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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始

九十.鞄はいらない

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<騎士イシハラの館.イシハラの部屋>

「イシハラさんっ!! 大変ですっ! 起きてくださいっ!!」

 俺が優雅に朝の紅茶を嗜(たしな)んでいると、やかましトラブルメーカーのムセンが部屋に飛び込んできた。
 まったく、相変わらず情緒というものを台無しにするやつだ。

「シューズさんが……シューズさんが書き置きを残して……いなくなってしまったんです!」
「そうか」
「そ……そうかって……何故そんな冷静なんですかっ!?」
「書き置きの内容は『国に帰る』とかそんなんだろう?」
「え……? な……何故わかるんですかっ!?」
「お前が話せと言ったから昨日風呂で話したからだ。帰ると直接聞いたわけじゃないが、なんとなく察した」
「お風呂で!?………いえ! 今は突っ込みませんっ! それよりもっ!! 何故教えてくれなかったのですかっ!? それにっ……何故引き止めてくれなかったのですか!?」
「俺から言う事じゃないだろう、それに何故引き止める必要がある。あいつが何も言わずに帰る事を選択したんならそれがあいつの望みなんだろう」
「そっ………それはっ………でもっ………」
「あいつは何かを思い一人で帰る事を選択した。だったら俺達がお節介なんかやく必要はない」
「…………………イシハラさん……シューズさんから何か……聞いたのではありませんか?」
「聞いたぞ、色々とな。だが、あいつは誰にも言わないでほしいと言った。俺は約束ごとはわりと守る主義だ。だから絶対言わない」
「…………そんな………」

「それよりもだ、通勤竜の件を協力してもらいにアマクダリのところへ向かう。準備しろ」
「………本当に……本当に……それだけ……なんですか……? 本当に……シューズさんの事は……それだけで……終わりなんですか……?」
「しつこい、さっさと準備しろ」


 俺はムセンを部屋に残し、王都に行くための準備を始める。

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 俺は馬車に荷を積み、馬の準備を進める。
 まったく、王都に出向く度に何故こんな大荷物を準備せねばならんのだ。男が出かける時なぞ財布とスマホくらいで充分なのに。

『仕方ないだろ、そんな事言ったって。それより……あたしは本当に行かなくていいの?』

 荷積みを手伝っていたヴァイオレットが俺にいつも通り手に筆談する。

「安全なルートで王都に行くだけだ、必要ないだろ」
『……そうだけど。なにか荷物多くない?』
「腹が減ったんだ、いつもより、俺、食べる」
「………」

 すると屋敷の方から騒がしい足音が聞こえる。

 ふむ、じゃあそろそろ出発するか。

「イシハラさんっ! 待ってくださいっ!!」

 やっぱりやかましい足音の正体はムセンだった。俺はムセンに声をかける。

「準備が済んだなら行くぞ、荷車に乗れ」
「イシハラさん……一つお聞かせください。シューズさんは……大切なお仲間……ですよね?」
「だったら何だ?」
「……いえ、でしたらいいんです。行きましょう」

 何だ、やけに素直になったな。
 どうやらこいつもウテンからシューズの秘密の話を聞いたみたいだな。

「じゃあ行ってくる、留守を任せたぞ」

 俺達はヴァイオレットに声をかけ、王都に向け出発した。



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