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最高審議の間1
しおりを挟む最高審議の間は、入口から奥に向かってUの字型に机が並べられていた。
入口から向かって正面の席は玉座、それょり少し離れて二十席ほどの椅子が等間隔に並んでいる。
机の上には、握り拳大の磨かれた球形の魔石の結晶が、それぞれの座席の前に置かれていた。
広間の壁画には、黄泉に下った人々を前に冥界の女神が裁きの座に就いている姿が迫力のある筆で描かれていて、見る者を圧倒する。
もう一人の巡察官、ギルメットが入室すると、拘束された私たちを見てぎょっとした。
「ユー・シュエン卿、これはどういうことだ」
「伯爵は緊急審議会への招集要請に対し、証拠隠滅を謀った。さらに貴族殺しの罪も犯している。逃亡防止のための、やむを得ない措置だ」
「証拠隠滅だと?! 言いがかりだ! 招集を受け、前線から城へ帰還する際に血の絆によって妻の危機を察し、ルニエ商会に向かったまでだ。マルクのことは、正当防衛だった!
こちらこそ、ノワールの騎士をユー・シュエン卿によって殺された。卿の騎士殺しの罪を問う!」
アロイスがタイミングよく、私をマルクから助けることが出来たのは、巡察官が彼を城に呼び戻していたから?
西の砦から一瞬でこのクレモンに戻ってくるのは、いくら空を飛べるアロイスでも無理だと思ったから、疑問が解けた。
「伯爵の騎士を殺したというのは本当か、ユー・シュエン卿」
ギルメットが訝しい目つきでユー・シュエンを見ると、彼は肩を竦め目を逸らした。
「伯爵を拘束する際、逃亡を牽制するために投げた柳葉飛刀が、女騎士に刺さった。事故だ」
ユー・シュエンの言葉を聞いてアロイスが怒りに身震いした時、夜の刻を知らせる鐘が鳴り始めた。
本来なら、人々が眠りにつく時刻。
でもこのクレモンの城下町、そして真紅の薔薇城では、貴族が活動する時間帯だ。それに合わせて、仕える人間達も交代で明け方まで務めるのだ。
机の上に置かれた魔石の結晶の幾つかが点滅を始めるのと同時に、広間の照明が暗くなった。
薄緑色の蛍光色に光り出した魔石の結晶の置かれている前の席に、輪郭のはっきりしない影たちが現れ始める。
空席の魔石は光らない。会議の役員の席には、魔石の前に役職の蛍光文字が浮かんでいる。
ギルメットは隅の書記席、ユー・シュエンは報告席と書かれた場所にそれぞれ座った。
玉座は空席のまま、半数ほどの席が埋まると、議長席にいる影が緊急審議会の開始を告げた。
「時刻になりました。これよりサシャ王の巡察官、ユー・シュエン卿の要請による緊急審議会を始めます。
なお今回のノワールにおける緊急審議会の決議は、王国法第六十条に基づき最高審議会のメンバーの半数以上の出席により、有効となります」
匿名の王の重鎮のメンバーからなる最高審議会。遠く離れた王都から地方都市へ、魔石の結晶を介してその場にいるように中継し、会議等を行うことが出来る魔道具が使用される。
これは裁判ではない。
ユー・シュエンは、いったい何を考えているのか。
彼をじっと見つめていると、議長から促され席から立ち上がった。
そして、今回の審議会の議題を述べ始めた。
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