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10"この世界には秘密があった

50.人気配信者アイちゃん

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(悠莉視点)

 私はバイト先の休憩室でスマホを見ていた。

『みなさん今日も来てくれてありがとうございました!』

 画面の向こうで友人の綾瀬哀香が元気に挨拶していた。

『今日の配信はもうすぐ終わってしまうので、支援してくださった方にお礼をしたいと思います~』

 彼女はカメラに微笑んで、視聴者のコメントを読み上げる準備を始めた。

 着ていた露出度の高いメイド服をゆっくりと脱いでいって、ブラジャーの間に手を滑り込ませて剥ぎ取った。

 手ぶら状態の哀香は、胸を寄せ谷間を強調して上目遣いで媚びるような目線を送る。

『今日はありがとうございました……もしよかったら、配信の感想とか教えてほしいです』

 そうして哀香は恥ずかしそうに頬を赤らめてから、誰かの名前を呼びだした。

『〇△□さん、500ptありがとうございます』

 彼女は画面に向かってニコッと微笑んだ。

 それから、ペロっと右手を乳房から離した。

 すぐに手は元の位置に戻されたけれど、間違いなくソレが画面に映ってしまった。

 ソレはピンク色の可愛らしい突起物。

 乳首だった。

『次は、□◇〇さんですね。300ptありがとうございます』

 また同じような事を言って今度は左手を乳房から離した。チラッと左乳首が映る。

『□◇〇さん、1000ptありがとうございます』

 哀香が名前を呼び上げるたび、誰とも知らない相手にニコっと微笑んでお礼を伝え、カメラ目線で乳首を見せる。また雑談を挟んで名前を呼ぶ。この一連の行動が繰り返された。

『次は、□◇▽さんですね。……わぁ5000ptもありがとうございます! えへへ、とっても嬉しいです』

 5000ptとは現実のお金に換算すると7500円であり、このサイトにおけるポイントシステムだ。三分の一が運営会社に取られるとはいえ、時給換算すると私のバイト代より高い。

 この一ヵ月配信してきた中で、5000ptは最高額の支援金だった。

「本当にありがとうございます。配信を支援してくださり、大変ありがたいです! これで新しい衣装を買って皆さんに見てもらいたいです」

 満面の笑みを浮かべた彼女は手ぶらの状態でペコリと頭を下げた。哀香の素直な感謝の言葉には少しも邪な気持ちは感じなくて、不思議と爽やかな雰囲気さえある。

 汚れのない無垢な笑顔だった。

『では、お礼をしたいと思います。……ちょっとサービスしちゃいますね』

 彼女はカメラに悪戯ぽっく舌をチロっとして、両手を乳房から離した。

 哀香のFカップの巨乳がその先端まで画面に映し出される。

 無垢な笑顔とは裏腹に、その膨らみと突起は色欲と淫乱さを含んでいてそのギャップにくらくらとした。

『えへへ……どうですか? 私のおっぱい……。実はちょっとコンプレックスだったんですけど、最近は皆さんに褒めてもらって自信がついてます!』

 彼女はカメラに向かって自慢げに胸を強調したポーズをとった。その笑顔は純粋で、穢れを知らない天使のようだった。

 天使はカメラに生乳を近づけて、乳房を持ち上げて揺らし始めた。

 ブルンブルンと乳房が上下に揺れ、その柔らかさをアピールしていた。

 ピンクの乳首が残像として追従する。

 60fps、HD画質が配信サイトの限界だった。

「哀香の乳首……公開されちゃってる」

 大好きな親友のおっぱいが不特定多数の視聴者に見られている、という現在進行形の事実。

 全世界に向けて公開されているのだ。

 大学での大人しい哀香、私以外には人見知りを発動させる哀香、いつも図書館で夕方まで勉強している哀香。

 コツンと手がスマホに触れた。

 画面越しに乳首に触れようとした。

 手を伸ばしても私には何もできないという無力感と、好きなものが穢される背徳感が私の奥底から湧き上がる。

 最高に興奮した。

『えへへ……私のおっぱい、どうですか?』

 彼女がカメラに向かって微笑みかけるたび、コメント欄には大量の称賛のコメントが流れ始めた。

『見てくれてありがとうございます! 嬉しいです!』

 画面越しに向ける彼女の笑顔には、心の底からの言葉であるという証明が表れていた。

『さて、それでは名残惜しいですが今日の配信はここまでにしたいと思います。また次の配信でお会いしましょう! また私のおっぱい見に来てくださいね? バイバイです~』

 乳を揺らしながら手を振る彼女の姿で画面が暗転した。

「……終わっちゃった」

 私は一息ついてスマホを机の上に置いた。

 これが『アイちゃん』の生配信。

 結論から言って哀香は適任だった。

 配信を開始して一ヵ月。お気に入り登録は3桁をこえていたし、配信の収益は月の半ばで数万円に届く勢い。

 配信の流れとしては、まず哀香が挨拶してコスプレへの生着替えが始まる。そのあとは、最近会った他愛もない出来事を話したり、考えてきたミニゲームや企画、コメント欄を見ながらの雑談。そして配信の終盤にはお礼タイム。

 哀香はこの一連の配信のスタイルを確立しつつあった。

 彼女のファンは日に日に増えていったし、SNSの登録者も右肩上がりだ。

 私は彼女の傍らで彼女の人気が肥大化していく様子を見守っていた。

 実のところ、最近の配信はほとんど哀香に任せっきりで私はほとんど何もしていない。

 二人ではじめた生配信。

 始めたばかりの頃は私も一緒に参加して放送を手伝っていた。でも、評判は良くなくて登録者の伸びは悪かった。

 今思えば、それは間違いなく私のせいだった。

 初期の私達は、初めから乳首を晒した状態で登場して性器(規約違反)を隠すために絆創膏を一枚だけ張った姿で配信にのぞんでいた。

 配信サイトを見回したとき、規約を守らずに性器を晒している人だっていたし、私達より過激な放送をしている人なんて山ほどいたから、過激にしなくっちゃって思っていた。

 でも、恥ずかしくて堪らなかった私は仏頂面で配信に参加する置物でしかなかった。

 不機嫌でつまらなそうな私に向かって、コメント欄は『貧乳』『まな板』とか散々馬鹿にしてきたのだ。そのたびに私は不機嫌になってしまって、不満を隠さない態度でカメラを睨んでしまった。

 笑顔で私をなだめる哀香が隣にいたのは分かっていたけれど、どうしても私のプライドが邪魔をした。

 だって、この私が乳首を見せてあげているのに称賛以外のコメントをするなんて、バカなんじゃないだろうか?

 私は視聴者を見下して自分を守っていた。

 だからなのだろう。案の定、配信は伸び悩んだ。

 哀香の足を引っ張っている自覚はあったから過激なことで責任をとろうと、あの夏の日のように、お尻の穴を晒したりもした。

 なのについたコメントは『無表情でつまんない』だった。

 私はそれが本当に悔しくて、哀香に申し訳なくなってしまって、配信中に泣き出してしまった。

 それ以降、生配信には参加していない。

 つまるところ私は配信者には向いてなかったのだ。

 でも、哀香は一人でも配信を続けていた。私という足手まといがいなくなってからの哀香の配信は目に見えて視聴者を増やした。

 哀香には『視聴者を楽しませよう』という気持ちがあったことが1番の要因なのだと思う。

 彼女は視聴者を喜ばせるために、毎回新しい企画を考えて配信に挑んでいる。

 だた裸になるだけじゃなくて、出来るだけ違うコスプレを用意したり視聴者のリクエストにも応えている。

 彼女が作った『配信マニュアル』を見せられた時、私は愕然とした。

 たとえば、

 ①5秒以上の沈黙はなるべくしないようにしゃべり続けて、視聴者を飽きさせないようにあらがしめ配信前に話す内容を台本に書いて用意する。

 ②視聴者のコメントに丁寧にリアクションを返して、コミニュケーションを図る。

 ③配信終わりには良かった点、反省点をノートにまとめる。

 ④配信で得た収益の3割は配信のために使う。新しいコスプレ衣装、ライトや三脚、マイクなどの機材をそろえて配信環境を整える。

 などなど、これらはマニュアルのごく一部に過ぎない。

 哀香はマメだった。

 全ては自分の裸を見た視聴者に楽しんでもらうため……。

 視聴者にとって『アイちゃん』を特別な存在にするため。

 私にとって特別な彼女が他の人にとっても特別になっていく。

 私が哀香を好きなように、誰でも良いわけじゃない。

 誰彼かまわず裸が見たいわけじゃない。

『あの子』だからより見たい。

 笑顔を絶やさず、はきはきとしゃべる哀香からは、隠せない知性がにじみ出ていた。

 そんな女の子が乳首を見せてくれる。

 それには、大量生産されたエロとは違う特別な欲情があった。

「はぁ……」

 私はまた深いため息をついた。配信が終わって暗転したスマホの画面を余韻に浸りながら眺めていた。

 今日もまた哀香の裸が不特定多数に見られてしまった。

 私の大好きな親友が、視聴者に乳首まで晒して笑顔でおっぱいを揺らしていた。

 私の哀香なのに……。

「……最高っ」

 特別な存在の特別なモノ……それが今日も衆人環視に晒された。

 いくら踏み荒らされようとも失われない気高さと美しさがそこにはある。

 私は満足感に包まれた。

 この後、哀香を迎えに行って送り届けるために自宅を往復することなんか何も苦じゃない。

 早く彼女に会いたかった。

 私にしか見せない顔の彼女が待っているのだから。

 だから、早く帰ろうと思って立ち上がったとき、

『あん♡』

 という声が甘い声がスマホから聞こえてきた。
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