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第二章 ウチのダンジョンに冒険者パーティがやって来た!

第四話 悪夢

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「おい、アーサー大丈夫か?」

「うーん……あっ、ディーン?!」

「すごいうなされてたから、起こしに来たんだけど」


 アーサーがここに来てから、そろそろ一ヵ月が経とうとしていた。

 相変わらず、こいつはオレの1LDKのダンマス部屋のロフトで寝泊まりしている。あれから、DP使ってロフトの天井を高くしたり、クローゼットをつけたりはした。

 本当はアーサーの部屋を作ってやるべきなのか、迷ってる。相変わらずDPはカツカツで、あいつも必要ないと言っているんだけど。ここにずっと居るつもりなのか?……そう聞くのをためらってしまうんだ。


「そうか、ありがと。もう朝か」

 窓ガラスから、陽射しによく似た光が差し込んでいた。ダンジョンの中だけど、この1LDKの窓は外の時間に合わせて、明るくなったり暗くなったりするんだ。


 今日は、アーサーが着替えて顔を洗っている間に、オレが朝食を作ることにした。


 まず、ボイルしたウィンナーをフライパンに油なしで軽く炒めて、皮をパリっとさせる。コッペパンに切り込みを入れ、キャベツの千切りとタマネギのスライス、ウィンナーを、挟む。

 マスタードとケチャップをウィンナーにかけてから、溶けるチーズをのせ、オーブントースターに入れ、軽く焼く。

 これで、チーズホットドックの出来上がり。

 あとはヨーグルトとフルーツ、コーヒーも入れてっと。


 オレ達は、リビングのローテーブルに並べて、ソファに座ってホットドックを食べた。


「チーズがかかっていると、おいしいね」

「うん。簡単に作れるしね」


 壁のモニターには、ダンジョンの様子が映っていて、二人でボーっと見るとはなしに眺めていた。

 画面には、ゴーレムがダンジョン内に配置されて、動き回っている様子が映し出されている。
 

「そういえば、このダンジョンに罠がないのは、どうしてなの?」

「えっ?! だって、それは。危ないじゃないか……」

 村人や村里の鬼どもが、罠にかかってしまいそうだし。

「罠があれば、ダンジョンを攻略するスピードも落ちるし。敵が攻めて来た時、罠で倒すだけでなく、足止めや時間稼ぎもできる。上層はともかく、中層からは罠を用意した方がいい」

「でも、DPが……」

 上層だけでなく、中層以下にもにゴーレムを配置させることにしたので、ゴーレム召喚に使い続けてDPは毎日すっからかんになってる。

「みんなで、穴を掘ればいいんじゃないかな」

「穴を?!」

「そう、落とし穴! それでその穴に、竹やりやスライムを仕込んだりすれば……」

「ええっ。そんな悪どいことを……?」

「他のダンジョンは、もっと色々やってる。落とし穴は、安上がりの割に効果が高いと思う。ディーンは今まで、冒険者たちをピクニックに来た人達みたいな感じに考えていたかもだけど。近い将来、本当に、ディーンを倒そうとする人たちが来るかも知れないよ?」

「オレを倒したら、ダンジョンも消滅するし、人族にとっても不利益だ。アーサーは考え過ぎじゃないか?」


 カムランの村は、ここのダンジョン目当てに来る冒険者たちを相手に、宿屋や道具屋、酒場なんかもある。村人がダンジョンの一階層でやっている魔石や薬草の採集は、農作物以外のいい収入になってるんだ。

 だから今まで、村人や冒険者たちとは、上手くやって来たつもりだった。素材や経験値を求めて来る者から、オレはDPをもらって、持ちつ持たれつだと。

「ここは、有用ダンジョンに指定されているから、今までは国やギルドから、ダンジョンマスターを倒すのは禁じられていたけど。魔族と戦争になれば、事情も変わる。真っ先に狙われるかもしれない」


「うちのダンジョンは自慢じゃないが、狙われるようなお宝はないと、胸を張って言えるぞ?」

 ため息をついて、首を振るアーサー。 

「ディーンが居るだろ? 竜殺しの箔をつけたい冒険者や、高価な竜素材を狙っているやつもいるんだ」

「高価な竜素材?!」

「そうだよ。竜は身体の部位、すべてが高額で取引されるんだ。皮や鱗は防具、牙は武器、血肉は薬や食材に……」

 オレが食肉用にバラバラに解体されて、売られるだと?! 思わず立ち上がった。


「――今すぐ、穴を掘りに行くぞ! ゴーレムだけじゃだめだ。村里の鬼どもも全員招集だっ!」

「えー、待ってよ。まだフルーツヨーグルトを食べきってないのに……」


 デザートは、後回しだ。オレが解体されて、肉屋で売られたらどうする。


 ゴーレムには穴を掘らせ、オーク達には草原エリアの竹を伐採して、落とし穴に仕込む竹ヤリを作るように命じた。ゴブリン達には、スライムを集めさせる。


「よし、立派な落とし穴が出来たぞ。落ちたら、竹ヤリやスライムの餌食だ。アハハハハ」


 両手を腰に当て、落とし穴の出来栄えに満足して、アーサーを振り返った。

「まだ完成じゃないよ。これをうまく偽装しないと。穴が見えているのに、落ちるバカはいないだろ」

 くっ。

「わ、分かってるよ。偽装、偽装……? どうやって?」

「この前、墓石ゴーレム作った時の土魔法石壁ストーンウォールの原理で、ガラスの板を作れないか? ダンジョンの床に同化するような色合いで。数人が乗ったら割れて落ちるような薄さに調節して」

 むぅ、イメージや魔力調節が難しそうだけど、試してみるか。

 場所を草原エリアに移して、ガラス板に挑戦だ。


 目を瞑って、洞窟の床に同調するガラスの板をイメージする。身体を巡る魔力を、右手に集めて……。

「天然ガラスの石壁ストーンウォール!」


 短縮した土魔法の呪文を唱えると、地面から、洞窟の岩に似た色の天然ガラス板が突き出した。

「……色味はいいけど、これじゃ厚過ぎて100人乗っても大丈夫だな……」

 ガラス板の厚みを見ながら、アーサーがダメだしする。


「薄めの天然ガラスの石壁ストーンウォール!」

「薄すぎる、薄氷みたいだ」


 なら、これでどうだっ。


「もう少し厚めの薄めの天然ガラスの石壁ストーンウォール!」

「あと少し薄くした方がいい」


 これでもかっ。


「あと少し薄めのもう少し厚めの薄めの天然ガラスの石壁ストーンウォール!」

「もうちょい」


 疲れるから短縮してるのに、どんどん呪文が長くなってて……。


「もうちょいあと少し薄めのもう少し厚めの薄めの天然ガラスの石壁ストーンウォール!」

「よし、完璧だ」

 むぅ、くっそ。

「よし完璧だもうちょいあと少し薄めのもう少し厚めの薄めの天然ガラスの石壁ストーンウォール!」

「……」


 はぁ、はぁ……。なんか失敗作の天然ガラスが、山のように出来てしまった。

 とにかく、なんとか偽装用のガラス板を作ることが出来たぞ。


 心配そうにこちらを見ていた村里の者達も、これでホッとしただろう。


「村里の景観が……」


 ――嘆きの声が聞こえたような気がするが、空耳だろう……。
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