歳で、かっこいいとは言えないけど、朋子を怖がったり、美人扱いしなかった。おひとりさま用の物件を探していたくらいだから、朋子が独身で、しかも彼氏すらいないことは最初からわかっていたので、個人的に会うようになってからの進行は早かった。1DKのマンションを購入してしまわないうちになんとかしなければという計算もあったようだ。知り合ってから三ヶ月でプロポーズされ、結婚を決めた。
 
 祐介が異常なくらいにアイドル好きであることは、結婚を決める少し前に知った。祐介が今いちばん好きなのは、瀬川ななみだけれども、その他にも動向をチェックしているアイドルが何人もいて、撮影会や握手会にもまめに足を運んでいるらしい。祐介によると、今までにつき合ったことのある女性は、アイドル好きがばれた時点でみな逃げていったらしい。
 
 だから、長期にわたってつき合い、深い関係になった女性はひとりもいないようだった。いくらなんでも三十四歳で童貞だったなんてことはないよなと思い、遠まわしに聞いてみたところ、なんと恐ろしいことに、素人童貞だった。
 
 祐介によると、グラビアアイドルの旬は短く、売れる子はほんの一握りで、売れなかった子のうちの何パーセントかはAVに流れていく。そこでも鳴かず飛ばずで、風俗に流れる子もいて、ファンの間では、あの子はあの店で働いているなどという情報がしきりに交換されているらしい。これから結婚しようという男の風俗通いの話を聞くのはあまり気分のよいものではなかったけれど、もう風俗に行く気はないと言うので、気にしないことにした。
 
 そこまで知ってしまっても、祐介との結婚をやめる気にはならなかった。はっきり言わせてもらえば、祐介はグラビアアイドルおたくだ。しかもそうとうディープで気持ち悪い部類に入るので、女性が逃げていくのにも頷ける。でも、隠しておくこともできたのに、正直に話してしまう裏のなさが、祐介らしくて憎めなかった。朋子を美人扱いしない理由もわかってすっきりしたし、でもそれよりもなによりも、この歳で結婚してくれそうな男を逃したら、もうあとがない。
 
 それに、今の世の中、無駄な金銭と労力をつぎ込む対象のひとつやふたつ、誰だって持っているではないか。祐介の場合それがグラビアアイドルであったというだけだ。友人の夫たちには、アニオタと、カーマニアとパチスロ狂がひとりずついるけれど、友人たちは時折愚痴をいうだけで、すっかりあきらめて容認している。グラビアアイドルたちは、朋子から見てもやっぱり可愛いし、アニメキャラに入れ込むよりはよっぽどわかりやすい。それにパチスロや外車よりはずっと経済的でもある。
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