上 下
207 / 268
最終節.女子高生(おっさん)の日常と、いともたやすく創造されしNEW WORLD

192.波澄阿修羅とアオアクア【後編】

しおりを挟む


「……ん? 【アオアクア】……?」

 店内を見回っていると……ふと、大々的に店頭に飾られたpop(ポップ)が目に止まった。それはつい最近、勢力的に活動して破竹の勢いを見せているロックバンドを売り込むものだった。
 何年か前にデビューして、なんか急に活動を休止して、つい最近また復活した話題のバンド──テレビで多少目にする機会はあったが……少年にとって彼らはまだその程度の認識だった。

 それまで発売したシングルは12枚。
 少年もどこかで、リリースされた曲のどれかをワンフレーズくらいは耳にした憶えはあった。
 しかし、記憶に残らなかったのは……当時、バンドが数多く台頭していてどれも同じに見えたからだった。

「『5週連続リリース第3弾シングル【風化~dead cycle(デッドサイクル)~】』……なんか仰々しいタイトルだな……聴いてみるか」

 売れていることも踏まえて、きっと、このバンドも同じように『普通』なのだろう──と大して期待もせずにヘッドフォンを耳にかけ、曲を再生する。


 結果──少年の価値観は変貌を遂げた。
 静かなアルペジオから始まるイントロからの重低音。透き通るような声の持ち主が織り成す、腹の奥に響くシャウト。
 何より──今の世相をまったく意にも介していない、反骨的な詞の羅列。

『従われた未来を手にするな、『普通』はその場所に存在しない』
『価値観なんて誰が決めたものか』
『正しいと信じてきって流される哀れな家畜をいつか壊してやる』
『俺のままで生き、俺のままで朽ち果ててやれ』
『少年は理想を迎え、『普通』は地へと堕ちていく』

【そのままでいい、キミの世界は間違いじゃない】

 少年の心は曲調に反し、軽くなった。まるで重荷を投げ捨てたかのように。
 誰も少年を肯定してくれなかった……そんな『普通』の流れの中で、この歌詞だけが『間違いじゃない』と叫んでいた。

 ただそれだけで、少年がこのバンドの虜(とりこ)となるには充分だった。

 よくよく調べ、聴いてみると驚くべき事に彼らは『普通』の曲も歌っていた。歌詞の『芯』を曲げないままに。
 忌避していた明るく前向きな曲も──彼らが手掛けたものは何処か違っていた。それは彼らが、どんな風に生きるのも『自由』だと自身らの旗に掲げていたからだった。
 時には前向きに生きるのも、時には普通に生きるのも、時には後ろ向きに生きるのも……彼らは自由だと叫んでいた。

 バンド名に掲げていた魂は──『虹』。
 その魂を体現するかのような、七色どころではない音楽性は……少年の生き方や思想までもを受け入れ、決して否定しなかった。

「自由……普通でもそうじゃなくてもいい……………自分の世界は、自分の好きに生きていいんだ……!」

──そして、少年は自分の世界を描く事に目覚めるわけだが……それはもう少し先のお話である。

----------
-----
---

(──と、まぁ……これが【アオク】を聴くようになったきっかけなんだけど……どうして泣いてるの?)

──『ぅぅ……ぐすっ……良かったですっ……これでおじさんは生きる希望を得るわけですね……』

(そんな大袈裟な話じゃないんだけど……まぁ【アオク】を聴いてなかったら多分、小説も書いてなかったし……野垂れ死んでたかもしれないなぁ……)

──『じゅうぶん大袈裟じゃないですかぁ……』

(ほら、それより今日で『VR』は当分見納めなんだから次は阿修凪ちゃんの中学三年生の夏に飛ぶよ)

──『なんでそんな具体的で限定的なんですか……』

(だって中学三年~高校一年っていったら青い果実が色味をつけて半熟になってく一番そそる段階だし、そんな夏の水着とお風呂シーンは欠かせないだろう)

──『だろう、じゃないですっ! 水着はともかくお風呂は見ちゃダメ!』

 そんなやり取りをしつつ、俺達は平行世界の旅を満喫した。
阿修凪ちゃんがどうしても見たいって言ったから【アオク】との出逢いに再び向き直ってみたけど……改めて再認識できて良かった。

 解散なんてさせてたまるものか──俺が、彼らの虹の一色になってやる。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...