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第一章 箱使いの悪魔
#006.■ギルドに入ろう
しおりを挟む◇〈ソウルの仮宿〉→→〈宿場町カルデア〉
ソウルとマインは仮宿を出て半日後に街道沿いにある宿場町である『カルデア』に到着した。
町の周辺には魔獣の棲息地である洞窟や廃炭鉱、森林や狩り場が多いために冒険者や魔術師のような格好をした面々があちこちにいて賑わいを見せている。
酒場や娼館、鍛冶場や武具を扱う店が所狭しと軒(のき)を連ねていた。
ここでなら身分紋章も手に入るし財宝の売買も出来るだろう──なにかを始めるのにうってつけの町だとソウルは胸を高鳴らせる。
「ソウル様、まずはギルドということですが『冒険者連盟(ギルド)』と『魔術師連盟(ギルド)』どちらへ向かわれるのですか?」
「どちらでも構わないが……せっかくマインが魔法を覚えたんだ。始めは『魔術師ギルド』にしようか」
ギルドとは国の管理下にある、一点の目標を共にする同志の集いである。
『冒険者連盟』であればその名の通り、世界各地の未開地の探索、ダンジョンの攻略、魔獣の発見、掃討など行い……それらの情報を共有する。一人では難しい冒険も連盟に加入すれば同志を募る事も容易──といった形で国の発展や防衛等に『連盟(ギルド)』とは一役も二役も買っているのだ。
功績や戦果をあげるなどして国に名を知られた者のみが【連盟の長(ギルドマスター)】として街でギルドを創設、運営する事が認められている。
国が処理しきれない問題(クエスト)を肩代わりしたり、有事の際にはギルドから選抜された者が戦争に加わる事もある……要するに国の下部組織のようなものである。
その代わりにギルドは魔獣の毛皮等の素材や各地で得た財宝などの希少品等を独自に資金源として国の認可を通さずに各自得る事を認められていた。
国の兵士や騎士達の管轄している土地であろうとギルド員の身分紋章さえあれば立入も許可される。
厳密に言えば……ギルドとギルド員には階級(ランク)というものが存在しており、上位のランカーでなければあまり自由にできる事は少ないが……それでもギルド紋章があるのとないのでは差は歴然なのだ。
(俺は魔法は苦手なんだけど……結局ネザーでも剣術ばかりで魔術鍛錬は一切しなかったし……まぁでもマインが初めてギルドに入るんだ。マインの得意分野を伸ばした方がいい、俺には『箱庭』があるしな。それにギルドは兼任できる、後で冒険者ギルドに加入してもいいだろう)
冒険者ギルドに入れば『白銀の羽根』の情報も掴みやすいとは思うがそんなに焦る必要もない──それよりもこれを機に魔法を少しでも習得した方がいいかもしれない、剣術、体術、魔術……全ての力を『箱庭』と組み合わせて応用すれば戦術の幅が更に広がるとソウルは現況を冷静に鑑(かんが)みた。
(けど……どうにも魔術は苦手なんだよなぁ……体内のマナを練るのも術式をイメージするのも俺には向いてないらしい)
人には向き不向きがある、それはどんな分野であろうと同じ事だ──と、前向きに考えてみるものの自分は元々どんな事でも苦手だったと少し落ち込んだ。
すると、それをすぐに察したかのようにマインはソウルに言った。
「ソウル様。ネザーで鍛錬を積んでソウル様は独自で剣術を会得したではないですか。それにソウル様には唯一無二の術を既に会得しています。マインにはそれだけで充分だと思います」
「『箱庭』か……けどそれもハコザキから貰っただけだから努力して身に付いたとかそんなんじゃないしな」
「違います、ソウル様は唯一無二に『優しい』方です。それは才能だとマインはそう思っています。他の方にはないソウル様だけの技術……これまでソウル様の周りにいた方達はそれに気づかなかった愚か者だっただけです。今この世界でそれを持ち合わせている方がどれほど少ない事でしょうか、ですからソウル様は何も引け目を負う事などないのです」
真っ直ぐにソウルを見つめ真顔でそう言うマインに彼は少し照れると同時に十四才の女の子にそんなフォローをさせる自分が情けなくなったのは言うまでもなかった。
「あ、あの建物ではありませんか? ソウル様。『魔術師ギルド』と看板に表記されています」
町を歩きながら話していた彼らはいつの間にか魔術師ギルド前の広場に到着していた。
広場にはこの町の住人である子供達がワイワイと遊んでいる。
「そうだな、じゃあ入ってみようか」
二人は魔術師ギルド『エレクトロ・ブレイブ』と書かれた看板の建物に足を踏み入れた。
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◇〈魔術師ギルド『エレクトロ・ブレイブ』〉
入り口の扉を開けると中は外よりも賑やかさに包まれていた。
入口のすぐ横にはカウンターがあり、吹き抜けの広間には数々の魔導書や術式巻物(スクロール)や瓶詰めの液体、魔術師の使用する杖やロッドなどが飾られている。
掲示板らしき物には様々な数字の方式が書かれていたり羊紙が貼り付けられていて……ここが如何にも魔術師達の集いだと主張せんばかりだった。
広間の長テーブルで料理をつまんだり酒を飲みながら馬鹿騒ぎしている喧騒の主である連中を除けば。
格好からして魔術師とは思えない、まるで荒くれ者みたいな装備に身を包んだ連中である。
「あっ、いらっしゃいませ! 冒険者の方ですか?!」
受付奥の扉から酒を手に持った若い女の子が出てきてソウル達に声をかける。
白シャツに黒ベスト、ネクタイと受付嬢らしい格好に身を包んだ幼さの残る容姿をした赤髪の女性は何故か料理を運んでいた。
今は宴会中か?──とソウルが考えていると受付嬢の子は返答を待たずに更に続けた。
「ごめんなさいっ、今はもう満席で……少し時間を置いてからお願いしますっ」
満席って……ここは定食屋か何かなのか? と、当然の疑問を感じたソウルは構わず受付嬢に話しかけた。
「いや、ここのギルドに登録したいんだが……ここは魔術師ギルドでいいんだよな?」
「……えっ!? う、うちのギルドに!? ちょ……ちょっと待っていてくださいねっ!」
赤髪の受付嬢はそう言うとバタバタと酒を宴会連中の元へ慌てて運んでいった。そんな様子を隣で見ていたマインも疑問を感じたのかソウルに言った。
「ソウル様、ギルドとは全てこんな感じなのでしょうか……?」
「……いいや、まぁ冒険者ギルドは確かに色んな連中がいて騒がしいが……魔術師ギルドってのは基本その特性上、静かで冷静な奴等が多くてもっと落ち着いている筈なんだけど……」
そんな話を二人して怪訝な顔つきでいたところに受付嬢の女の子は落ち着かないままにソウル達の元へ戻ってきた。
息を切らした様子で少し間を置いて深呼吸したのちに彼等に向き直る。
「はぁ……はぁ……すみませんっ。私は魔術師ギルド『エレクトロ・ブレイブ』の受付、書類整理全般、雑務等を兼任担当しています【ルルリラ・アルネッタ】と申しますっ。イルナ様の知り合いの魔術師の方ですかっ!? そうですよねっ!? わざわざうちのギルドなぞに登録なさるということはっ!」
受付嬢のルルリラと名乗る女の子は明るくキラキラした目でソウル達に勝手な期待を寄せている様子だ。
(何か事情でも抱えているのだろうか、このギルドは……しかし、参ったな……できるだけ目立たないようにするつもりだったのに……この女が大声を出したおかげで飲み食いしてる連中も何人かこっちに気づいている……登録にはステータス判定があるっていうのに……)
騒がしかった連中はソウルと……特にマインに興味を示し始めたたのか薄ら笑いを浮かべながらソウル達を見やる。やはりあいつらはこのギルドのメンバーではないらしい──何となく、ソウルはそう感じた。
(大方……ここに登録しにきた魔術師を冷やかしにでも来ている戦士達か何かだろう。戦士と魔術師は大体仲が悪いからな……)
そして、彼の一抹の不安は的中してしまう。
なるべく目立ちたくないというソウルの目論見はステータス判定を連中に見られたおかげで台無しとなり、ソウル達の名は直ぐにこの界隈(かいわい)に広まってしまう事にこの時はまだ気づく由も無かった。
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