131 / 207
二章第一節 一流警備兵イシハラナツイ、借金返済の旅
九十七.リリック
しおりを挟む通り抜ける風がおどろおどろしい音を立てて辺りに鳴り響く。
その音はまるでここに住んでいるという亡霊達が怨嗟(えんさ)の念を生きている者達に伝え、恨みを晴らそうとしているかのようだ。
既に日は暮れているため墓地一帯は闇に包まれ、闇の住人達がいつどこからか現れるとも知れない。
あちこちに建ててある石碑や十字の墓の下には、その住人達の器である遺体があるのだろう。
もしかしたら現世に未練が残るあまりに暗闇から這い出て彷徨っているかもしれない。
ほら、今もあなたの後ろに………
「「い……いやぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「イシハラさんっ! 意地悪しないでくださいっ~!! ぐすっ……」
二人の騎士とムセンの泣き叫ぶ声が荷車の中から聞こえる。
俺は『怖い』という理由で焼き鳥から降りて荷車に隠れただもん騎士の代わりに焼き鳥に乗っていた。
その焼き鳥も『怖い』という理由で目をつむり、俺に誘導を任せる始末。
何だこいつら。
------------------
<シュヴァルトハイム『慰霊墓地』>
木々に囲まれたその墓地は広大で、ここに来てから30分ほどゆっくりとことこ歩いてはいるが未だに同じような景色が続く。
一応墓などは区画されてはいるが、荒れ果てた道や木々などは整備されてはおらず非常に歩きにくい。
『慰霊墓地』とか名がつけられているにも関わらず、荒れ果てている。
「……魔王軍が現れてからこの地の管理が難しくなったと聞いている、そのせいもあるだろう……」
だもん騎士が呟く。まったく、これじゃあ死人も浮かばれないな。
「ぴぃ……けど魔物の気配は感じないっぴよ……」
「魔物達もここには近寄らないのですわ……何でも身体を乗っ取るという悪霊達は魔王軍さえはねのけているとか……」
悪霊って魔物とは別枠なのかよ、面倒くさい。そこは一緒でいいだろもう。
「それからここは手付かずの場所となっているのだ……この先には地下墓地というエリアがあり、そこから河川の向こう側まで行けるらしいが……」
「べ……別のルートはなかったのですか……?」
「あの河川はウルベリオンから続いていてシュヴァルトハイムをほぼ分断しているのですわ……ここ以外には更に上流へ向かって山を越えるルートしかありませんの……そんな大回りをしている時間の猶予はないんではないですの?」
「……確かにそうです……怖いですけど……頑張らなきゃですよね!」
「うむ、悪霊などに恐れを為している場合ではない」
「そうですわよ、まぁわたくしの手にかかれば余裕ですわ。霊魂など樹剣『グリーンセイバー』が退治してくれますわよ」
三人は強気にそう言いながら荷車から出てこない。なんなんだこいつら。
「だったら道案内くらいしろ、暗い上に同じような区画ばかりだから方角もよくわからん。このままじゃここで夜を明かす事になるぞ」
俺は『夜眼(ライト)モード』で道を照らし、マップも使い周囲を確認する。しかし、マップが何故か上手く作動しない。そのせいで周囲の道さえよく確認する事ができない。
まるで霊的な何かに阻(はば)まれているようだ。
「怖い事言わないでくださいっ!……イシハラさんはこういった事も全然平気なのですか……?」
「何がだ?」
「その……霊とかそういった類いのものは……」
「見えた事ないからな。見えないからたとえ霊が隣にいようが後ろにいようがどうでもいい。俺の人生には何も関係ない」
『こっち』
「ん?」
突然、何か声が聞こえた気がする。
「……流石としか言いようがありません……イシハラさんが怖いものなどこの世にあるのでしょうか……?」
「ふっ、見当もつかないな。だが、何かに物怖じするナツイなど想像もできん」
「本当ですわね、ま……まぁ騎士として当たり前の事ですわ」
『こっち、来て……』
「断る」
何か誰かに呼ばれているが無視した。
俺は人が敷いたレールを歩くのが大嫌いなんだ、自分で行きたいところは決める。
『こっちに来い』
「しつこい」
どこから聞こえるんだろうなこの鬱陶しい女の声。ムセン達には聞こえてないのか?
『来ないなら……お前の大事なものを……奪う』
俺の大事なもの? なんだ? 食糧か? 確かにそれは困るな。
じゃあ奪われる前に飯にしよう、そろそろ腹減ったし。
俺は幌(ほろ)を開き、ムセン達に飯にするよう提案する。
「そろそろご飯。ほかほかご飯。幽霊ご飯奪う気許さねぇ、ユーロ五万貰っても渡さねぇ」
俺は何となく思いつきでラップ調で想いを伝えてみた。特に意味はない。
やはり韻を踏むのは難しいな、と思った。
【魔法剣技一級奥技『水翔波斬』】
【緑の騎士+令嬢オリジナル技術『創生(ユグドラシル)』】
------------------------------------------
・騎士についた貴族ツリーの技術。草木を自在に操る事ができる。
------------------------------------------
「おっと」
幌を開いた途端、飲み水と木造りの荷車が斬擊となり俺に襲いかかってきた。
寸でのところだったがそれを避けて俺は荷車から離れる。
そして、俺に攻撃を仕掛けた二人の騎士が荷車から飛び降り俺と向き合った。
今の技術はいうまでもなく、同行している二人の騎士の技術だ。
何があったんだ? ご乱心か?
「お前ら何やってんだ? 俺に攻撃してどうする。腹が減ったのか?だもん騎士、ですわ騎士」
「「……………」」
俺に剣を向けた二人は問いかけに答えず、ただ虚ろな眼をしてボーッとしている。
すると、草葉を掻き分けるような音が横から聞こえた。
「無駄ネ、その二人は既にぼくの操る霊魂に心を乗っ取られたネ」
なんか暗闇の草葉の裏から人間が出てきた。キョンシーみたいなコスプレをした変な女だ。年は17.8歳くらい。
「ぼくは『死霊術師』のリィ・シャンシャン。きみが来ないからいけないネ。久々に人と話すネ。ぼくと話そう?」
女なのにぼくぼく言ってるキョンシーは俺にそう言った。
こーゆーやつの事をなんて言うんだっけ? 地球では○○っ娘とかなんとか言った気がする。
考えるのが面倒なので骨っ娘でいいや。
俺は骨っ娘にライトセイバーをぶん投げた。
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
サモンブレイブ・クロニクル~無能扱いされた少年の異世界無双物語
イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
高校2年の佐々木 暁斗は、クラスメイト達と共に異世界に召還される。
その目的は、魔王を倒す戦力として。
しかし、クラスメイトのみんなが勇者判定されるなかで、暁斗だけは勇者判定されず、無能とされる。
多くのクラスメイトにも見捨てられた暁斗は、唯一見捨てず助けてくれた女子生徒や、暁斗を介抱した魔女と共に異世界生活を送る。
その過程で、暁斗の潜在能力が発揮され、至るところで無双していくお話である。
*この作品はかつてノベルアップ+や小説家になろうに投稿したものの再々リメイクです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる