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Epilogue
エピローグ
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カムランと王都の二つのダンジョン・マスターになったオレは、相変わらずカムランの1LDKの部屋にアーサーと一緒に住んでいる。この狭いスペースでは、どこに居てもアーサーの姿や声が聞こえるからいいんだよね。住み慣れたところが一番いいっていうか。
リビングでアーサーが、熱心にスケッチブックに絵を描いているのを後ろから覗く。
冒険者達が、蜂型や鳥型のモンスターに絡まれながら崖を綱渡りをしている絵だ。
アスレチックのその先には、無数の尖塔がそびえる禍々しい城も描かれている。
「それは、新しいアトラクションかい?」
今や王都ダンジョンは、テーマパーク型のレジャー施設のような位置づけをされるようになっている。
ダンジョンの設計……アイディアは、主にアーサーが担当していた。
「うん。ボクだったら、こんなアスレチックやってみたいな、と思って」
「いいね、さっそく作っちゃおう」
ロキ神から授かったタブレットを取り出し、テーマパークの見取り図を呼び出した。
どこにどんな設備やモンスター、罠を組み込むのか、アーサーと相談しながら決めて行く。
王都ダンジョンのテーマは色々あるんだけど、最近の一番人気は『日帰りワイバーン討伐コース』。
森を抜けてから、崖の上の洞穴に住んでいるワイバーン型ゴーレムをやっつけるとクリア。
ワイバーンによる空からの攻撃が厄介で、このイベントを成功できれば王都の人々から中級冒険者と認められるらしい。
ちなみにもっとも難易度の高いのは「竜王城ダンジョンマスター討伐コース」。
これは王国とフレイア教団が裏でダンジョンと繋がっていると、他国から謗られない為に設置してあげた。
頑張ってダンジョンマスターをやっつけて下さいねっていう偽りの看板、見せかけのために作ったんだけど、自分でも結構面白くなってしまい少し悪乗りしてしまってる。
ダンジョン入り口には、モニターを設置して竜王城のお宝映像や恐ろし気な竜が咆哮している様子を流す。デモンストレーションを、訪れる人々に楽しんでもらうためだ。
王都のダンジョンは冒険を楽しむだけじゃなく観光客も相手にしている。
セーフエリアでは宿屋も運営して料理やお風呂も提供しているから、それを目当てにやってくる人も多い。ダンジョン産の珍しい珍味も食べれるし、大浴場にはハーブ湯や打たせ湯、ジャグジーに、ゴーレムマッサージチェアまで設備した。従業員は、赤狼人族や引退した冒険者などを雇って運営してる。
師匠の賢者アールは毎週温泉に浸かりに来るし、魔女モーガンもダンジョンに来る女性相手に、最近は美容アイテムを販売して稼ぎまくっているらしい。
「――竜王城じゃなくて、魔王城にして『魔王討伐コース』を作りたかったな」
「はは……。魔王さまにしばかれちゃうよ……」
時々アーサーのジョークは、肝が冷える。
「あ、あれ? 十日前から『竜王城ダンジョンマスター討伐コース』に挑戦しているパーティが、ラスボス部屋の前まで来てるよ!」
タブレットの王都ダンジョンの地図に点滅している、冒険者パーティのマークに気づく。
「ああ、ほんとだ。モニターで切り替えてみよう」
壁のモニターを切り替えると、姫騎士をリーダーにしたパーティが映し出された。
「とうとう、ここまで来たわ! 竜王を倒して宝物を全部頂くのよ!」
パーティの先頭に立っている姫騎士は、ストロベリー・ブロンドをツインテールにして、ミスリルの胸当てに肩当て、腰当てを着け手甲を填め、具足を履いている。装備の下は白地に青のラインが入った膝上丈のドレス。
彼女に付き従っているのは、数年前に滅びた辺境イオニア国の将軍と僧侶及び魔法使いと奴隷の猫獣人だった。
「あいつら、とうとうボス部屋の前までたどり着いたか。うちのコースにしては、十日は長かったかな?」
「ボクの出番だ。――行ってくる」
「行ってらっしゃい」
オレ自身とダンジョンのレベルが上がったので、カムランと王都の二つのダンジョンの操作と転移が以前より楽になっている。例えばこんな風に、アーサーだけをラスボス部屋に転送することもできるようになった。
パーティがボス部屋の重厚な石の扉を開いた。
石畳の巨大な空間は霞が掛かっていて、中が良く見えない。
「さあ、これが最後の戦いよ! みんなっ、行くわよっ!」
全員横一列に並んで、一斉に部屋に入って来る。彼らの背後でドーンと扉が閉まった。もう後戻りはできない。
風が吹き、霧が流される。舞台はラスボス戦に相応しい、廃墟の神殿。
そこに現れたのは、ミスリルの鎧の上に地竜の紋章入りの白銀のサーコートを羽織り、聖剣エクスカリバーを手にした壮絶な美少女アーサー。
「――お前たちは、何をここに求めて来た?」
「わたくしたちは、イルミア王家復興の悲願を果たすため、ここまで来た! 竜王のお宝はいただくわっ。死になさい!」
姫騎士が故国の宝剣ウィンドブレードで切りかかった。
「姫、危ないっ」
はやる姫をサポートするために、巨躯の将軍がアーサーのサイドをを狙う!
僧侶がパーティの防御力を上げる魔法を唱え、魔法使いも攻撃魔法の詠唱を始める。
「王座など、下らぬ!! ボクはディーンのためなら、王位継承権など何回だって捨ててやるっ」
アーサーが聖剣エクスカリバーを一閃すると、轟音と共に辺りは眩い光に包まれた。
◆◇
「ただいまぁ――」
「お帰り~」
うん、今回も早かった。壁のモニターには、『死に戻り』でダンジョンの入り口に戻ってしまった姫騎士パーティが映っている。
「1ターンでゲームオーバーなんて、詐欺よっ」
「入場料返せ――!」
ブーブー文句言ってる姫たちに、他のお客さん達が「姉ちゃんたちが、弱っちいからだろ」とか「それは入場料じゃなくて『蘇りのミサンガ』。死ななきゃ無くならないんだよ」とか言われている。
ラスボスはオレなんだけど、その前にアーサーが訓練がてら相手をしたいというので、毎回こうなってる。
「すぐ終わっちゃうから、運動にもならないんだけどね」
「あは、あはは……」
「でも、ラスボス部屋までの難易度をもっと上げなきゃ」
「任せる」
アーサーの目は「ディーンはボクが守る!」と語っていた。
ちょっと過保護じゃないかな、オレは結構強いんだけどな。
でも、アーサーが生き生きして、楽しそうだから、まぁいっか。
―― 完 ――
読んでいただき、本当にありがとうございました!
リビングでアーサーが、熱心にスケッチブックに絵を描いているのを後ろから覗く。
冒険者達が、蜂型や鳥型のモンスターに絡まれながら崖を綱渡りをしている絵だ。
アスレチックのその先には、無数の尖塔がそびえる禍々しい城も描かれている。
「それは、新しいアトラクションかい?」
今や王都ダンジョンは、テーマパーク型のレジャー施設のような位置づけをされるようになっている。
ダンジョンの設計……アイディアは、主にアーサーが担当していた。
「うん。ボクだったら、こんなアスレチックやってみたいな、と思って」
「いいね、さっそく作っちゃおう」
ロキ神から授かったタブレットを取り出し、テーマパークの見取り図を呼び出した。
どこにどんな設備やモンスター、罠を組み込むのか、アーサーと相談しながら決めて行く。
王都ダンジョンのテーマは色々あるんだけど、最近の一番人気は『日帰りワイバーン討伐コース』。
森を抜けてから、崖の上の洞穴に住んでいるワイバーン型ゴーレムをやっつけるとクリア。
ワイバーンによる空からの攻撃が厄介で、このイベントを成功できれば王都の人々から中級冒険者と認められるらしい。
ちなみにもっとも難易度の高いのは「竜王城ダンジョンマスター討伐コース」。
これは王国とフレイア教団が裏でダンジョンと繋がっていると、他国から謗られない為に設置してあげた。
頑張ってダンジョンマスターをやっつけて下さいねっていう偽りの看板、見せかけのために作ったんだけど、自分でも結構面白くなってしまい少し悪乗りしてしまってる。
ダンジョン入り口には、モニターを設置して竜王城のお宝映像や恐ろし気な竜が咆哮している様子を流す。デモンストレーションを、訪れる人々に楽しんでもらうためだ。
王都のダンジョンは冒険を楽しむだけじゃなく観光客も相手にしている。
セーフエリアでは宿屋も運営して料理やお風呂も提供しているから、それを目当てにやってくる人も多い。ダンジョン産の珍しい珍味も食べれるし、大浴場にはハーブ湯や打たせ湯、ジャグジーに、ゴーレムマッサージチェアまで設備した。従業員は、赤狼人族や引退した冒険者などを雇って運営してる。
師匠の賢者アールは毎週温泉に浸かりに来るし、魔女モーガンもダンジョンに来る女性相手に、最近は美容アイテムを販売して稼ぎまくっているらしい。
「――竜王城じゃなくて、魔王城にして『魔王討伐コース』を作りたかったな」
「はは……。魔王さまにしばかれちゃうよ……」
時々アーサーのジョークは、肝が冷える。
「あ、あれ? 十日前から『竜王城ダンジョンマスター討伐コース』に挑戦しているパーティが、ラスボス部屋の前まで来てるよ!」
タブレットの王都ダンジョンの地図に点滅している、冒険者パーティのマークに気づく。
「ああ、ほんとだ。モニターで切り替えてみよう」
壁のモニターを切り替えると、姫騎士をリーダーにしたパーティが映し出された。
「とうとう、ここまで来たわ! 竜王を倒して宝物を全部頂くのよ!」
パーティの先頭に立っている姫騎士は、ストロベリー・ブロンドをツインテールにして、ミスリルの胸当てに肩当て、腰当てを着け手甲を填め、具足を履いている。装備の下は白地に青のラインが入った膝上丈のドレス。
彼女に付き従っているのは、数年前に滅びた辺境イオニア国の将軍と僧侶及び魔法使いと奴隷の猫獣人だった。
「あいつら、とうとうボス部屋の前までたどり着いたか。うちのコースにしては、十日は長かったかな?」
「ボクの出番だ。――行ってくる」
「行ってらっしゃい」
オレ自身とダンジョンのレベルが上がったので、カムランと王都の二つのダンジョンの操作と転移が以前より楽になっている。例えばこんな風に、アーサーだけをラスボス部屋に転送することもできるようになった。
パーティがボス部屋の重厚な石の扉を開いた。
石畳の巨大な空間は霞が掛かっていて、中が良く見えない。
「さあ、これが最後の戦いよ! みんなっ、行くわよっ!」
全員横一列に並んで、一斉に部屋に入って来る。彼らの背後でドーンと扉が閉まった。もう後戻りはできない。
風が吹き、霧が流される。舞台はラスボス戦に相応しい、廃墟の神殿。
そこに現れたのは、ミスリルの鎧の上に地竜の紋章入りの白銀のサーコートを羽織り、聖剣エクスカリバーを手にした壮絶な美少女アーサー。
「――お前たちは、何をここに求めて来た?」
「わたくしたちは、イルミア王家復興の悲願を果たすため、ここまで来た! 竜王のお宝はいただくわっ。死になさい!」
姫騎士が故国の宝剣ウィンドブレードで切りかかった。
「姫、危ないっ」
はやる姫をサポートするために、巨躯の将軍がアーサーのサイドをを狙う!
僧侶がパーティの防御力を上げる魔法を唱え、魔法使いも攻撃魔法の詠唱を始める。
「王座など、下らぬ!! ボクはディーンのためなら、王位継承権など何回だって捨ててやるっ」
アーサーが聖剣エクスカリバーを一閃すると、轟音と共に辺りは眩い光に包まれた。
◆◇
「ただいまぁ――」
「お帰り~」
うん、今回も早かった。壁のモニターには、『死に戻り』でダンジョンの入り口に戻ってしまった姫騎士パーティが映っている。
「1ターンでゲームオーバーなんて、詐欺よっ」
「入場料返せ――!」
ブーブー文句言ってる姫たちに、他のお客さん達が「姉ちゃんたちが、弱っちいからだろ」とか「それは入場料じゃなくて『蘇りのミサンガ』。死ななきゃ無くならないんだよ」とか言われている。
ラスボスはオレなんだけど、その前にアーサーが訓練がてら相手をしたいというので、毎回こうなってる。
「すぐ終わっちゃうから、運動にもならないんだけどね」
「あは、あはは……」
「でも、ラスボス部屋までの難易度をもっと上げなきゃ」
「任せる」
アーサーの目は「ディーンはボクが守る!」と語っていた。
ちょっと過保護じゃないかな、オレは結構強いんだけどな。
でも、アーサーが生き生きして、楽しそうだから、まぁいっか。
―― 完 ――
読んでいただき、本当にありがとうございました!
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