上 下
25 / 207
序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始

二十三.楽したい

しおりを挟む

〈警備兵試験.最終日〉

~地球時間.AM9:00~

「それでは、ただ今より警備兵採用最終試験を始めたいと思いますね」

 はぁ、たっぷり寝た。おおよそ10時間は寝たな、満足とても満足。
 試験場には俺達四人と副試験官アマクダリがいる、ついにハゲはクビになったか。もう出てこなくていい。

「本来ならばマルボウが最終試験につく予定だったのですがね……事情が変わりましてワタクシが最終試験も勤めさせて頂きますね。あ、ちなみに昨夜も言いましたがイシハラさんはこの試験に通過しようがしまいがワタクシの主人となり……竜人族の長になってもらいますのでそのつもりで」

 そうだ、昨晩帰ってきてからこいつに服を渡しに行ったら色々と面倒な事が起きた。まぁどうでもいい事だから気にしないでおこう。

「いやいや!……ええっ!? 一体何があったらそんな事になるんですか!? 帰ってきてから私達が知らない間に何があったんですか!?」
「他愛なき事」
「どう考えてもあるでしょう!? 何で日常の合間に起きたちょっとした出来事風に片付けようとしてるんですか!!」
「えー、イシハラ君はアタシの旦那様になるんだからだめだよー」
「シューズさんはちょっと黙っていてください! まずはこっちを片付けますから!」
「それでは皆様、最終試験の前に……こちらをお渡ししておきます」

 皆の前にアマクダリがそれぞれ武器を置いた。ふむ、どうやら皆の適性武器のようだ。そういえば適性武器は配布されるとか言っていたな。

「いえ、あのっ! それよりもっ!」
「うるさいぞムセン、子供じゃないんだから武器くらいではしゃぐんじゃない」
「違いますっ! もうっ! 試験が終わったらちゃんと説明してくださいよ!?」

 何をだよ。
 シューズには何かカッコいい杖、スズキさんには鋼造りのようなイカす盾、俺にはごく普通っぽい剣が配られた。

「ムセンさんは既に使い慣れた武器があるようなので試験はそちらで行って頂いて構いません。装填補充するものがあればこちらで用意させて頂きますがね」
「あ、いえ大丈夫です」

 という事は最終試験は武器を使用する内容ってことだな。

「では皆様、『簡単な試験』か『難しい試験』かお選びください。相談して皆で決めて頂いて構いませんのでね。選択した方を全員で受けて頂きますので」
「「「…………………え?」」」

 アマクダリの言葉を聞いた皆の目が点になった。しかし、アマクダリはその言葉の意味を解説する気はないようで皆の選択を待っている。

「………どういう事でしょうか?……『簡単』か『難しい』って……私達が決めていいんでしょうか……もしかしたらこの選択も審査の対象になるという事なのでしょうか……」
「わかりませぇん……しかし『簡単』な方を選ぶのはあまり心象が良くない気がしますね……」

 ムセンとスズキさんはひそひそと相談をしている。

「イシハラさん、シューズさん、お二人はどう思いますか?」
「んー? アタシはどっちでもいいよ? イシハラ君についていくだけだから」
「……そうですね……全員で選択してもいいんでしたら……私はイシハラさんの選択にお任せしたいです。恐らくあなたの選択ならば間違いはないでしょうから……」
「……えぇ、私も同意です。イシハラ君の選択に私もついていきますよ」
「……というわけでイシハラさんが決めてください、私達はそれに従います」

 ふむ、確かに普通なら『簡単』を選ぶに決まっている。しかしそれが罠という事もありえる、無料より高いものはないというしな。漫画とかでもよくある事だ、楽なコースを選んだやつは大抵が酷い目に合ってきついコースを選んだやつが正解で強くなれるみたいな。
 そう考えると『難しい』を選ぶのも一つの選択肢。何より俺の選択次第で皆が試験を通過できるかどうかの瀬戸際。安易に選ぶわけにはいかないな……むむむ、どうしたものかーー

 ーーなんて事を俺が考えると思ったのか? こいつら。
 俺は躊躇なくアマクダリに言った。

「簡単な方」
「………『簡単』な方ですね、わかりました。しばしお待ち下さいね」

 俺の答えを聞いたアマクダリはそのまま出て行った。なんだ? トイレにでも行ったのか?

「イシハラさん、ちなみに何故簡単な方を選択されたのですか?」

 ムセンが俺に問う、何故もくそもあるかい。

「楽な方がいいに決まっているからだ」
「………この選択の裏にある真意を読み取って………とかじゃないですよね?」
「そんなん知るかい、ただ楽したいからだ」
「…………そこはカッコよく『難しい試験の方が成長できるから難しい方を選ぶに決まってる』とか言って下さい……あなたに任せた私達が何も言う権利はありませんけど……」

 そんな苦労誰がするか。俺の事を実は心は熱い漫画の主人公みたいなキャラだと思っているのか?
 残念、俺はただ楽して生きたいだけの平凡な一般人でした。

 アマクダリが戻ってきたのか扉が開く。

「お待たせしましたね、では……こちらが依頼人のエミリさんです」
「は、初めましてなのよ、あたしはエミリなのよ。光栄に思うがいいのよ、特別にあなた達を雇ってあげるなのよ」

 戻ってきたアマクダリに連れられてなんかクソガキが入ってきた。
 金髪ツインテール、顔は可愛らしいが目つきは悪く生意気そうだ。見た感じ6、7歳くらいか? なんだこいつ。

「わぁ、可愛いです! どうしたのかな? 迷子さんなのかな?」

 なんかムセンがクソガキを見てはしゃぎだした。こいつも何なんだ。

「ば、馬鹿にするななのよ! あたしがあなた達を雇うと言ったなのよ! つまりあたしが上なのよ!」
「うんうん、そうなのかぁ。じゃあ私はエミリさんの下なんだねぇ、でもお姉さん達は今試験中なんだ。終わったら遊んであげるからねー?」
「だ、誰か説明してあげてなのよ! この人話聞いていないなのよ!」

 なんだこの茶番。

「ムセンさん、話を聞いてくださいね」
「……はっ! す、すみません……私……子供と触れ合う機会があまりありませんでしたので……はしゃいでしまって……続けてください……」
「はい、それでは最終試験の内容を発表させて頂きます。最終試験は実際に警備にあたって頂きます、警備するものは依頼人の彼女【エミリ】さん。彼女は魔物の巣窟になっている山林にある『とある植物』を所望しておりますね。エミリさんがその植物を手に入れ、街へ戻るまでの間……あなた達四人でエミリさんを警備して頂きます。つまりは『身辺警護(ボディーガード)』ですね」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

一般職アクセサリーショップが万能すぎるせいで、貴族のお嬢様が嫁いできた!〜勇者や賢者なんていりません。アクセサリーを一つ下さい〜

茄子の皮
ファンタジー
10歳の男の子エルジュは、天職の儀式で一般職【アクセサリーショップ】を授かる。街のダンジョンで稼ぐ冒険者の父カイルの助けになるべく、スキルアップを目指すが、街全体を巻き込む事態に? エルジュが天職【アクセサリーショップ】で進む冒険物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...