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第二部 プロローグ(新しい計画)

65.未来へのメッセージ

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 とあるラブホテルの一室。

 私に向かってスマホのレンズが向いていた。三脚に固定されて録画が開始されている。

「自己紹介して」

 ベッドに座っておずおずと周りを見わたすと、女友達の藤崎悠莉が、ぶしつけに言葉を投げつけた。

「えっと……私の名前は綾瀬哀香です。洛青大学に通っています。なんかよく分からないけど、よろしくお願いします。1〇歳です。あ、実は明日が誕生日なので1〇歳になるんですけど。……え、フルネームはダメ?」

 リテイクがかけられて録画が止まる。

 悠莉がスマホを操作しながら、やれやれとため息をついた。

 身バレに気を付けるように注意され、こほんっと咳払いをされて、再び録画が再開される。

 改めて、私は自己紹介を始めた。

「こ、こんにちは。私の名前は哀香って言います。都内の大学生です。今日は……あの、友達からプレゼントがあるって呼びだされて……この動画を撮っています。……えっと、だから詳しい事情は分からないんですけど……すごくドキドキしてます。よろしくお願いします!」

 演技指導なんて受けたことがないから棒読みになっていないか不安だった。話す内容を決めずに喋っているから内容もまとまらない。とりあえず元気に挨拶しようと思った。

 それからどうすればいいか彼女を見ると、無言。

「……え? なんで何も言わないの? 続けろってこと?」

「そんなんでいいの?」

 悠莉はジト目で見つめてきた。わけがわからなくて、ちょっとムッとした。

「そんなんでって? そもそもこれってなんのための動画なの? 何も聞いてないんだけど……」

 私は今日、大事な話があるって彼女に連れらてここにいる。内心、明日は誕生日だからプレゼントを貰えるんじゃないかって期待をしていた。サプライズメッセージはもらう側のはずなのに……。

 悠莉はニヤニヤと笑っていた。はっきりしない態度は彼女が嫌いなことNo. 1のはず。なのに、理由をなかなか言おうとしない。そして、くすくすと笑い出した。

「これは哀香の運命の人へ見せる動画だよ」

「運命の人……?」

 悠莉は何を言っているのだろう? 突然の呼び出しと撮影に状況を理解できていない。私と彼女の間にある温度感の違いが分からない。えっちな画像とか動画はこれまでも2人で撮影してきたし、今日が今までと違う特別な日だとは思えなかった。

 彼女の言葉の意味を測りかねていた。

 しかし、彼女はふいに運命の言葉を口にした。

 今日こそが運命の日だったのだ。

「この動画はね。哀香の処女を奪う男に見せる動画なの」

「……え?」

 きゅんとアソコが締まった。

 その言葉を聞いた途端、期待が湧き上がり一瞬で最高潮へ跳ね上がった。

 かつて私と彼女がした約束。

 ──悠莉が決めた人とセックスする。

 他人には理解されないかもしれないけど、私たちにとっては最高に興奮する誓い。その誓いが今、果たされようとしている……? 

「あ……えと……その……」

「どうしたの?」

 悠莉が私の顔を覗きこむ。彼女はニヤニヤとしていて、私の心を見透かしていた。変態の心根を。

「あ、もしかして誕生日だから……? じゃあ明日……?」

「そう。明日、あなたは男とセックスをする」

 ──ついにこの時が来たんだ。

 明かされた事実に胸がドキドキしている。身体が熱くなってくる。彼女が用意してくれた『最高の誕生日プレゼント』に心がキュンキュンする。

「ど、どんな人なの?」

「まだ内緒。サプライズだから」

 意地悪くニヤける悠莉は股間をまさぐっていた。彼女も楽しみにしているみたい。

「そっか……♡」

 私も彼女の真似をして股間をまさぐった。じわりと液が滲み出して下着を汚した。

「安心して? 私が大嫌いでキモい男だから……そんなやつに哀香は処女を奪われるの♡」

「えへへ……嬉しい♡」

 おかしい会話なのは分かっている。でも変態+変態で異常もプラスに変わる。私が男の人とセックスすることで悠莉も気持ちよくなってくれることが嬉しかった。

 私は一体どんな男性と初体験をするのだろう? 

 普通の女の子はどんな気分で初めての日を待つものなのだろうか。前から好きな人がいて、いい雰囲気になってとか? それとも意外と深く考えずに?

 未経験だからわからないことだらけ。一応、女同士なら経験あり。

 そもそも変態の私には関係ないことかも。彼女とのセックスは愛情があるけれど、これから私がするのは快楽のためのセックスなのだから。

「でも……なんで……今日、撮影なんてするの? 当日だけでよくない?」

「え?」

 悠莉がキョトンとした。私は何かおかしなことを聞いたのだろうか?

 初めての行為の様子を撮影されることに対して、私はなんの異論もない。そういう撮影を『ハメ撮り』っていうのも知っている。むしろ自分の処女喪失の瞬間が撮影されているなんて最高に興奮する。願ったり叶ったりだ。もちろん相手の同意は確認しなきゃいけないのだけど……。相手の人さえ良ければぜひ撮影させてほしいな……。でも、男の人でも裸を撮影されるのって嫌だよね? でもでも、撮らせて欲しい。私の記録好きを悠莉も分かっているはずだけど……。私からお願いしようかな……。

 そんな私のごちゃごちゃとした考えは否定されることになる。

「だって……その時、あなたは意識がないから」

「え? ……どういうこと?」

 思考が停止する。何を言っているのか理解できなかった。悠莉は「ふふん」と鼻を鳴らして、得意げに説明を始めた。

「あなたは眠ったまま処女を奪われるの。でも意識があるうちに同意をとっておかなくちゃ相手が安心して犯してくれないでしょ? だから今日、録画しておくの。当日は意識がないから……起きたらもう犯されて処女じゃなくなっているよ♡ でね、その録画を後で2人で一緒に見よう?」

「……」

 私は絶句した。まるで週末一緒に映画を見ようみたいなテンションで告げられた計画。いつも変態的な計画を考えて彼女を振り回してきのは私の方なのに……。考えについていけなかった。

 眠っている間にハメ撮りされて、意識を失ってるうちに処女を奪われるという変態的なシチュエーション……。

 そんな現実離れした空想を悠莉は実現しようとしている。

 クールな彼女らしくない無邪気な笑みが私の欲情を掻き立てた。

「悠莉ぃ……♡ 愛してる……」

「私も♡」

 私たちは抱き合った。

 大好きな人が考えてくれたサプライズプレゼント。

 おそらく他人からしたら卒倒するような腐臭を放ってグロテスクな見た目をしている。

 でもそれは、前々から私が「欲しい欲しい」ってねだってお願いしていたもの。彼女はそれを用意してくれた。

 私はなんて幸せなのだろう。

「じゃあ、続きを撮ろうか♡」

 悠莉が私に促した。

「うん!」

 元気に返事をして、撮影が再開される。

 次の私たちの計画。

 つまりは『同意睡姦処女喪失』に向けて。

 決して抜け出せない底なし沼。

 未来はドス黒い希望で満ちている。

 私たちの新しいステージが始まった。



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