26 / 76
第一章 箱使いの悪魔
#010.■ギルドに入ろう④『レベル0』
しおりを挟む「「「「……………………………………え?」」」」
ギルド内に、大勢の気の抜けたような、それでいて天地が逆さになったかのような矛盾を孕む表情が溢れ返る。
かくいうソウルもその中の一人だった。
当事者でありながら何が起きたか理解できないでいた。
唯一、こうなる事を知っていたかのように……このギルドの頭領であるイルナは不敵な笑みを雫(こぼ)す。
ソウル、マイン、イルナ、ルルリラ、酔っぱらい達はそれぞれがそれぞれ違った意味で、違った場所に視線を傾けていた。
「……え……うそ……?……ラ……ラインさんが手を入れたら……こっ……壊れちゃいました……『EX古代遺物(レジェンダリ)』が……!!」
ソウルとルルリラの視線の先は同じだった。
ランクEX(国宝級)の価値を持つ古代遺物、【真実の咆口】。
それがソウルがステータスを計ろうと手を挿入(いれ)た瞬間、まるで生命を宿したかのように震え……間もなく魔法陣を展開して粉々に砕け散ってしまった。
正確に言えば、爆散したのだ。
獅子を象ったレリーフは最早、何の生物であったのかわからない程に跡形もなくただの破片となり室内に散らばっている。
(……一体何が起きた……!? 攻撃でも受けたのか!?)
そう思い、ソウル周囲を見回す。
呆(ほう)け、唖然としていた酔っぱらい達の中に古代の特殊な造りである古代遺物を壊すほどの実力者がいるとは思えなかった。
警戒は怠っていなかった、こちらへ悪意が向けばすぐにわかる。そもそもが古代遺物を破壊するなんて芸当ができそうなのはこの場では自身を除けばイルナくらいしかいなかったが……彼女がそんな事をする必要性はないと混乱の一途を辿る。
「ど……ど……どうしましょう!? イルナ様っ! レジェンダリアイテムを壊したなんて知れたら……」
ルルリラは慌てふためいて半泣きで破片を集めている。しかし、責任者であるはずのイルナはギルド室内の一点……カウンター横にある吹き抜けの二階通路へ続く中央階段のステンドグラスをただ見つめていた。
マインも、そして集まった酔っぱらい達の視線も同じ箇所に注がれている。
「……ふっ……ふふふふっ! どうやら君の勝ちのようだ。ようこそ、魔術師と冒険者連盟『エレクトロ・ブレイブ』へ。歓迎するよ、ライン、マイン」
イルナは笑いながらソウルとマインに向かってそう高らかに言い放った。
すぐにソウルはステンドグラスの更に上方を視界に捉えた。
そこには測定された彼のステータスがギルドの壁に刻まれていた。
------------------------------------------
【ライン・ハコザキ】
・LV 0
・称号『魔術師連盟 魔術師』『冒険者連盟 冒険者』
・階級 『石』
・体力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
・腕力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
・知力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『SSS』
・防力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『SSS』
・マナ総量 測定不能
・魔想導力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
------------------------------------------
「………………………は?」
色々とおかしな事だらけで何から突っ込んでいいのかわからないソウルは言葉を失った。
何故、古代遺物は突然壊れてあのような場所に人のステータスを投影したのか。
そして今まで見た事も聞いた事もない『LV』や『マナ総量』の値……【0】や【測定不能】とは一体どういう事なのか。
何よりも疑問だったのは……ステータスの値。ソウルの記憶にある【白銀の羽根】幹部メンバーと遜色のない値……それが彼の能力値として算出されていこと。
数々押し寄せる疑問をよそに、マインは驚いた表情を首を振って払い、微笑みながら言った。
「マインは驚きません、何故なら」
「ラインさんっ!! やはり貴方は高名なる魔術師様だったのですねっ!! 凄いですっ!! イルナ様より能力値が高い方を初めて見ました私っ!!」
マインの言葉を遮(さえぎ)り、ルルリラは大げさに目を輝かせながらソウルの腕に絡み付いた。
さっきまでは半泣きで破片をかき集めていたというのに一転して憧憬の眼差しを向け、柔らかい身体をソウルに押し付けた。
すると、マインから殺気が放たれる。
「ルルリラさんラインさんが勝ったら何でもするって言いましたよね? 早速権限を行使しますラインさんに必要以上に近付かないでくださいマインが許しません離れてくださいそして二度と同じ事をしないでください次やったらあなたは死にます」
「ええっ!? 死ぬんですかぁっ!? ごめんなさいっ!」
マインにまくし立てられてルルリラはソウルから離れた。
きっと必要以上に俺に近付く者を警戒してくれたのだろう、まぁ何はともあれ……これでギルド『エレクトロ・ブレイブ』の一員となり身分が確立されたわけだ──とひとまずソウルは安堵する。
「さぁ、勝負は終わりだ。貴様達はとっとと去るがいい、尚、今回の反省を踏まえてここを酒場として部外者の貴様らに開放するのはもう止めにしよう。もともと素行の悪い貴様らのような輩を私の管理下に置くために町長と講じた策だった。だが、私にも我慢の限界がある。貴様ら帝国ギルド【斧銀】は今後この町への一切の利用を禁ずる、頭領【ハドナー】にもそう言っておけ」
イルナは酔っぱらい達に、悠然と構えて言い放った──まるで挑発するかのように。
そのような態度を見せれば、酔っぱらい達がどんな行動を取るか、わかっていながら敢えてそうしたかのように。
そして予想通りに、酔っぱらい達は苦虫を噛み潰したような表情を滲ませながら武器を手に取った。
「うるせえっ!! ここでてめえらを力尽くで従わせちまえばいいだけの話だろうが!! 野郎共!! 出入口を塞いで取り囲んじまえ!!」
先程ステータス判定をした大男が声を荒げると、周囲の男達が一斉にソウル達四人を取り囲んだ。そんな状況と化して尚、イルナはまたしても不敵に笑い、挑発する。
「ふむ、その勇気だけは賞賛しよう。まさかあのステータスを見て私とラインに戦闘を仕掛けようとは……いや、単に実力差を理解していないだけか。ラインの言う通り……魔獣ほどの知性しか持ち合わせていないようだ」
「はっ!! あんな虚偽のステータスなんか信じるわけねえだろ!! それにこの狭い空間ならどんな魔術師だろうが一捻りだぜ!!? 」
酔っぱらい達はソウルのステータス結果を偽装か何かだと思っているようだった。
確かに気持ちはわからなくもない、俺自身あんな能力値が宿っているとは信じ難い──とソウルも苦笑いを浮かべる。
「ふ、では仕方あるまい。能力値に裏打ちされたその力を披露して魅せようか。ライン、君の力も是非見せて欲しい」
「…………なはは、お前こうなる事を初めから知ってたな? そして誘導した」
「ふふ、終わったら全て話すよ。勿論、礼もする」
「当然だ。まぁ、これからこのギルドを利用させてもらうんだ。お互い様に利用されてやる。よろしくなイルナ」
「こちらこそ、ライン」
ソウル達は不敵に笑い合い、並び、剣を構えた。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
異界の師、弟子の世界に転生する
猫狐
ファンタジー
イシュリア皇国。その守護者として君臨する者がいた。
守護者は圧倒的な力を持ち、国が異界から攻められれば即座にはじき返す程の力を持っていた。
しかし、その守護者にも師匠がいた。
昔攻め入ったとある部屋にぽつんと寝ていた青年に何も出来ず、その強さに弟子入りした。
しかし修行し元の国の守護者となるまで強くなるも、遂に師匠を超えることなく、師匠は病で命が絶たれてしまった。
願わくば師匠が自分の世界にて転生し、今度は無事に暮らせるように。
その願いは聞き届けられた。
※この作品は同じ名前で小説家になろう様にも掲載しています
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる