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10"この世界には秘密があった

48.二人が欲しいもの

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(哀香視点)

 夏休みが終わり、大学が再開して後期の講義が始まった。

 暑さはまだ残っているけれど、日が落ちるのも早くなり夕暮れ時には涼しげな風が吹くようになった。

 ほうっと、あの夏の日の情景が蘇る。

 記憶はまだ鮮明にこびりついていて、ふとした瞬間に思い出される。

 あの日、あの砂浜で、私たちは全裸になった。

 ──楽しかったなぁ……。

 ニチャァとこびりつくように口角が釣り上がりそうになるのを抑えなければならない。

 ここは大学の講堂だから。

「哀香ちゃん、ぼーっとしてどうしたの?」

「え?!……ちょっと、夏のことを思い出して」

 はっとして声のした方に誤魔化しの言葉を向けた。

 そこには、最近一緒に講義を受けるようになった同じ学部の女の子が不思議そうに首を傾げていた。

「夏のこと?」

「そう、夏休みにね、友達と旅行に行ったの。海に行ったりして……楽しかったなって」

「もしかして……彼氏とか?」

「そ、そんなんじゃないよ」

「絶対嘘、哀香ちゃんって美人だしモテるでしょ?」

「やめて、私なんか……」

 彼女のお世辞を笑って否定する。私はずっと自分に自信がなかったから、こんな風に褒められることなんてほとんどなかった。

「えー、絶対モテるって。ね、哀香ちゃんの彼氏の話、聞きたいな」

「だから本当にいないってば……」

 今までの人生で男の人から告白されたことなんてなかった。中学校から女子校に通っていたし、周りの友達もみんな彼氏がいる風なそぶりはなかった。

 私自身が大人しかったから、出来る友達もそういうことに疎い子たちばかりだったのだろう。

 今、話している子も耳年増なだけで彼氏がいたことはないらしい。

 だから自分の容姿を褒められても、むずかゆいだけで、あまり素直に喜べなかった。

 女同士の容姿賛美ほど信用できないものは無いのだから。

 でも最近、すこし心境の変化が芽生えていた。

『評判よかったからまたヌードデッサンに来てほしい』
『君みたいな美人のおっぱい揉めるなんて……』
『めずらしいね、君みたいな子が僕に脱毛させてくれるなんて』
『美少女のケツ穴、撮れるなんて思わなかったよ』
『可哀そう、あんなに可愛い子が彼氏の命令であんな水着……』

 今まで私が裸を晒したとき、受けた評価を思い出して胸が高鳴った。

 もしかして、私って美人なのかな……?

 自己肯定感が増して自意識が肥大化していくのを感じる。

 もっと……いろんな人の評価を聞いて確かめたいな……。

 そう思ったとき、私の脳裏にある考えが浮かんだ。

「今度、哀香ちゃんの彼氏、紹介してね!」

 彼女の言葉は頭に入ってこなくなって、私は次の計画に思いを巡らせた。


***


 バチィィン! と私のお尻が叩かれた。

「痛いっ! 痛いよぅ♡ ごめんなさい! 悠くん! 悠くんのこと愛してるからぁ! ゆるしてぇ♡」

「ほら、入れてやるから、もっとケツ突き出せ!」

「はいぃ♡ お願いします♡」

 私は四つん這いになって、お尻を高くあげる。恥部はもうびしゃびに濡れていて準備は万端だった。

 股に手をやって拡げて催促した。

「入れるぞ」

 ずぶっ、と悠莉のモノが私の膣の中にずぶずぶと入ってくる。

「ああぁぁん♡ 悠くんの、おっきいぃ♡」

 そして悠莉は私の中に入れたモノを出し入れし始めた。

「あ、ああぁん♡ ああぁぁん♡」

 パンッ!パァン!とお尻を叩かれながら私は喘ぐ。

 ぶぶぶ、と振動し始めたモノが、私の膣の中で暴れ回る。

「お゛っ♡ お゛ぉ♡」

 私はさらに下品な声で喘いでしまう。

「今日、俺以外の女と話してただろ、浮気か?」

「ち、ちがうよぅ♡ あれはただの友達だからぁ♡」

 バチィィン! バチィィン! と私のお尻に罰が与えられた。

『悠くん』は嫉妬深くて、私が他の男の子と話していると不機嫌になってすぐに暴力をふるってくる。

「ごめんなさい♡ 悠くん、愛してるのぉ♡」

 バチィィン!とお尻が叩かれる。

「哀香は俺だけ見てればいいんだよ!」

「はいぃ♡ 私に入れていいのは悠くんだけだからぁ♡」

 パァン!パァン!と私のお尻が叩かれて、バイブの振動が激しくなった。

「おら、いけ! いけ!いけ!」

「激しいよぉ、壊れちゃうう! あ、ああぁん♡ ああぁぁん♡」

 私は悠莉にお尻を叩かれながら絶頂に達した。私の膣がきゅうっとモノを締め付ける。

「はぁ……はぁ……」

「抜くよ?」

「うぁ゛ん♡」

 悠莉は私の中に入っていた棒状のものを抜き取り、私を仰向けに寝かせた。

 脱力感に包まれて天井を見上げてしばらく呆けた。

「……ありがとう、悠莉。気持ちよかった」

 私は悠莉と、最近お気に入りの『悠くんに激しく乱暴にされる』っていう設定プレイをしていた。

「私も、哀香が気持ちよくしてるの下品で変態ちっくで興奮する」

「えへへ。……じゃあ次は悠莉の事、気持ちよくしてあげるね」

 私はガクガクの腰を起こして彼女に抱き着いた。

「あっ、ちょっと待って……」

「え? ……どうしたの?」

「ごめん、バイトまで時間ない……」

「え、もうそんな時間? 私こそごめん。イクの遅くて……」

「いいよ、気にしないで。じゃあまたね」

 悠莉は私にキスをして、あっさりとシャワーに向かった。

 それが義務的に感じて、私のせいで彼女が気持ちよくなれなかったという罪悪感で胸がチクリとした。しかし同時に、ムッとする気持ちが湧いてしまった。

「最近、悠莉ってバイトばっかりだよね……」

 私は悠莉の背中に問いかけた。

 今回、私達はラブホテルに来てプレイしているけれど、これだって2週間ぶりの情事だったのだ。

「ごめん、お金貯めててさ」

「ラブホ代なら私が全部だそうか? そもそもここに来なきゃいけないの私の性癖のせいだし……」

 一度私の部屋でお尻叩きプレイをした際、隣の部屋から壁ドンが飛んできたからそれ以来ラブホに行かざるえなくなったのだ。

「いや、割り勘してくれるだけでうれしいよ」

 両親からの仕送りでラブホ代を払っていることに罪悪感があるけれど、成績を落とそうものなら地元に戻されるから、私はまだ継続的なバイトが出来ないでいた。

「でも、最近、全然時間合わないし……。何のためにお金貯めてるの? 何か欲しいものあるの?」

「うん、欲しいものがある。でも……内緒」

 悠莉は振り返って、にっこり笑った。その爽やかで純粋な笑みに私は悔しくなってしまった。

「ふーん、それって私との時間より大切なものなの? ねえねえ、教えて? なんで秘密にするの? 私をこんな変態にしといて見捨てるつもり? そんなの許さないからね? 私との行為の動画をばら撒いて私以外の人に会えないようにしてあげようか? それとも私の部屋に監禁されて、一生養ってほしい?」

「メンヘラムーブ、怖っ!」

 私は髪をぐちゃぐちゃにして顔に垂らしながら、まくし立てた。メンヘラ女の演技だから半分は冗談だけど、半分本気だった。

 悠莉はドン引きして、たじろんだ。

「でも、本当に内緒なの……ふふ」

 悠莉はまた可愛らしく笑った。

 それは無邪気に笑う幼い子供のようで思惑なんてない純粋無垢。

 その笑顔が私のために向けられたものだっていうのは当然分かっているけれど、理由を教えてくれない彼女に対して、密かにイライラする感情が燻っていた。

 だから私は……彼女が油断して完全に背中を向けた瞬間を見計らって、後ろから襲いかかった。



***



 悠莉はベッドの上で、私に組み敷かれながら電話をかけていた。

「あっ♡ もしもしぃ、あ、店長っ……すみません。私、ちょっと寝坊しちゃって……っ♡ 一時間ほど遅刻しちゃいます。はい、ありがとうございますん♡ 失礼しますぅぅ!」

 悠莉は通話を切ってスマホを投げ捨てた。

「あ、哀香ぁ……ひどいよ。なんであの店長に喘いでいる声を聞かれなきゃいけないのっ。電話してるときはやめてよ」

「だって、悠莉が私に隠し事するから……」

 私は不貞腐れながら、彼女の乳首を愛撫していた。彼女がこの前、好きだって言っていた人差し指で乳首を連続で弾く動作をやってあげる。

「あっ、はぁ……ん♡ やめてって。気持ちいからぁ……」

 悠莉は蕩けた顔で喘ぎながら抵抗するけれど、全然力が入っていない。

「早く、何を買うためにお金を貯めているのかいいなさい!」

 とれちゃえっ! って思って体重をかけて引っ張った。

「いたぁい!……はぁ……はぁ……もうっ! 分かったよう♡」

 私が乳首をつまんでグリグリと引っ張ると、ついに観念したかのように言葉を絞り出した。

「……サイドカーを買うんだ」

「? ……さいどかーって何?」

「バイクのサイドカーだよ、ほら」

 悠莉はスマホで画像を検索して私に見せた。

 画像を見せられて、ようやくどういうものか分かった。バイクの側面に取り付ける追加の座席みたいなものだった。見たことはある気がする。

「なんでこれほしいの?」

 バイクに興味がない私は、よく分からず首を傾げた。

 そんな私の反応を見て、ムッと頬を膨らませた悠莉は私と体制を入れ替えて、覆い被さり無理やり唇を奪った。

「んむっ!?」

 悠莉は私に唾液を流し込み、舌を口の中に強引にねじ込んできた。

「んっ……哀香と一緒に乗りたいからに決まってるじゃん! これなら高速道路も走れるし、もっともっと遠くに行けるんだもん! ほしいのほしいの!」

 悠莉は顔を真っ赤にして、叫んだ。

「そ、そうなんだ……」

 私は彼女の勢いに圧倒されて、理解が遅れたけれど、だんだんと嬉しさが込み上げてくるのが分かった。

「え、えへへ……うれしいな……」

 悠莉が私のことを想ってくれてのことだって伝わってきて、胸がぽかぽかした。

 めんどくさいメンヘラ女ムーブをしてしまったことを後悔した。

「これっていくらくらいの値段なの? 私もバイトしてお金貯めるから、一緒に買いたい!」

「えっと……工賃込みで100万くらい」

「え? なんて?」

「だから、100万くらいだって」

 私は悠莉が言ったことを理解するのに時間がかかった。

「ひゃ……ひゃくまんえん?」

「うん……それでも安い方だよ」

 悠莉は恥ずかしそうに頷いた。

「なんで、そんな高いもの買うの?」

 私は素朴な疑問を悠莉にぶつけた。100万なんて大金、普通の女子大生がポンと出せる額ではないはずだ。

「だってほしいんだもん」

 子どもが駄々をこねるような、シンプルな理由だった。

「……だから、言いたくなかったの。私が欲しいから買うんだもん。哀香にお金出してもらうの気が引けるし、驚かせたかったの」

「それを聞いちゃったらもう無理っ。私も半分だす! そしたら2倍早く、2人で乗れるようになるでしょ!」

 私は悠莉をギュッと抱きしめた。

 少し話してバイクのサイドカーを共同で買うことが決まった。

 そして、私達はラブラブなセックスをした。



***



 行為が終わった後。

 急いでシャワーを浴び終わって髪を乾かす悠莉に、私は声をかけた。

「ねえ悠莉、実は私も考えていたことがあって……詳しくはあとで話そうと思っていたんだけど」

「え、なに?」

 悠莉は髪を乾かす手を止めて、私を見た。

「バイクのサイドカーって100万円くらいするんでしょ? だからまずはそれを最優先に考えて、私もバイトするよ」

「……うん、ありがとう。一緒に買おうね」

 2人で協力して買うことはもう決まった。今となっては、協力してお金を貯めることにわくわくとした楽しみが生まれていた。

「でね……バイト以外にお金を稼げるかもしれない方法があってね。本当は無料でやるつもりだったんだけど、有料の方がいろいろ都合がいいみたいなの、私と一緒にやってくれる?」

「え? うん? よくわかんないけど……何するの?」

 私はあの時、ふと思って密かに準備を進めていた計画を彼女に明かすことにした。

「私と一緒に配信をしよう!」

「え?」

 悠莉はぽかんと口を開けて、首を傾げた。
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