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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始

■番外編.魔王と勇者 ※【魔王】視点

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 アタシは噂の警備兵【イシハラナツイ】を一目見るためウルベリオン王都に滞在し、情報を集めた。

「イシハラナツイは国の騎士に選ばれて、自分の家と領土を得た。場所は馬車で二日ほど北東に行ったところにあるソース平原奥地ね」

 王都は止む事のない活気に溢れかえっている。
 まったく、今まさにここにアンタ達を滅ぼしうる存在がいるというのに呑気なものね。どいつもこいつもとるにたらない、木っ端な存在に職業。お気楽に生きて、お気楽に仕事して、お気楽に家族を作り、お気楽に死んでいくのね。

(何て忌々しいのかしら。いっそ、今すぐ全員滅してやろうかしらね)

 まぁ今のアタシは十歳かそこらくらいのただの人間に変身してるからわからないでしょうけど。万が一にでもアタシが魔王ってばれちゃったらだるいからね。
 それに面倒だから今この王都を滅ぼすなんて事はしないけど。アタシは前魔王、パパとは違うのよ。

 さ、それよりもさっさとイシハラのもとへ行きましょう。

【魔王技術『四次元法打ち破り(テレポテーション)』】


----------------------------

<騎士イシハラの領地.『炭鉱の町.カッタルイ町』>

「ふぅ」

 高々と構える山脈の麓にある町のような場所にアタシは降り立つ。

 炭鉱の町ね、なんか男臭いというか何というか。
 あちこちから岩を削る音だとか木材を加工するような音が聞こえてきたやかましいわ。町全体が職人と言われるやつらの仕事場みたいになっている感じね。

「な、何だぁ!? ガキがいきなり空から降ってきたぞ!?」

(ん?)

 後ろから変な声がする、テレポテーションで移動したところを見られたのかしら? ま、どーでもいいけど。

「マクア……あんた疲れてんじゃないのん? アタシももうヘトヘトなんだけど……」
「嘘じゃねーって! それに俺の事は今までどおり『勇者』って呼べっつってんだろリィラ!!」
「だってアンタは今勇者じゃないのん……一時『勇者』のステータスと肩書きは封印されてるのん……アタシもだけど……この忌々しい呪いの『技術』を解かないと何もできないのん……」
「わぁーってるよ! だから炭鉱採掘なんて奴隷職の仕事をしてやってんだろ! くそっ! ウルベリオン王……今に見てろよ! ぜってぇ『勇者』の称号を取り戻して復讐してやる……あの警備兵のオッサンにもな!」

 ギャーギャーうるさいやつらね。けど、こいつ勇者とか何とか言ってるけど……本物かしら?

 そんなわけないわよね。なんかみすぼらしい格好してるし、土まみれだし。
 まぁちょうどいいわ、ここに住んでるやつなら自分の町の領主の館がどこにあるかくらい知ってるわよね。

 イシハラは今どこにいるのかこいつらに聞いてみましょうか。

「ねぇ、アンタ達。イシハラナツイっていう騎士が今どこにいるか知らない?」
「あぁ!? 今俺にそのムカつく名前を聞かせるんじゃねえよ! 誰だこのガキ!」
「アンタらに名乗る名前なんかないわ、それより質問に答えなさい。知ってるの? 知らないの?」
「なんてエラそうなガキなのん……マクア、躾してやった方がいいのん!」
「あぁ、普段なら女のガキを痛めつけるような趣味はねぇけど今は疲れて虫の居どころが悪いんだ! 俺が誰だかお仕置きして教えてやらなきゃな!」


【炭鉱作業員技術『力まかせ』】
------------------------------------------
・力仕事系統の作業員が使える技術。素手の攻撃力を2倍にして力任せに殴りかかる。
------------------------------------------

 赤髪の男はお仕置きと称してアタシに殴りかかってきた。

 一体どうなってるの、人間どもの倫理観って。
 見た目十歳かそこらのかよわき少女に普通殴りかかってくる?

 それほどこーゆー職業に就いてるやつらには余裕がないのかしら?
 余裕っていうかモラルの問題か、変に仕事で筋力だけをつけたやつらにありがちな事ね。
 気だけが大きくなって自信だけが先行するのよね、ろくに戦闘技術もないくせに。

 アタシの魔物配下にもいたわね、確か『オーク』とかいう種族だったっけ? 腕力だけはズバ抜けてるからって偉そうにしてるやつが。
 つまり人間も魔物も特性や職業、生き方によって人格が形成されたりねじ曲がったりする。

(なるほどね、多少勉強になったわ)

【魔王技術『全属性を孕む怠惰なる一撃』】

ペチッ

「っ! うわああああああぁぁぁぁぁぁっ…………」

 アタシは赤髪男の攻撃を適当に避け、平手打ちをして赤髪男を吹き飛ばした。
 人間って軽いわね、小突いただけで山の方まで吹っ飛んでったわ。

「ひっ……!? ひぃぃぃぃぃっ!?」

 傍らにいた女は悲鳴をあげて尻餅をついた。
 あーもー面倒くさいわ、好奇心は猫をも殺すって本当ね。キャリアを連れてくるんだったわ……ま、いっか。
 ここらへんを適当に探せば家なんてすぐ見つかるでしょ。

 けど、その前に【魔王】としての仕事も適当にやっておかなきゃね。面倒くさいけど、一応体裁も保たなきゃ。

 アタシは尻餅をついた女に声をかけた。

「ねぇ、アンタ。その『呪い』……解いたげよっか?」
「ひっ……?な、なんなのんっアンタ!?」

「アタシ? アタシ魔王。魔王【サマエル】、よろしく。」




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