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第二章 楽園クラフトと最初の標的
#045.SSS迷宮【黒耀石の尖塔】へ入ろう③
しおりを挟む【ネイア】に【リン】、二人はそう名乗った。
「礼なんかいい、さっきも言ったが余計な世話に過ぎなかっただろ」
「いえ、そのような事はありません。見知らぬ土地での無用なトラブル……度しがたい不届き者達に卑劣な要求をされ……怒りと猜疑心に苛まれそうなところに貴方が差しのべてくれたその手は私達にとって救いになりました。ありがとうございました」
綺麗且つ幼さの残る顔立ちながら、どこか芯の通っていそうな揺らがぬ瞳を携えたネイアは律儀に頭を下げる。礼儀作法や言葉遣いの雰囲気を見ると一介の冒険者とは思えない、まるで王族のそれだ。
マインも連(つら)れてお辞儀をする、イルナは何故か口元を手で隠し……様子を静観していた。
(この二人がお礼しに来たとわかっていてわざと招いたのか……どうせ面白がっているんだろうが……まぁ、嘘を見抜けるイルナが何も言わないってことはこの二人に疚(やま)しいところは無いということだ……)
だからと言って、引き合わされたところでそれが俺達の利益になるとは思えないーーむしろ手間が増えるだけだろうと考えていると、それを見透かすように……宿屋で騒いでいた訛りの女【リン】も続いて礼を言った。
「まぁ……せやね。可愛い女の子の二人旅、不埒な蛮族達に囲まれたところに颯爽と手を貸してくれる王子様っ! てシチュはウチもキュンキュンしたわ、おおきにな。あんたらも審査のために町に来てんねやろ?」
「……それ以外にあるか?」
「んふ、情に厚いのかと思ったけどクールやね。安心しいや、ウチらは少なくともあんたらとはもう敵対せえへんよ。どころか素晴らしい提案があるんやけど、な?」
口角を吊り上げ、腰に手を当てニヤニヤしながらリンは言った。容姿で判断するわけではないが、活発でいて強気ーー奔放でありながら何処かに刺(とげ)を持っていそうな人物像は見た目そのままだ。
「……『パーティーを組む』という提案なら却下だ。こっちには何のメリットもない」
「ふっふ~ん♪ ところが大アリなんやな~……ウチらと組めば必ず【塔】への審査が通るんや、詳しくはまだ言えへんけど……宿がないのはあんたらも同じやろ? やったら……」
「必要ないと言っている」
ただ一言、そう言って会話に幕を引く。
こいつらが何者かなんてのも興味が無い、パーティーを組むなんて尚のこと論外だ。
(正攻法で塔に入るわけじゃない俺らにとっては邪魔になるだけーーそもそもこれ以上の人手は必要ない)
パーティーを組むとなれば必然ーー【箱庭】の能力を知られる事になる。二人がどれだけ有益な情報を持っていようが実力者だろうがそのリスクには見合わない。
そう考え、二人を意識の外へ見切ろうとするとこれまで静観していたイルナが俺にだけ聞こえるように耳元で呟いた。
「いいのかな? ライン。この二人は恐らく……今後、君にとって必要な人材になる」
「……得意の未来予測か? お前の魔術は予測はできても予知まではできないんじゃなかったのか?」
「ふふ、これは魔術なんかじゃないさ。単なる年功者による予見ーー老婆心というやつだ」
「…………根拠は?」
「一言だけ告げるならば……私がこの二人を知っているから、とだけ言っておくよ」
イルナはそれだけを俺に告げて再び傍観者となる。肝心な事を告げずに座興するクセはどうやら俺にとっても諸刃に働くようだ。
(これ程までにしつこく引き留めようとしているのはきっと何か理由があるんだろう……マインが信じたイルナを信用すると言ったばかりだが……)
かつて、奴等達(パーティー)に殺されかけた記憶がフラッシュバックする。
本当ならば、再度パーティーを結成して仲間を信用するなどあってはならない愚行。時間をかけ、絶対の信頼を置いたマイン以外は誰も信用しない筈だった。少なくとも【ライン・ハコザキ】でいる内は。
だが、人の根幹は中々変えられない。本来の自分ーー封じたはずの【ソウル・サンド】が時折……顔を覗かせる。果たして良い事か悪い事か。
「そんな冷たいこと言わんといてぇなぁ~……ほんまに良い話なんやから~、なぁ~」
「…………わかった、話くらいは聞いてやる。ただし、こちらに関しての情報は一切教えるつもりはないぞ」
「ほんま!? 全然ええよ! せやったらまずは休息処を探しに行かな! こんな場所で長話しとったら茹だってまうさかい」
「その必要はない、ここで30分ほど待ってろ」
「「……?」」
呆ける二人をマインとイルナに任せ、俺は仮宿制作のために隠れながら【箱庭】を使った。
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〈砂漠地帯 地下〉
「わぁ……」
「し……信じられへん……」
【箱庭】で拠点を造ったのち、皆を招く。
制作したのは箱家ではなく、地下までの『不自然ではない道』だ。
砂漠地帯では水を汲める井戸水源があることが町を造る上での絶対条件。ならば、周囲からの雨水確保のために水路が張り巡らされていると考え【土魔】により探査した結果ーーアタリだった。
地下には人工的に造られた水路が存在し、更には水路作成のために設けられたであろう廃棄された拠点も見つかったのだ。
あとはそこへ行くための安全なルートを【箱庭】で掘り進め整備をすればーー快適な『地下宿』の完成というわけだ。
「ふふ、成程。確かにこれならば家を造るよりも不自然ではない、当初からこれを考えていたのかい?」
「あぁ、お前のせいで入口を造るだけじゃなく偽装工作までする羽目になったけどな」
「それが先ほど通ってきた長い梯子や生活感のあるベッドや家具というわけか。私も話を聞くまで君が手を加えたものだと思いもしなかったよーーふふ、面白いよライン」
とにかくこれなら【箱庭】という奇術を使ったとは知られず、単に地下への入口を知っていたと言う偽装話も通じるだろう。現に両名とも疑っている様子はない、目を輝かせて気が和らいだといった面持ちだ。
まったく、余計な手間をかけられたものだ。
「それで? 結局二人は何者なんだ? 少なくともリンは単なる冒険者にしか見えないし……ネイアは良い出自の令嬢って感じもするけど」
「ふふ、それは本人達に訪ねてみるといい。きっと話してくれるはずさ」
すると、訪ねるまでもなく……ネイアが意を決した表情で打ち明けた。いや、それ以前に……外套を解いたネイアの首下に見える装飾品ーーそこに刻まれた紋様に見覚えがあった事により理解する。
ネイアは【バットランド大国】の人間ーーそれも普通の身の上ではない。その紋様は王家のそれだった。
「やはり、快くしてくださった御方に素性を隠すのは血に反します。偽称して申し訳ありません。私はバットランド国の第一王女【ネレイス・アラクア・ミズ・バットランド】と申します。以後お見知り置き下さい、ライン様」
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