上 下
28 / 48
第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!

第七話 討伐軍がやって来た

しおりを挟む
「わぁお、五、六百人くらい居るねぇ」

 ついにティンタジェル神聖王国とフレイア教団の合同討伐軍が、オレのダンジョンにやって来た。

 今、モニターに映っているのは、ダンジョン入り口につけているカメラからの映像だ。

 入り口前の広場で整列した軍を前に、ピカピカの甲冑に柄に宝石の嵌った長剣を腰に吊るした禿げ頭の髭オヤジが、折りたたみ式の椅子の上に立って、唾を飛ばし腕を振り回して演説している。髭オヤジの後ろには、魔術師と聖騎士ランスロット、司教、冒険者らしい二名が立っていた。

 アーサーは隊列を観察して「あれは赤狼傭兵団だ」と呟いた。

 一口に狼人族と言っても、取りまとめ役の部族長は金狼族がやっているが、銀狼、黒狼、青狼、赤狼などいくつもの部族がある。中には報酬次第で、王国や教団に雇われる傭兵家業をやっている狼人の群れもあるのだった。

「赤狼の戦士は狂戦士バーサーカー化するんだけど、なるほど……それであの隊列か」

「どういうこと?説明してくんなきゃ、わからないぞ」

「うん。縦に隊列が並んでいるんだ。騎士団と赤狼傭兵団、魔法使いと教団の修道士や修道女。あれはダンジョン攻略のために、5人ずつのパーティ編成をして、全部で50組くらいで攻略する気だ。他に伝令、衛生部隊、補給部隊もいるけど」

 ノートに敵軍の戦力を走り書きしながら、アーサーは説明してくれた。

「階ごとのボス部屋は、一度に5人までしか入れないから、考えてるな」

「数で力押しって訳じゃないみたいだね。赤狼だけど、狂戦士バーサーカー化すると、敵味方かまわず、全滅するまで戦うんだ。あのパーティ編成は、ジョーカーの赤狼を一人ずつ組み込んでる」

「げっ、なんだよそれ……」

 味方も殺しちまうのかよ。赤狼って、ぱねェなぁ。

「補給部隊の数が思ったより少ないな。……短期決戦のつもりか」

「じゃあ、プランBだな」

 プランBとは、敵を懐深くおびき寄せて、殲滅させる作戦だ。今回は相手を見ながら柔軟に作戦を変更するために、何通りもプランを考えていた――主にアーサーが。それで、村里のみんなが覚えやすいように、凝ったネーミングはやめよう、という事になってしまった。とても残念だ――主にオレが。


 禿げ頭の髭オヤジの演説が終わると、合同軍は入り口の自販機のミサンガを購入して身に着け始めた。

 今回、『蘇りのミサンガ』を改め、『ただのミサンガ』を販売することにした。値段は、大銀貨1枚から銀貨1枚に1/5に値下げしている。名前の通り、加護なしのただのミサンガだけど、気休めにでも買ってくれればウチの収入になる。ちなみにミサンガの制作は、村里の子供たちがやってくれた。


 人族の戦士と忍者の冒険者が、自販機の前で何か話している。

 リモコンボタンで音量を上げてみた。


「ハンゾー、この自販機のボタンのプレートに『ただのミサンガ』と刻まれているぞ。前来た時は『蘇りのミサンガ』だったよな?」

「うむ。鑑定スキル持ちの宮廷魔術師に、見てもらった方がいいでござる」

 二人が魔術師にミサンガを持って行き、鑑定スキルで調べてもらう。

「これは、なんの加護も付与エンチャントもされていない。ただの糸くずだ」

 魔術師の言葉に、禿げオヤジが真っ赤になって怒り、ミサンガを投げ捨てた。討伐軍にも動揺が走る。


 それをモニターで見ていたアーサーは「さっそく、バレちゃったね」と笑った。

「でも30個近く売れた。討伐に来といて、オレの加護をもらおうなんて、ずうずうしいにもほどがある」

「見て、ミサンガなしで入って行くよ」

「ああ。まずはお手並み拝見するか」


 討伐軍は5人パーティ×3単位で行動していて、上層階洞窟エリアを慎重に進んでいた。ボス部屋をクリアした後も、次のパーティのボス戦が終わって3パーティが揃うまで先に進まないなど、規律もしっかりしているようだ。

 6階層からは、先陣隊にいる忍者が罠の探索にあたり、落とし穴はことごとく発見されて、埋め立てられていく。やがて10階層までの洞窟エリアすべてが制圧された。

 ゴーレムとの戦いで負傷者もそれなりに出ているが、セーフエリアに待機する衛生部隊によって治療が行われ、再びパーティ編成される。脱落者は数人程度だった。

 先陣隊からの伝令が、ダンジョン入り口の外に設置された将軍をトップとする幕僚本部に、10階層制圧の知らせを伝える。

「よし、最下層に向けてそのまま進め! 残りの合同軍も先陣隊に続いて投入せよ!」


 将軍が檄を飛ばすと、討伐軍はさらに最下層目指して、地中深く行進して行くのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し
ファンタジー
 主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。  彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。  片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。  リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。  実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。  リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...