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第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!

第十話 苛立つ将軍

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 討伐軍先陣隊のギルドメンバーの参加するパーティは、17階層への階段で異変を感じると先に進むことを良しとせず、16階層に引き返した。

 16階層のセーフエリアには、先陣隊の前線本部が設置されていた。陣頭指揮を執っているのは、黒騎士団中隊長アイザックである。冒険者ギルドのドミニクやハンゾーの報告を受け、すぐに伝令兵をダンジョン入り口前の幕僚本部に居るマクブライド将軍に差し向けた。各階層の階段にも、注意を払うようにと討伐軍全体の伝達も命じる。

 先陣隊がダンジョンの地下深くへと進むにつれ、討伐軍総司令官であるマクブライド将軍の居る幕僚本部との距離が開き、伝令が届くまでに時間がかかり過ぎるようになっていた。

「大した規模でもないちんけなダンジョン制圧に、いつまで時間をかけておる!」

 将軍がイライラと天幕の中を歩き回っていると、前線から伝令兵がやって来た。

「将軍閣下! 16階層前線本部指令官黒騎士団中隊長アイザックからの伝令を申し上げます」

「なんと! このダンジョンは、16階層以下まであったのか! して伝令とは?」

「はい。17階層に降りた小隊が二組、階段で戦闘状態になり、全滅しました。敵の情報は今のところありません。日も暮れて来ましたので、今日はこのままダンジョン内で野営をする許可及び、17階層以下制圧の対策をご指示願いたいとのことです」

「階段はモンスターが出現しないはずではなかったのか?! よし、野営を許可する。17階層以下の進攻については、追って連絡する」

 伝令が16階層へとんぼ返りしていくのを見送ると、マクブライド将軍は宮廷魔術師マーリンと聖騎士ランスロットに向き直った。

「前線と幕僚本部が離れ過ぎた。これ以上戦線の指揮系統の遅延または混乱が起こる前に、我らもダンジヨン内に移動するぞ」

「それは構いませんが、どの階層まで降りるおつもりですか」

 魔術師マーリンが問えば、ふむと顎に指を当て考えるような仕草をする将軍。

「10階層でどうか。地上と前線の中間地点と見積もって」

「移動しながら、17階層以下の対策を考えましょう。夜更け前に10階層に到着しないと」

 聖騎士ランスロットは手早く部下に命じ、ダンジョンに入る準備をさせる。

 ダンジョン入り口には、見張りと補給部隊、衛生兵を少数残し、討伐軍はほぼ全軍がダンジョン内に進攻することになる。


◆◇


「討伐軍は、5階層から16階層のセーフエリアで野営する準備を始めたな。さすがに、これだけの人数がばらけてセーフエリアに居ると前回のSランク冒険者パーティの時みたいに、寝込みを襲う訳にはいかないし」

 オレ達も交代で休んだ方がいいかな。アーサーに先に休んでもらおうかな。じゃんけんで決めてもいいけど。

 ソファの隣に座っているアーサーを見ると、居住まいを正して「ディーンの気持ちを、確認したい」なんて言い出した。

「えっ?! 急に改まって、なに?」

 アーサーは真っ直ぐオレを見つめて、何か決意したような様子だ。

「このダンジョンは今まで『死に戻り』で、加護を求める者には犠牲者を出さなかった。でも今回は違う。500人の軍隊をすべて葬って、さらにティンタジェル神聖王国と戦い続けるというのは、ディーンにとって不本意なんじゃないか」

「今更、何を言い出すんだよ……。人族が攻めてきたら、戦うしかないじゃん」

「ほら、話し合いで丸く収めるっていう手もあるし」

「マジかよ。それにしたって、ある程度痛い目見ないと、話し合いのテーブルにもつかなそうだよ、あのおっさん」

 モニターには、10階層のセーフエリアに幕僚本部を設置した、禿げ頭の将軍が映っている。ダンジョン内だというのに、折りたたみ式のテーブルに白いテーブルクロスをかけ、専属の料理人が腕を振るってディナー料理をコースで用意していた。そのテーブルの席には、魔術師マーリンや聖騎士ランスロットの姿もあった。

「あの人たちの目的は、ボクだからね……。ボクが言って話してくれば、あるいは――」

「待てよ、勝手な行動は絶対するな。アーサーが捕まって聖剣を奪われたら、今度はオレが魔王様にしばかれるだろ?」

 プッと吹き出すアーサー。

「そこはボクが敵の手に落ちるくらいなら、死んだほうがましだ、という台詞が来るべきじゃないの?」

「いーや、死んだらおしまいだ。死んだらアーサーを助けられないし。オレは死なないっ」

「うん、そうだね……」

 オレの真剣な想いを、ちゃんとわかってもらえたかな。

「あ、見て。赤狼人傭兵に、なにか動きがあるよ……」

 10階層のセーフエリアの幕僚本部以外、各階層の討伐軍はダンジョン内に泊るための野営の準備をし、見張りを立てて交代で寝ることにしたらしい。そんな中で、16階層に居た赤狼人傭兵団団長が見張りとぐるで、単独行動を始めたのだ。

 団長は16階層の洞窟の天井の隠しカメラとマイクの位置まで来ると、カメラ目線でオレ達に話しかけて来た。

「ダンジョンマスターと差しで話をしたい。俺は赤狼人傭兵団団長ヒルデブラントだ」

 
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