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二章第一節 一流警備兵イシハラナツイ、借金返済の旅

百十三.ハンバーガーと結婚と警備兵と

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「ほんならプロデューサー! ウチ魔王軍辞めるって伝えてくるわ! そしたらプロデューサー達についていくから待っとってほしいやん! じゃあね!」

 アイドルを目指すサキュバスの【リリス・モーニングリング】はそう言って空へ翔び立っていった。
 俺はそんな偽変態を無視してだもん騎士と次の街への行路の打ち合わせをする。

「それで? 次に向かうのは王都とか言っていたな」
「うん、港町に直接向かうのはぴぃ君の脚がないと出来ないから……私達は近いシュヴァルトハイムを経由して向かうの。遠回りになるけど王都で走竜車を借りて行った方が遥かに早いからね」
「走竜車?」
「特別な貴族や行商人が使う地竜よ、飛べないしぴぃ君には劣るけど馬より速いから時間の短縮になるわ」

 俺は久しぶりにファンタジー世界特有のワードを聞いて少し調子(テンション)を取り戻した。
 アイドルだとかプロデューサーだとかふざけてんのか、まったく。

「ここからシュヴァルトハイムへは1日あれば着くはずよ、私は馬を借りてくるから待ってて」

 だもん騎士はそう言って町民に交渉しに行った。
 俺と骨っ娘は食糧などを買いながらだもん騎士を待つ。

「それにしてもムセン達は大丈夫アルか?」
「ステータス画面とやらのお気に入り登録とやらで現在位置はわかっている、今は高速で動いている。まぁ大丈夫だろう」

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 【ムキリョクの町】→→【マドワク街道】

 馬車を借りてきただもん騎士と合流した俺達は早速王都に向かう。
 雄大な自然の景色が望める整備された今いる土道はマドワク街道と言うらしい。
 どうでもいいが、この世界の地名や店名をつけるやつのネーミングセンスはどうなってるんだ?
 
 「ナツイ……お腹すいてるでしょう……? はい、よかったら食べて? さっき作ってみたんだけど……」

 なんかいつもと雰囲気の違うような気がするだもん騎士はバスケットケースみたいなのを俺に手渡した。
 ちなみに馬の手綱を取っているのは骨っ娘だ。
 中々上手くいかないようでさっきから外で叫び声が聞こえる、そして馬車はガタガタ揺れまくっている。

 俺はバスケットケースを受け取り、蓋を開けた。

「!」

 なんと、そこに入っていたのは『ハンバーガー』であった。

「ど……どう? 別れる前にアイコムからナツイの食べたいものを聞いてたの。『パンズ』に似ているけど違うものって聞いて色々と試行錯誤してみたんだけど……」

 『パンズ』とはこの世界でいう『サンドイッチ』の事だ。
 こいつ、たったそれだけの情報でハンバーガーを拵(こしら)えるとは……まさに【天職の料理人】といえよう。

 俺は感謝のためにだもん騎士を抱き締めた。

「きゃぁっ!?…………ふふ、喜んでもらえてよかった」

 そう言ってだもん騎士は俺を抱き締め返してきた。
 俺は感謝の念を唱えたのちにだもん騎士を離して食事にありつくために行儀よく座り直した。
 
「ふむ、では早速ありったけの感謝を込めて」
「ねぇ……それで、挙式はいつにしよっか?」

 俺がいただきますと言おうとしたところ、だもん騎士が意味不明な事を言ってきた。
 挙式ってなんの事だ?

「順番が逆になっちゃったけどあれだけの熱い口づけを交わしちゃったんだもん式ははやい方がいいと思うの私としてはウルベリオン王とジャンヌ様に頼んで街をあげた盛大な式にするのもいいと思うけどでもねナツイはそういうの好きじゃなさそうだからナツイに全て任せて二人きりで静かな場所でするのもいいと思ってる私は小さい時に女性らしく生きるようにするのを心がけてきた癖があるからナツイの後を一歩後ろから支えていく奥さんになりたいのだから旦那様であるナツイに文句なんか一切言わないから好きに決めてほしいもちろんナツイが面倒だっていうなら私が全て手配するしナツイは座って構えてくれているだけでいいからあごめんね今はそれどころじゃないのはわかってるから心の片隅で考えておいてどんなナツイだろうとなにも言わないで一生寄り添って生きていくからあと子供はたくさんほしいなナツイの館だったら子供部屋もいっぱい用意できるし私は騎士の仕事をしたいけどナツイが家を守ってほしいならそうするしきっとナツイとの子供なら可愛いよねそれでね」

 だもん騎士は文字にすると滅茶苦茶読みにくそうな文章をめっちゃ早口で言い出した。
 とりあえず俺はハンバーガーを食べているから無視した。
 ふむ、塩気のある丸パンになんかの肉と水気のある野菜、そしてチーズ。
 地球のハンバーガーといっても遜色がない旨さに感動した。

<おい! そこの馬車! 止まれ!!>

 すると外から変な声が聞こえる。
 外を覗いてみると馬車の進む先の街道で変な奴等が道を塞いでいる。
 ヤンキーっぽいやつがいたり女がいたり年寄りのじいさんがいたりしてぱっと見たところ単なる村人の集団としか思えない。

 が、そいつらには共通しているものがあった。
 全員が俺が着ているようなのと同じような服装をしている事だ。

 骨っ娘が馬を止めて叫んだ。

「ナツイ様! アクア! なんか変なやつらがいるネ! 降りてきてほしいアル!」

 だもん騎士は聞こえていないようでまだ妄言をぶつぶつと呪文のようにつぷやいている。
 俺はハンバーガーを食べ終わって邪魔されたくない食後のまどろみタイムに突入したので無視した。

「ナツイ様!? アクア!? 聞こえてないアルか!? どうしたらいいネ!?」

 外から骨っ娘がうるさいので仕方なく幌から顔だけ出す。
 どうやら変な集団に道を塞がれていて通れないようだ、仕方ないから俺はそいつらと話す。

「なんだお前ら? 通行の邪魔をするな、何か用か?」

 すると、集団のリーダーなのか知らんがヤンキーが偉そうにでかい声で叫んだ。

「怪しいやつらだなてめぇら! これから検問を開始するぜ!! オレ達ぁシュヴァルトハイムの【警備兵】だ!! 文句あんならぶっ殺す!! かかってこいや!」
 
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