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序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始
三十八.レーザービーム
しおりを挟むさて、しかしでか蜘蛛を倒そうにも武器がない。しかも高い天井の巣に張り付いていて届かない、どうしたものか。
もうあの蜘蛛放っておいてみんなで帰るか。全員無事だった事だし。
「だ、だめですイシハラさん! この魔物を放っておいたら人々に危害を加えます! ここで倒しておかないと……っ!」
らしい。まぁ俺はどっちでもいい、流れに任せるだけだ。弱肉強食、やられても面倒だから恨むなよ、でか蜘蛛。
「イシハラさん、これ使ってくださいっ!」
「ん」
パシッ
ムセンが持っていた銃を投げて俺に渡した。SFチックな光線銃だ、やはり銃も男のロマンだな。デザインがイカス。
俺は片手で銃を構え、でか蜘蛛に向ける。銃なんか当然使った事ないし試験の時も銃だけは使用しなかったから扱い方がわからん。これで不発だったりしたら凄くカッコ悪いな。
イジメ、カッコ悪い。
「……毒は効かないのはワカッタワ! けどソレダケでもう勝ったツモリ!? テロリズム様の部隊、中隊長のチカラみせてあげるわ!」
デカ蜘蛛は意味わかんない事を言いながら、さっきよりも速くキモくカサカサ動いた。動きが速すぎて残像で分身が見えるくらい。個人的にゴキブリより蜘蛛の方がキモいと思っている俺は辟易(へきえき)した。
「んん……一体私は……」
「いたた……なのよ……なんか体がねばねばするのよ……なんで……」
「スズさん! エミリさん! 起きましたか! 良かった!」
スズキさんとエミリも目覚めたようだ。
「大丈夫ですか?! スズさん! エミリさん!」
「わー、あの蜘蛛速いよー、分身つくってるし眼で追いきれないかも」
「初めましてだっぴ! スズ様エミリ様! わたしはぴぃだっぴ! よろしくぴ!」
「何なのよこの状況!? 説明してほしいのよ!」
「喰らいなさい! 『アバター・アタックストリングス(四方八方貫きの糸)』!!」
でか蜘蛛は素早い移動をしながら俺に向かって真っ直ぐな糸を飛ばす。周囲四方八方から。まるで糸の雨のように、俺を貫かんとあちこちから鋼のような糸が降り注いだ。
「死になさい!!」
「イシハラさぁんっ!!」
降り注いできた糸の雨は矢のように地面に突き刺さる。まるで弓隊何十人から一斉に攻撃されたようだ。俺は矢の豪雨に呑みこまれた。
「「「イシハラ(君)っ!!!」」」
パラパラパラ……
「何だ?何か用か?」
「「「……ええっ!?」」」
呼ばれたので返事をしたら驚かれた。
人の名を叫んでおいて何か用か聞いたら驚くって一体どんな心境なんだ、わけわからん。
「…………………………………………は? な、ナンデ……立ってるの……? ワ……ワタシの糸は……?」
「避けた」
「…………………………は? ヨケタ……? 何を……言ってるのよ……そんな事できるわけ……」
「わずかに隙間があったからな、そこに立っていた。それだけだ」
警備員になりたての時代は道路に立つ時、危険予測をたてていた。いつ車がすっ飛んできたりするかわからないからな、安全な位置を探したり常にどこからいつ脅威が降りかかるか警戒していた。
いつの間にかそれをボーっとしながらでも出来るようになっていた。感覚で、流れで、何となく。
さすがに俺が死んだ原因である道路の逆走なんてものまでは予測できなかったが、それで学習した。
いつ脅威が来るかなんてわからないんだ、特にこの世界じゃあ。
だらだらしながらでももう周囲の警戒は怠らない。
------------------------------------------◇MEMO
【一流警備兵技術『危険予知【極】』】
・周囲に迫る脅威や危険を事前に知る事ができる。
【一流警備兵技術『フットワーク』】
・瞬時に安全な場所を見極め、脅威を回避する事ができるようにする身体強化技術。
------------------------------------------
デカ蜘蛛は焦燥(しょうそう)しながら更に糸を飛ばしてくる。
「クソッ!! ナンデ当たらないのよっ!!?」
「鬱陶しいやつだな、俺はもう動きたくないんだいい加減にしろ」
「と……飛んでくる糸を全て避けています……イシハラさん………すごいです……」
「ぴ! 御主人様は凄い御方なのだっぴ!」
「んー、凄いなぁ。カッコいいなぁイシハラ君。抱きつきたいなぁ、終わったら頼んでみよー♪」
「ナンデナンデナンデナンデッ!? ワタシはマオウグンテロリズムサマノユウシュウなブカでコンナコトアリエルハズガ」
「いい加減鬱陶しい、もう黙ってろ」
俺は再度銃を構える。なんか銃の先端が光だした、おお、まさに未来の銃っぽい。レーザービームとか出るのか?
銃の先端の光はどんどん大きくなり、眩(まばゆ)いばかりの光の玉となり暗い洞窟をまるで昼間のように明るくした。
「………え?……何ですかあれ……あんなの見た事……! 皆さん! すぐにここから離れましょう! 森まで戻るんです! 急いでください!」
「え!? え!? どうしましたかムセン君!? あの銃がどうかしたのですかっ!?」
「あれは……使用者のエネルギーを弾に替えて発射する銃なんです! 私の場合は回復弾でしたが……通常はレーザービームを放つ攻撃手段なんです! けど……あんなに大きな光を溜めているところなんて見た事もありません! 恐らく……イシハラさんの力が強すぎるんです!」
「それがどうしたなのよムセン!? あの魔物をそれで倒せるんならそれに越した事ないなのよ!?」
でか蜘蛛はまた巣をあちこち動き回る。往生際が悪いやつだ。
「クソッ! ダッタラホカのヤツラを先にミナゴロシにして」
俺はデカ蜘蛛が喋り終える前に引き金を弾いた。
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瞬間、銃口からは予想通りに男のロマンのレーザービームが発射された。あまりにもデカい、まるで戦艦の波動砲みたいなビームは獲物を呑み込まんとビーム特有のブザーみたいな音を鳴らして一瞬でデカ蜘蛛の元まで到達した。
「!!!キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ………」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
洞窟内部にやかましい爆音が鳴り響く。
当たった。
でか蜘蛛は断末魔と共に全て燃え尽きてしまったようだ。凄いなこの銃、洞窟の天井には直径十メートルくらいの円形の穴がポッカリとあいてしまった。
そこから入る星々や衛星の光が幻想的で神々しい。情緒満天だ、今日はここで寝るか。
「寝るか、じゃないですよ! 色々とどうなってるんですか貴方の力は! イシハラさん! いえ! それよりもすぐにここから……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
何か地響きのような音がする。
あ、なるほどな。ムセンは一体さっきから何焦ってんだと思ったがあれだけの振動を起こした上、でかい穴まであけたんだ。
普通に洞窟は崩れ落ちるよな、失敗失敗。やはり慣れない事をするものじゃない、これからは魔物見かけても無視しよう。
「みんな、出口はあっちだ。走れ」
地響きと共に天井部分から岩が落ちてくる。
「きゃあぁぁぁぁっ! みなさん! 急ぎましょう!!」
--------------
----------
------
俺達は全員で洞窟を出た。久しぶりに走った、マジまんじ。
こうして俺達は事を無事一件落着させたのだった。全員無事で何よりだ、さぁ寝るとしよう。
「はぁ……はぁっ……はぁっ……い……一件落着……ですけどもっ……! 助けていただいてっ……ありがとうございますっ……ですけどっ!」
「ZZZzzzz」
「もう寝てます!? お願いですからもう少し何かこう……はぁ……もう……とりあえず解毒、しちゃいますよ? 本当に貴方は自由気ままなんですから……」
「ZZZ」
「はぁっ…はぁっ……まぁまぁムセン君……何はともあれイシハラ君のおかげで助かったのですから……今日はもう寝かせてあげましょう」
「スズさん……そうですね……私達ももう寝ましょう……」
「もう森の中ですし……火を焚いて魔物避けにしましょう。シューズ君お願いできますか?」
「いーよー」
「じゃあぴぃが見張ってるから皆寝るといいぴ!」
「ありがとうございます、ぴぃさん」
ガサッ……
「……?」
「エミリさん? どうかしましたか?」
「……ううん、気のせいだったのよムセン。もう寝るなのよ」
「はい、おやすみなさい」
寝ながら周囲を警戒していたが、どうやらやっと全員寝たようだ。なんか妙な気配を多く感じたがどうでもいいか。いざとなったらすぐに飛び起きれるしな。
それよりも、異世界の夜空を堪能するとしよう。
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