2 / 207
序章第一節 警備員 石原鳴月維、異世界に上番しました。
二.異世界オルス
しおりを挟む--------------
----------
-------
「召喚の儀、成功致しました」
目覚めた時、最初に耳にしたのはそんな言葉だった。
俺は…………あぁ、逆走してきたバカ野郎に轢(ひ)かれたのか。
どうやらまだ生きてたらしい、よかったよかった。これでまだ俺のぐーたらライフは続けられそうだ。
手足を動かしてみる、感覚はまだ残ってる。
五体満足だったか、結構丈夫なんだな俺。だけど……視界がまだボヤけているな。何か薄暗いけどここは病院じゃないのか?
しかも召喚の儀ってなんだよ、「手術成功しました」とかじゃないのか? 手術してもらっておいてなんだが中二病全開か。
そんな事を考えながらはっきりしてきた視界が捉えたものは……間違いなく医者や病院じゃなかった。
----------------------------
◇
〈ウルベリオン城敷地内、教会第二聖堂「儀式の間」〉
そこは海外の教会みたいな内装の広い聖堂。
でかいステンドグラスに周りを囲まれているが何故か薄暗い。祭壇の上空には魔法陣みたいなのに囲まれた綺麗な水晶みたいなものが宙に浮いている、なにそれどんな技術?
その下には聖職者って感じの白い髪の美人がいる。こいつが召喚の儀とか中二病発言をしたやつらしい。
「おお、成功したか。よくぞ来てくれた、三人の戦士達よ」
次に声を発したのは見るからに王様って感じのおっさん。王冠、長髪、髭、装飾された偉そうな服にマント。今の時代にTHE王様って感じの格好してるやつ初めて見た、コスプレでも今日びやらないだろ普通。
おっさんの王様の横には若い青年と若い女性二名。こっちも何か剣とか盾とか杖とか持ってゲームのキャラクターみたいな格好で偉そうにしてる、何だここは。ファンタジー系のコスプレ会場か?
何で俺がそんな場所に。
辺りを見回すと鎧を着た兵士みたいなのがズラッと並んでいる。
「………え?」
「おいおい、何だここ?」
両隣から声が発せられる。
俺の両隣にはきょとん顔した全身タイツの宇宙ロボットのパイロットみたいな格好した少女と、野武士みたいな格好をした茶髪長髪のチャラ男みたいな青年がいた。ちなみに俺は警備員の制服のままだ。
パイロット、野武士、警備員。どんな組み合わせだ。
こいつらは俺と同じで状況を理解していないようだ。俺達三人は王様や兵士達に囲まれ皆の視線を集めている。
「ふむ、大神官よ。説明してやってくれ」
「仰せのままに」
偉そうなおっさん王に言われ聖職者っぽい大神官とやらが話し始める。
「あなた達は元の世界で死亡した事により召喚の儀によって別の世界からこの世界『オルス』へ転移してきたのです」
自己紹介も何もなく、大神官とやらは要点だけをかいつまんで説明し始める。
俺達はとりあえず口を挟まず大人しく聞いた。
どうやらこういう事らしい。
1.この世界は『オルス』とかいう設定で魔王とか配下の魔物とかがいてヤバい。
2.魔王軍は桁外れの強さでこのままじゃ世界がヤバい。
3.そのため世界を救う『天職』の勇者に魔王討伐の旅に出てもらっているが同行する仲間が魔物に太刀打ちできず人手不足でヤバい。
4.そこで最新技術により別世界で死んだ者を召喚し、勇者一行の仲間を集った、ヤバい。
------------------------------------------
☆MEMO.『天職』『適職』
その人に最も合う職業。
『天職』はその職業に就く事が運命とされるくらいにその職業に適した才能がある事。
『適職』はその職業に就けば輝かしい成果を残す事ができるくらいの才能。
大体の人間には『適職』の才があるが、『天職』の才能を持つ者は稀である。
------------------------------------------
5.ちなみにこの召喚は『聖職石』1000個分のレア度の低い召喚らしく、更に上位の者を召喚するには10000個分必要とか無駄な情報も聞いた。
この情報でわかるのは俺はどうやらヤバい妄想連中に拉致されたって事だけだ、どうやって逃げよっかな。
「……どうやら……この三名で『天職』の才を持つ者は一名だけ、他二名は『適職』止まりのようです」
「かぁ~っ、マジかよ」
「だから言ったのん、後7000個集めて一人使えるの召喚した方がいいってん」
「かったりーよ、3000個集めた時点で十分飽きてんだよもう」
おっさん王様の隣で若い男女が言い合いを始める。どうやらあれが『天職』の勇者とその仲間らしい。
「御三方、状況は理解できましたでしょうか?」
「はい、わかりました」
俺は真っ先に返事した。
「……お前……こんなわけわかんねー話信じんの?」
なんか野武士のチャラ男がヒソヒソ話しかけてきた。
「いいや? とりあえず適当に話合わせてさっさと帰ろうかなって」
「お前……天才かよ……」
「ぐすっ……ここどこなんですか……」
どうやら召喚された(設定)の俺含めた三人は全然話を飲み込んでいないらしい。当たり前だな、早く帰りたい。
そんな俺らを無視して、大神官と勇者とやらは話しを続ける。
「それで? どいつなんだよ? あの変な格好だけど可愛い子がいいな、そうだろ?」
「『天職』の才を持つ者は……中央にいる【イシハラ・ナツイ】様です」
俺の名前を呼ばれた。個人情報まで抜き取られたのか、ま、困る事なんか何もないからどうでもいいけど。
「マジかよ、あのおっさんかよ。んで何の職の『天職』なんだ?」
えらそうな勇者がえらくガッカリしている。俺はとなりのチャラ男と少女に声をかけてみた。
「突然だが自己紹介をしよう。俺は石原鳴月維、年齢は34だ」
「本当に突然だな!? しかも結構歳いってんな!? 二十代かと思ったぜ……って今はそんなんどうでもいいよ!」
「え、えっと……とりあえず話を聞きませんか……?」
チャラ男と少女に話を制された。ふむ、何か発表するらしいから黙って聞くか。
皆は大神官とやらの言葉を固唾(かたず)を飲んで見守っている。
そして大神官とやらは勇者とやらの質問に答えた。
「【イシハラ】様の『天性』は……【警備兵】でございます」
「「「「……………………」」」」
少しの間が空いた後、周囲から一斉に笑いが起こった。
「け、警備兵って! あの!? 給金も低いいてもいなくてもいいあの!?」
「そんなのが『天職』なんてこりゃあいい! 酒の席の面白ぇ肴(さかな)ができたぜ! つーか警備兵に『天職』なんかあったのかよ!」
「大体囮くらいにしか使い物にならない職業だからな、勇者様達には気の毒だが……大外れだな」
周りにいる兵士が口を揃えて嘲笑する。兵士の格好してるけどこいつらは警備兵じゃないのか?
「ほ~らだから言ったのん。この召喚でろくなの出た試しないんだからん」
「うっせぇな! わあったよ! 今度はもっと集めりゃいいんだろ! おい神官! 天職だろうか警備兵なんざいらねぇよ! 今回はナシだ!」
周囲からの嘲笑が止まない中、俺は思った。
腹へった……今すごくハンバーガーが食べたい。
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
サモンブレイブ・クロニクル~無能扱いされた少年の異世界無双物語
イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
高校2年の佐々木 暁斗は、クラスメイト達と共に異世界に召還される。
その目的は、魔王を倒す戦力として。
しかし、クラスメイトのみんなが勇者判定されるなかで、暁斗だけは勇者判定されず、無能とされる。
多くのクラスメイトにも見捨てられた暁斗は、唯一見捨てず助けてくれた女子生徒や、暁斗を介抱した魔女と共に異世界生活を送る。
その過程で、暁斗の潜在能力が発揮され、至るところで無双していくお話である。
*この作品はかつてノベルアップ+や小説家になろうに投稿したものの再々リメイクです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる