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二章第二節 一流警備兵イシハラナツイ、〈続〉借金返済の旅

百二十三.イシハラと魔女の計画

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「ぶつぶつ……お兄さん……帰る前にこの部屋をリフォームしてほしい……ぶつぶつ……」

 魔女との話し合いを終えてマフィンフィールドを出ようとすると魔女が突然訳のわからない事を言った。
 
「断る」

 俺は光の速さで断った、何故そんな事せにゃならんのだ。
 俺はDIYが好きなお父さんでも内装業者でもない、超面倒くさいからそんな趣味はもたない。

「ぶつぶつ……違う……ここはアフィンフィールド……私の設定次第でなんでも出せる空間……ぶつぶつ……」

 ふむ、成程。
 この魔女の言いたい事はわかった、つまりは、退屈だから魔女の知らない地球の文化をこの空間に持ってきて暇潰しをさせろ、ということだろう。

「ぶつぶつ……正解……もう脳内で超縛りプレイのバトルやテーブルゲームをするのも飽きてきた……オルスには娯楽文化が少なすぎる……ぶつぶつ」

 魔女が最後に部屋(マフィンフィールド)から出たのは50年前とか言っていたな。
 今の異界文化を取り入れる前のオルスしか知らないから娯楽のイメージが戦闘かテーブルゲームくらいしか無かったわけか。
 昔のオルスの事は知らないが、確かにファンタジー世界の人々の娯楽と言えば『闘技場』『賭け事』『チェスや将棋などの軍略ゲーム』くらいしかイメージが湧かない。
 今のオルスにどういった娯楽があるかしらんが、さすがに地球ほどの娯楽文明はないだろう。

「いいだろう、何でも出せるのかこの空間は?」
「ぶつぶつ……お兄さんがイメージして出せるのは具体的なイメージのある簡易的な物だけ……例えばさっき出した料理とか……味覚と形のイメージがしっかりと記憶にあるものは平気……ただ、用途がわかっていてもお兄さんが構造とか形とか作動する原理とかを知らない物はさすがに無理……」

 成程、さすがにポケットティッシュから核兵器までとはいかないか。
 
「だったらさっきやったみたいにお前が俺の記憶を読んで自分でイメージした方がいいんじゃないのか? その方が手っ取り早い」
「ぶつぶつ……それだと一気に情報が伝わってしまう……例えるなら本の記憶を読んだらその内容まで一気に一瞬で読み取ってしまう……」
「それはアカンな、犯人がわかってから推理小説を読むようなものだな」
「ぶつぶつ……だからお兄さんがイメージしたものを一緒に楽しみたい……もう100年は新鮮味というものを味わってない……このままじゃ退屈で干からびる……ぶつぶつ……」

 何て面倒な作業だ、まぁこの空間にいる限りオルスの時間は経過しないからいいんだけど。
 それに久々に地球の娯楽文化に触れてガス抜きするのもいいだろう、もう二度と味わえないかもしれないからな。

 こうして俺と魔女による、劇的ビフォーアフターが始まった。

「と、そのまえに」

 俺はとあるイメージをする。

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◇<富士山> <露天風呂> <洗濯機>

 俺は空間の一部を富士山を眺める壮大な自然の中にある露天風呂に変えた。
 傍らにはドラム式洗濯機が置いてある。

「……お兄さん……何これ……」
「俺の住んでいた国にある象徴(シンボル)を眺めながら入れる風呂だ、一番贅沢な入浴法だぞ」
「……お兄さんがはいるの?」
「んなわけあるか、バカかお前。俺はできるだけ1日1回は風呂に入っている。空間に見当たらなかったが、お前最後に風呂に入ったのいつだ」
「…………120年前くらい」
「キノコでも体から生やすつもりか? はっきり言うと臭う」
「………………お兄さん、一応私女の子………」
「120年も風呂に入ってないんじゃ誰でもそうなる。風呂が面倒なのは理解できるが臭うから入れ。服は洗濯しといてやる、入らないなら帰る」
「…………私、これしか服持ってない……」

 なんだこいつ、引きこもりにも程があるだろう。
 
「仕方あるまい、服も色々とイメージしてやるからさっさと行け」
「………………わかった………」

 そう言って魔女は服を脱いで露天風呂に入っていった。
 まったく、俺以上の面倒くさがりなんてそうそう見ないぞ。
 俺は『洗剤』と『柔軟剤』をイメージして魔女の服を洗濯機にぶちこんで寝た。

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◇<古着屋> <ブティック> <セレクトショップ>

 俺は起きて牛丼をイメージしてたいらげたのち、ありったけの女子の服をイメージして空間の一画に女性洋品店を創った。
 魔女は露天風呂が気に入ったのか恍惚とした表情をしている。

「……なにこれいい匂い……服からいい匂い……そして髪からもいい匂い……髪の毛真っ直ぐ……サラサラになった……」

 ボサボサでアフロみたいだった魔女の髪は直毛になり、顔と体を覆い隠している。
 まるで毛の塊が動いているようだ、こんな妖怪を見た事がある。
 俺は鬱陶しくてイライラした。

「服を選んだら髪を切れ」
「……自分じゃ手入れできない……見えない……お兄さん切って……」
「仕方あるまい」

 美容師でもイメージして出せればいいのだが、さすがに生物の発現は出来ないらしい。
 魔女は俺がなんとなくイメージしたvivi的な『ファッション雑誌』を真剣に見ていた。
 
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