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神話の中に残る

21 古典演劇

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 まだ元気のない癒々とお菓子を食べながら歩く。広場で演物だしものをしてる。こっちは女神と天女の演目だ、天仙花園。

 宝石や真珠が実る木の枝が折れて、女神と天女達が知恵を出し合う話。最終的には皆で世話して新しい枝が生える。

 それまでに折れた所を隠そうとする者、逆に飾ろうとする者、折れた枝をくっつけようとする者など、回答に個性がある。

「知らない話だわ」

「じゃあ見て行こうか、まだ最初の頃だし」

 椅子にかけた三女神の前で、入れ替わり立ち替わり天女役が台詞を言う。流石に十二人全員に出番はなく、七人くらいが朗々と声を上げていた。

「枝を探して綺麗に繋げて差し上げましょう。きっと元に戻る方が、木も嬉しゅうございます」

「折れてしまった以上、その枝はもう元のままではありません。新たな枝が伸びるまで、在るがままに見守りましょう皆様。木が生きようと枝を伸ばす姿こそ、何より美しい」

 天女達の主張に耳を傾けていた三女神が席を立つ。

 生命の女神はそれぞれの考えを褒めて行き、最後に見守るべきと結論付けた。
 霊薬の女神はそれぞれを叱った後、全てを試すのも良いだろうと結論付けた。
 天通眼の女神はそれぞれの未来を見通した結果、見守るのが最善だと言った。

「……どうして天通眼の女神は、最初に結果を見なかったのかしら?」

「この後のやり取りを見てて」

 不思議そうな癒々とひそひそ言い交わす間に、天通眼の女神が腕を広げ、飾り付けられた木を示した。

「あなた達の話を聞いて、どう在るべきかを木が選んだのです。木が迷ったままでは何も起こらなかったでしょう。皆が知恵を出し合い、よく語らったからこそ、木も納得出来たのです」

 霊薬の女神が追随した。

「どの考え方にも一理あり、状況と状態で最善は変わるのですね。花園の美しさは変わらずとも、草木の彩りは日々変わるように……全ては絶えず移ろい行く」

「この花園の語らいが幾久しく続くよう、皆で祈りましょう」

 生命の女神が締め括り、笛と弦楽器が鳴り出した。護国平和の舞踊と演奏が始まり、女性達の衣装がひらひら泳ぐ。

「おしまいだね。これは答えが先にあるんじゃなく、考えや行動の先に答えがあるんだって話だよ癒々」

「圜が教えてくれると分かり易いわ」

 他の観客と一緒に拍手して見終える。感想を話しながら歩いていると、通りで年配の女性達が籠を手に花を配っていた。

「納涼祭の記念に、どうぞ」

「ありがとう」

 小さな白い花、梅鉢草っぽい。そっか、もう夏も終わり。植物にはとっくに秋なんだな。

「あら、お兄さん色男ね」

「まあ本当、美人さん」

「どうも」

 玖玲が囲まれてる……あ、御弥真がいない。あいつ逃げたな。まあ玖玲も一般人のお年寄り相手に乱暴はしないだろ。我慢の限界までは。

「癒々あげる、髪に挿すと可愛いよ」

「良いの? 圜のお花よ?」

「僕は男だから別に」

 屈んだ癒々の耳に梅鉢草の花を挿す。珍しい色の双眸を間近に見た。やっぱりその色綺麗だな。
 白い花はちんまりと収まる。癒々の髪は薄茶色だから、彩りも柔らかい印象だ。

「出来たよ癒々。可愛いね」

「キキッ」

「ありがとう。でも圜の将来が少し怖いわ……」

「なんで?」

 いや、本当になんで?

「はあ……厄介だった」

「無事生還したか玖玲……うわあ、花咲か爺さんみたいになってる」

「花咲かの翁は本人には咲かない、ボケたのかちびすけ」

 言ってみただけじゃん。でも玖玲はあちこち花を持たされたり、髪にも挿されたりしている。花まみれで一人生け花展示会になってるの笑う。

「何その顔、死になよ」

「頑張って堪えてやったのに。失礼な奴め」

「ふふ、綺麗ね玖玲さん」

「……」

 毟るように花を抜き、玖玲は全部癒々へと押し付けた。癒々はちょっと驚いた顔をして、でもまとめた茎を手に持ち歩いている。

「ここに長居し過ぎ。次の町に着くまで歩きなよ」

 正直八つ当たりだろと思ったけど、内容に異論はない。先を急ぐ玖玲の背中に、早足で付いて行った。お祭り楽しかったなー。

 そんなこんなで空は既に真っ暗。これ以上は明かりなしに進めなくなりそう、と限界を感じる手前で町に着いた。

「宿の空きあるかなぁ?」

「軒下でも借りれば良い」

「癒々がいるのに?」

「甘やかしてどうする。金を返すかも定かでないのに」

「それは癒々のせいじゃないし、説明したろ」

「大丈夫よ圜、玖玲さんの言う通りだもの。外でも納屋でも構わないじゃない。雨が降る気配もないし、不満なんてないわ」

 頑張って明るい声色を作る癒々に免じて引くけども、そもそも僕ら別に仲良くはないんだよ。関係性に罅が……とか全然気にしなくて良い。

「……風呂場はまだ開いてるだろ、中で誰かに話を聞いたら良い」

「はい」

「癒々、急がなくて平気だから。後でね!」

 ええと返す癒々とは公衆浴場で一旦別れた。
 湯船で地元の人に一晩眠れそうな場所を訊ねてみたら、子連れが物騒なのは良くないと一泊させて貰えることに。やったー。

「これは僕のお手柄だね! 玖玲のじゃないよ! 感謝してどうぞ!」

「別に構わないけど妙に生意気」

 バシャッと顔にお湯を引っかけられた。目玉に当たったら痛いだろ馬鹿!
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