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二章第一節 一流警備兵イシハラナツイ、借金返済の旅

百六.にんげんっていいな

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「うん……そうアル、その辺りで魔物を見たネ? ありがとう、ぼくも町民の精神に潜ってみたけど間違いなさそうネ、うん。わかった」

 骨っ娘はスマホで通話するかのように首をかしげ耳に掌を当てながら喋っていた。
 スマホ持ってないのに。なんて危険なやつだ、スピリチュアルキラーだ。

「だから言ってるネ! ぼくはオトモダチと喋ってっ……ますネ……すみません……」
「ただの冗談だ」


〈ムキリョクの町周辺『ノーヤルキー平原』〉

 俺と骨っ娘は町人のやる気を支配しているという魔物の情報を掴みに町を囲う平原を探索をしていた。正確に言うと町周辺にいる『幽霊』を捜しに。

「それで? ここらにいる幽霊とやらはその魔物を見たのか?」
「はいネ……です。町人の精神に潜ってみた姿形と同じ魔物がこの辺りを通ったって言ってるネ……です」

 話を聞くとどうやら骨っ娘は死霊術師という職業に成り立てで幽霊とやらをお供するには職業レベルが足りないとかなんとかかんとか。
 そのため幽霊を自在に操り情報収集をする事はできず、地縛霊的にその場にいる幽霊に話を聞いたり味方にする事しかできないため魔物の情報収集はその地点に留まる幽霊の目撃情報を当てにするしかないという事だった。

 なんという面倒な設定。

「設定って何なのアル……ですか? イシハラ様」
「なんだ? 様って」
「ひぃぃっ! ごめんなさいアル! 不快でしたらすぐに改めますアルです!」
「どうでもいい、とにかく目撃情報のあたりをしらみ潰しに探すしかあるまい」
「……ついさっきまでは死にそうな顔をしていたのに……もう大丈夫アル……ですか?」
「これが終わったら食事だからな」

 ムセン(天才料理人)と別行動となり、判断ミスに一時絶望したが何とだもん騎士も天職が料理人という事を知った俺は一瞬で立ち直った。
 別行動で町を調べているだもん騎士が情報収集が済んだら飯を作ると言っていたのでこうして魔物捜しに精を出せるというわけだ。

「ん」

 すると平原の先から地鳴りと共に結構な数の魔物がいきなり徒党を組んで現れた。

「魔物がいっぱい来たネ! あれは……野良魔物アルでしょうか!?」
「現れ方も数も不自然すぎる、俺達が町に入り込んだ事が親玉にばれたんだろう」
「魔王軍一派アルか! じゃああの中かこの先に役職つきの魔物がっいるアルかっ!」
「それはどうだかな、まぁあいつらを倒せばわかる事だ」

【一流警備兵技術】

--------------------------
--------------
----------

「終わりだ、さて。この中に親玉らしきやつはいなかったわけだが」

 俺はこの後に飯が控えていることもあり、疲れすぎない程度に迅速に魔物共を片付けた。良い空腹具合、この後の食事は至福の一時になるだろう。
 だもん騎士の料理は食べた事ないが、きっとムセンとは違う、負けず劣らずの素晴らしい料理が出てくることうけあい。

「…………滅茶苦茶アルよ……いくら騎士と掛け持ってるとはいえ……ただの警備兵がここまで強いなんて聞いた事ないネ……」
「それよりも早く魔物に憑依してボスの居場所を突き止めろ」
「え……?………む……無理アル……ボクの技術レベルの憑依じゃ『意識の無い者』の心を読み取ることができないネ……意識がなかったり死んでたりする者の情報は読めないアル」
「はやく言え」
「ひぃぃっ! ごめんなさいアルごめんなさいアル!!」

 困ったな、魔物は一匹残らず意識をなくしてしまったぞ。失敗失敗。

 仕方ない、一度町に戻るとするか。
 だもん騎士が何か掴んでるかもしれないし、腹減ったし。

----------------------------

<ムキリョクの町>

「ところで魔物の親玉ってどんな奴だ? いや、やっぱ興味ないからいいや」

 町に入り、骨っ娘が町人から読み取った情報をなんとなく尋ねたがやっぱり興味が無かった事を確認し止めた。

「いいアルかっ?!……本当に掴みどころがなくてわけがわからない人ネ……怖すぎるネ……」
「だもん騎士が何かしら情報を掴んでるだろう、もしかしたらもう見つけて倒しているかもしれないしな」

 いいないいな、そうだったらいいな。
 おいしいご飯においしいご飯、だらだら過ごして眠りたいな。


「ん」

 俺はライトセイバーを取りだし、骨っ娘に向けて振った。

「っ!? ひぃっ!?」
「!!」

 金属が切断されるような音と、切断された金属が地面に転がり落ちるような音がほぼ同時に起きる。

 骨っ娘に攻撃したわけじゃなく、しゃがみこんだ骨っ娘の後ろから襲いかかって剣を振り降ろした町人に向かって降ったのだ。
 ライトセイバーは町人の剣を真っ二つにした。切断された剣の先が地面に落ちてカラカラカラと音を立てた。

 俺は町人の顔にライトセイバーの切っ先を向ける。

「……………えっ?? 何ネ!? 何で町人がボクに向かって……剣を振り降ろしたアルか!?」
「知らん、おい。どういうつもりだ?」

「…………スベテはカノジョのタメに……」

 町人の男は気が狂ったかのように虚ろでありながら殺意を剥き出しにしたような目をしてそう呟いた。
 なるほど、どう見てもこれは操られてるな。

「町人のやる気を奪うだけじゃなく操る事もできるらしい、この魔物は。骨っ娘、お前と同じような『技術』の持ち主だな」
「……精神系技術……魔物がそんな事までできるなんて……けどっ……どうするネ!? 町人が操られてちゃ……下手に手出しできないネ!」

【一流警備兵技術『強制交通誘導』】

 俺は町人の男を吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた町人の男は家屋の壁に激突し、崩壊する壁に埋もれた。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?? 容赦なく吹き飛ばしたアル!? 町人は守るんじゃないネ!?」
「安心しろ、死ぬほどの威力じゃない」
「そういう問題ネ!? 仲間が操られた時は素手でやったのに……」
「操ったのはお前だろ」
「そうだけど……」
「男は多少の傷があった方がいい、女は体に傷を残さない方がいい。それだけの差だ」
「………ボク、イシハラ様に出会い頭に殺されそうになったアル?」
「忘れた」

 さ、それよりもだもん騎士をさっさと捜さないとな。
 あいつの性格上、町民を傷つけられずに捕まったりしてるかもしれないし。






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