上 下
43 / 207
序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始

三十九.銃声

しおりを挟む

〈ブッコロリ森林・奥地〉

「草木だらけです……整備された道は無いのでしょうか……?」
「知らないなのよ……けど……人が住むような森じゃないのよ……たぶんそんな道無いなのよ……」

 ムセンとエミリはぶつくさ言いながらガサガサと草木を掻き分け、懸命についてくる。

「すだれおじさん大丈夫? 髪の毛抜けてない?」
「ひぃ……はぁ……だ、大丈夫ですぅ……」

 その後ろには殿(しんがり)をつとめるシューズとスズキさん。シューズが疲弊した様子のスズキさんの髪を心配している。

「御主人様御主人様! もうすぐ湖畔に着くっぴ! あと1kmほどだっぴよ!」
「鳥、1kmはもうすぐとは言わん。マジめんどい道のりと言うんだ」
「ぴ! 勉強になるっぴ!」

 俺達はエミリの目的兼試験クリア条件でもある『マタゴ花』とやらを見つけるため、森を歩いていた。
 エミリの話によるとその花はこの森の水辺にしか咲かないという面倒くさい花でしかもそれは森の最奥地のネイズマヨ山の麓(ふもと)まで行かないといけないという面倒くささでそこにたどり着くまで徒歩で二時間ほど歩く面倒くささで森が広すぎ面倒くさくて生きるのが面倒くさい。

「イシハラさん! エミリさんの前なのですからあまり面倒面倒言わないで……」
「? 何だ?」
「……なっ、何でもありませんっ!」

 ムセンはエミリの後ろに隠れた。何か様子が変だな、特に温泉を出たあたりから。俺の顔をまともに見ないしすぐにエミリかシューズの後ろに隠れる。

 もしかすると。

 こいつ、成長して霊的な何かを見えるようになったんじゃないか?
しかし怖がりだからまともに見れない。だから誰かの後ろに隠れる。
 そう考えると全ての合点がいく。素晴らしい推理だ。

「そんなわけないなのよ! イシハラは女心を勉強するなのよ! それと思った事をすぐ口に出しすぎなのよ!」

 どうやら間違いだったようだ。まぁどうでもいい、さっさと依頼を果たして帰るとしよう。

「で? その『マタゴ花』ってどんな花なんだ?」
「白い球体の実を咲かせる花です、その実は食用で滋養強壮に良く若返りの効果もあるそうで薬用にも使われていますよ。美肌効果もあるようで……昔はとても希少価値の高い花でした」
「そうなんですか」

 さすがスズキさん、博識だな。しかし話を聞く限りまるっきりそのまま卵だな、マタゴ花。

 卵を想像したら腹が減った。この世界は俺の腹を減らせる事に必死なのだろうか?何かと腹が減る事が多い。その卵花食ってもいいんだろうか。

「そのお花……沢山あるのなら私も一つ頂いてもよろしいのでしょうか……?」

 ムセンが小声で恥ずかしそうに言った。こいつも卵料理が目当てなのだろうか、オムレツでも作ってもらおうか。
 オムレツ、オムツ、パン○ース。

「構わないのではないでしょうか? しかしあまり高値にはなりませんよ? 今では『技術』が発展したせいか……収穫する人もあまりいませんし」
「ムセンちゃん、若返りたいのー?」
「い……いいじゃないですか! 聞かないでください!」
「ぴ! 見えてきたぴよ!」

--------------
----------
-------

〈ブッコロリ森林湖畔〉

「わぁ……わぁっ!……綺麗です…」

 薄暗い森林を抜け出した俺達の視界に久々に開けた空と日の光が飛び込んでくる。ムセンの喜びの通り、確かにそこは異世界に来て一番の綺麗な景色だった。
 『神秘的 湖』で検索すると出てくる景色だ。広い湖の向こう側には山への登山道みたいなのがある。これがマヨネーズ山か、いや、ネイズマヨだっけ?

「わぁ……本当に綺麗なのよ、初めて見たなのよ……こんな綺麗な景色……」
「そうなのか?」
「……うん、あたしは街の外に出る事も滅多にないなのよ……魔物も多いし……お母さんはずっとお仕事してて……お留守番してなきゃいけないから……」
「そうか」

 こんな綺麗な景色が近くにあるのに勿体ないな。

「………お母さんにも……見せたかったなのよ……」
「……エミリさん……」

 何過去形にしてるんだこいつ、死んだのかお母さんとやらは。

「そんなわけないなのよ! 疲れてるだろうけど……元気なのよ!」
「だったら次一緒に来ればいいだろう、馬鹿かお前」
「簡単に言わないでなのよ! お金だってないし……あたし達だけで外に出られるわけないのよ!」
「俺達を呼べばいいだろう」
「…………え?」
「俺達が連れてってやればいいんだろう」
「…………仕事以外でそんな事しないんじゃなかったなのよ?」
「勿論仕事でだ、俺達はこの試験を終えて警備兵になる。警備の仕事には今回のように『身辺警護』というものがある。勝手に依頼しろ」
「………言ったなのよ、払うお金なんてないなのよ……」
「報酬は応相談だ、別に金じゃなくていい。寝床や料理でもな」
「……イシハラ……」
「だからガキはガキらしく綺麗な景色にはしゃいでればいい、お前の母親はお前にそうさせたくて一生懸命働いてるんだ。余計な気を使うんじゃない。ガキなんだから」

 俺はそう言ってエミリの頭に手を乗せた。

「………っ……ガキガキ言うな……なのよっ……ぐすっ……」

 ガキって言われて泣いてるようじゃガキだろうに。

「うーん、たぶんそれで泣いてるんじゃないと思うよイシハラ君」

 じゃあなに泣いてんだこいつ。もしかしたら。

 花粉症か。
 確かに周りは木々だらけだ、ファンタジー世界だから日本にはない花粉があるかもしれない。名推理。

 俺は湖に飛び込んだ。

「「「「!?」」」」

 皆が驚き、呆気にとられたような表情をする。

「いきなり何やってるんですか!?!? イシハラさん!」
「花粉症対策だ」
「意味がわかりません!? せっかく素晴らしい事仰ったのに奇行に走らないでください!!」

「……あは、あははっ……全くなんなのよ……あんたって本当にわけがわからないやつなのよっ……! あははっ」

「! エミリさん……」
「ぐすっ……エミリ君が笑ったの…初めてですねっ……私も娘と重ねてしまって涙が……っ……ぐすっ……」
「イシハラ君ー受け止めてー」

 シューズも水しぶきを上げて湖に飛び込んできて俺に抱きついてきた。こいつも花粉症か、全く厄介なものよな。

「シューズさんまで何してるんですか!? そ……それに抱きつくなんてっ……!」
「ムセン、あんたも同じ事すればいいなのよ」
「え……? で……でも……そんな……抱きつくなんて…………恥ずかしいです……」
「いいなのよ? シューズは見ての通り……自分の気持ちに正直に生きているなのよ?このままじゃ差は開く一方なのよ?」
「なっ……何の差ですか!……………………………………………んっ!」

 ムセンも飛び込んできた、揃いも揃って花粉症か。

「……はぁ……全く世話が焼けるなのよ……」
「エミリ君、君も飛び込んでみてはいかがですか?」
「遠慮しとくなのよキイチ、着替えもないし……あたしはそこまでガキじゃないなのよ」
「………そうですか…」
「………けど」
「?」

「つ……次……お母さんと………みんなと来た時には……やってみても……いいなのよ……っ」
「……!……ふふっ、そうですか」

「ぴぃっ!楽しいっぴ!」

 いつの間にか鳥も湖に入りバシャバシャやっている。俺の右肩にはシューズが掴まり、左肩にはムセンが掴まっている。何でくっついてくるんだこいつら、重くて鬱陶しい。

「け……結構深いんですねこの湖……! しっかり掴んでてくださいイシハラさんっ! んっ!? へっ…………変なところ掴まないでください!」
「イシハラ君ー、お尻に手やっていいよー、……ん……そこ……んん……」
「こんな場所でお二人共何してるんでっ……んっ! イシハラさんっ!そこはだめっ……!」

 耳元でくそやかましい、喚くなら一人で泳がんかい。

「あははっ、まったくあの三人はしょうがないなの」

パァァァァァンッッッ!!


 すると、破裂音と共に何かが倒れたような音がした。その音に驚いた木々に止まっていた鳥達が一斉に空へと逃げていく。


「…………………………………………………え?………エミ……リ……君……?」
「………え…………エミリさぁぁぁぁぁぁっん!!!」


 それは一発の銃声と、その標的となった幼い少女が宙を舞い地面に叩きつけられた音だった。












しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サモンブレイブ・クロニクル~無能扱いされた少年の異世界無双物語

イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
高校2年の佐々木 暁斗は、クラスメイト達と共に異世界に召還される。 その目的は、魔王を倒す戦力として。 しかし、クラスメイトのみんなが勇者判定されるなかで、暁斗だけは勇者判定されず、無能とされる。 多くのクラスメイトにも見捨てられた暁斗は、唯一見捨てず助けてくれた女子生徒や、暁斗を介抱した魔女と共に異世界生活を送る。 その過程で、暁斗の潜在能力が発揮され、至るところで無双していくお話である。 *この作品はかつてノベルアップ+や小説家になろうに投稿したものの再々リメイクです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

処理中です...