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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始

九十一.それぞれの想い、決意

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<ウルベリオン王都.ギルド地区『警備協会』>

「ようこそ警備協会へいらっしゃいましたね、どうぞおかけになって……って誰かと思えばイシハラさんではないですか。どうかされましたかね? もう警備兵として現場復帰されるのですかね? 仕事は山ほどございますので直ぐにでも手配できますが……」

 館を出た翌日、王都に着いた俺はその足で警備協会(かいしゃ)へと直行した。

 道中、ムセンは何かを考え込んでいる様子ではあったがシューズの事については一言も話さなかった。ふむ、珍しいな。
 きっと「シューズさんのところへ行きましょう!」とか「何故なんですかイシハラさんっ!」とか壊れたロボットのように繰り返しわめき散らすと思っていたんだが。
 あいつも大人になったということか。

 ちなみにムセンは王都に着いてから別行動を取っていた。
 『行っておきたい場所がある』とかナントカカントカ。
 止める理由もなかった俺は待ち合わせ時間と場所を決めて、ムセンと別れた。

 警備協会には都合よくアマクダリが一人でいた。
 俺はアマクダリと話す。

「その様子ではどうやら違うようですね、何かあったのでしょうか?保留にされていたわたくしの主人となる件を考えていただけたのですかね?」
「ふむ、当たらずとも遠からず、といったところだ。それに関連した話を聞きに来たんだ」
「……? 何でしょうかね?」

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<ウルベリオン城『執務室』>

「いらっしゃい、イシハラ君。突然どうしたの? 歓迎するけど今は仕事が忙しいから夜にまた話せないかしら?」

 俺は警備協会を発ったその足でそのままウルベリオン城に出向いた。
 城の執務室には宝ジャンヌがいた。

「そんな暇はない、とある国に入るための許可証をくれ。お前なら裏技とか使って直ぐにできるだろ?」
「いきなり来て無茶苦茶言うわね……本来なら手続きに何日もかかるのよ? 急にどうしたのよ。まさか通勤に竜か何かが欲しくなったから竜人達の国に行きたい、とか言い出したりしないわよね?」

 凄いなこいつ、さすが軍師の肩書きを持つだけはある。

「そんなところだ、それで? できるか?」
「………そんなに真剣な顔で言われるとドキッとするわ。ふざけて話してるわけじゃないのね? いいわ、できる限りやってみるわよ。それで? どこの国へ行く気?」

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<貴族区.高台>

 俺は一通りの話を終え、ムセンとの待ち合わせ場所であるいつもの高台へやって来た。

「ふぅ」

 俺はベンチに腰かける。
 結構調べるのやらなんやらに時間を喰ったせいか辺りはもうじきに夕暮れ時になりそうだった。
 何故かここに来る時はいつも夕日の時間帯だな。

「イシハラさん、お待たせしました」

 俺が一息つこうとすると、まるで待ち臨んでいたかのようなタイミングで後ろからムセンの声がした。
 もう用事は済んだのか、と聞こうとして振り返ってみると、そこにはムセンの他に見慣れた顔の二人が立っていた。

「イシハラ、話は聞いたなのよ」
「イシハラ君、お久しぶりですねぇ」

 スズキさんにエミリだ。
 何故こんなところにいるんだ? ムセンの用事ってこれか?

「イシハラさん、お二人にはシューズさんの事をお話ししたんです。シューズさんには申し訳なく思います、けど、きっとお二人も私と同じ想いを抱いてくれると信じていましたから…」
「シューズが何を考えて何も言わずにいなくなったかはアタシには推し量れないなのよ……けど、一人でいなくなる事ないなのよ。まったく、相変わらず何を考えてるかわからないやつなのよ。イシハラと同じで」
「そうですねぇ……シューズ君はきっと何かを一人で抱えこんでしまったのですねぇ……王女様との一件を自分に重ねてしまったのでしょうか、そこから様子が変わったと聞きましたから……」

 スズキさんとエミリは今まであった事の全てをムセンから聞いたようだった。王女エメラルドの件からシューズがおかしくなっていた事、それからいなくなるまでの全てを。

「シューズさんの過去を聞いても、シューズさんがそれで何故突然国へ帰る決断をしたのかはまだわかりません。けれど、これだけはわかります。きっと、誰かに寄り添っていてほしいんだ、と。シューズさんは口には出しませんしマイペースな方ですが……まだ15歳の女の子です。『あんな過去』があった以上、国へ帰る決断をされたのはまさに苦渋の選択だったのではないかって。きっと不安なのではないか、って」

 ムセンがシューズの心情を推察する。
 確かにあの様子じゃあな、思い切り思い詰めたような表情しかしてなかったし。

「イシハラさん、私にはあなたの考えはまだわかりません。けど、イシハラさんが私達の信じる道を行こうとしているのだけはわかります。あなたの口から聞かせてください、これからどこへ向かうのですか?」

「勿論、シューズの故郷へ、だ」

 それを聞いて三人は顔を見合せ、微笑んだ。
 どうやら俺の考えは筒抜けだったようだな、どこで気づいたんだか。

「ふふ、私はイシハラさんを信じていただけです。きっと、シューズさんを見捨てるような真似はしないって。だからお二人にお声をかけたんです、お二人もきっと……シューズさんを助けたいと思って頂けると信じてましたから」
「勿論なのよ。イシハラ、あたしも行くなのよ。足手まといかもしれないけど……あたしもシューズを放っておけないなのよ」
「イシハラ君、私もです。交わした約束を守るためには……シューズ君がいない事には始まりませんから」

 二人は決意した瞳で俺の顔を見据えた。
 なるほど、ムセンは最初からこのために大人しく王都について来たわけか。

「イシハラさんは違うのですか? では、何故わざわざ王都に?」
「俺はシューズの出身国を知らなかったからだ。だからアマクダリに聞いてきた」

 シューズは警備兵試験を受けるためにある程度の個人情報を警備協会に知らせていたはずだからな。
 ウルベリオンには長い事滞在してたみたいだし、いくらこの国だって出自不明のやつをいつまでも置いておくわけがない。
 どこかしらにシューズの出身国の情報が置いてあると踏んで。

「それにこの世界で国を出た事がないからな、システムがよくわからんかったから宝ジャンヌに聞いてきた」

 そこらへんのシステムは面倒だったからよく覚えてないけど、宝ジャンヌには入国に必要な物を即席で用意してもらった。
 今は各国、魔王軍の警戒をしている情勢のため入国が多少面倒になっているらしいがとりあえずはこれで大丈夫だそうだ。

「………それを考えて王都に来られたんですね、……ふふ、やっぱりイシハラさんは素敵な人です……本当に仲間想いで……優しくて……」
「素直じゃなくて気まぐれで考え方が面倒くさくて、が抜けてるなのよ。ムセン」
「ふふっ、私は合った時からわかっていましたよ。イシハラ君は芯の部分では誰よりも人に寄り添える温かい心の持ち主だという事を」

「何をぶつぶつ言ってるんだ? 行くならさっさと行くぞ」

「「「はいっ!(なのよっ!)」」」

 さて、準備も済んだ事だしシューズのところへ行くとするか。


 お金返しにな。
 俺はアイツに借金しているのだ。
 今まで忘れていたわけじゃなかったが、まとまった金が入る前にシューズがいなくなるとは予測できなかった。
 これじゃああいつに借金したままで気持ち悪い。
 借りたものは返す、常識だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

-数時間前-

「シューズさんの出身国を知りたい、ですか?……それがわたくしの話とどう関連しているのですかね……?」
「あの日、俺が破いて弁償した服はシューズが立て替えてくれたからだ。弁償する過程でお前とのややこしい話になったんだ、だから関連しているだろ?」
「……………それは関連しているとは言いませんね。それで、わたくしとの契約のお話は?」
「今忙しいからまた今度」
「…………」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ムセンが決意をした顔つきで言った。

「待っていてくださいシューズさん! みんなで必ずっ……あなたの元へ行って……あなたを悩ませている根源から救ってみせます!」

 俺も決意の顔つきをして思った。

 待ってろよ、シューズ。必ず追い付いて、絶対にお前にお金返してやるからな。






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