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第二部 妖精姫の政略結婚

辺境伯の使者

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「妖精の森の国の尊き花、ユーリア・ヴィルヘルミーナ・ユングリング王女殿下。お目にかかれて光栄に存じます」

 王宮にやって来たブレーデフェルト辺境伯の使者三名が、謁見の間にてユーリア姫に到着の挨拶をする。
 高い尖塔アーチ型の解放感のある天井、高窓に取り付けられたステンドガラスからは明るい陽射しが落ちて燦々と広間を照らしている。

「よい、楽になさい」

 姫が壇上から鈴の鳴るような声を掛けると、跪いていた三名は立ち上がり顔を上げる。猫耳にしっぽを持つ猫妖精ケット・シーの女騎士と従騎士たちだった。

(茶トラに白、黒の猫か……)

 ユーリアの後ろに控えているフランシスは、三名を見てわずかに口元を歪めた。

 真ん中がリーダーの騎士で、茶髪に金褐色のメッシュが入ったショートボブ、吊り上がり気味のヘーゼルの瞳が勝気そうな眼差しを真っすぐに姫とその従者に向けた。

「私は、ニコラウス・ロニー・ブレーデフェルト辺境伯の側近、筆頭騎士のエルサ・ガットと申します。この者たちは私の従騎士でリンダとイェリン」

 白と黒の猫妖精ケット・シーの二名が、エルサに続いて略式の騎士の礼を取った。

「エルサ、リンダ、イェリン。此度は遠方からご苦労さま。
 今日はゆっくりと旅の疲れを癒してください。後ほど晩餐会で逢いましょう」

 ユーリアがハイウエストの薄水色と純白のドレスの裳裾を翻しその場を立ち去ろうとすると、エルサは「お待ちください」と呼び止めた。
 
「私たちはこの王宮に入るのにあたって、衛兵たちから主より賜った剣を取り上げられました。剣は騎士にとって命。どうかお返し願いたい」

 フランシスは、姫を呼び止め衛兵の対応について直訴するエルサの非礼に、チッと小さく舌打ちをした。
 姫は立ち止まると従者を見て、説明するようにと目で促した。

「王宮では鉄剣の持ち込みは禁じられておりますので、一時的にお預かりいたしました。取り上げたなどと、とんでもない。お帰りになる時には、キチンとお渡しいたします」

「……鉄剣?」

 ユーリアが目を見開いた。
 妖精エルフ族は鉄をたいそう嫌う。その剣を与えたのが辺境伯で、この女騎士たちはそのようなものを王宮に持ち込もうとしたのかと、驚く。

「妖精の丘で祭事に明け暮れておられる王家の方々はご存じないかも知れませんが、辺境では常に人族や魔族らの脅威に晒されています。敵から領地を守るため、私どもは鉄剣を必要としているのです。あの剣は辺境騎士の誇り、装備するのが正装でございます」

 エルサの言葉の端々には、辺境に住む者の王家に対する不満が滲み出ていた。

(ド田舎から出て来た雌猫の分際で。僕の姫さまの尊顔を拝するだけでも、恐れ多いというのに……)

 壇上から使者たちを見下ろす、フランシスの金色の瞳が危険な光りを帯びる。

「フランシス」

「はい、姫さま」

「この方々に、私からミスリルの剣を授けようと思います」

「ミスリルっ!?」

 三名の猫妖精ケット・シーたちは、驚愕して顔を見合わせた。

「王宮ではそのミスリルの剣を身に着けてください。そしてあなた方の鉄剣は、帰途の折に必ず返させると誓います」

 ミスリルは希少な聖属性の金属で、魔を払うとされている。
 その剣を鍛えられるのはドワーフ族のみ、非常に高価な武器で王族と大貴族くらいしか持っておらず、功績を上げた臣下に時たま下賜されるような代物だった。到底、この三人が簡単に手に入れられるようなものではない。

「畏まりました」

 高貴な姫が鉄剣の返却を誓ったのであれば、エルサたちはもうそれ以上異議を唱えることもない。

 フランシスが猫妖精ケット・シーたちをジロリとにらみつければ、彼らは慌てて跪き「有難き幸せ」と頭を下げた。
 

 
 





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姫と犬君のその後のリクエスト(恋敵編)を頂きましたので、もうすこし続きを書いてみようと思います。
よろしくお願いします。
(感想をもらえると嬉しいです)
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