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7"ひと夏のあやまち

36.海水浴でナンパ

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(哀香視点) 

 朝の街をバイクが風を切って駆けていく、街の景色がどんどん後ろに流れていく。

「 風が気持ちいいっ」

 バイクに乗るなんて初めての経験だったけれど、悠莉の運転は上手いと思った。スピードは出ているけれど怖くない。

 しばらく走ったところで、海岸線が見えてきた。

 キラキラ光る海、潮の香り、波の音は私の心を踊らせた。

「 海だー!!」

「あはは!海だーっ!!」

 私が叫ぶと、悠莉も嬉しそうに叫んだ。

 私達はバイクを停めて砂浜に降りた。

 目的地は都心から離れた海水浴場だった。わざわざ数時間かけてここまでやってきた。でも、何かの特集で見たことがある有名なところで人混みは十分。

 夏休み最初の休日は人でごった返していて、家族連れ、カップル、友達同士、いろんな人達が楽しそうにはしゃいでいる。

 思った通り……。思わずほくそ笑んだ。

 私たちはここにマイクロビキニ姿を見せつけるためにやってきたのだから。

 木の葉を隠すなら森の中。変態を隠すなら人の中……この人混みならば大勢に見てもらえる。

 そして、きっと私たちの姿は一夏の思い出として覆い隠されてしまうはずだ。

 一応、悠莉の友達も海水浴に行くみたいな話を聞いていたから、わざわざこんな離れたこの場所にやってきた。私としては知り合いに見られてもよかったのに、彼女は断固拒否した。

「着替えよっか?」

「……そうだね」

 私達は更衣室に移動して水着を取り出した。

 服を脱いで、先日買った純白のマイクロビキニにそれぞれ着替える。

 布を乳首とアソコにあてがった時、一度全裸の状態を経由したはずなのに、とてもドキドキした。

「お待たせ……。やっぱり哀香のおっぱいエロすぎ」

 悠莉が私に声をかけてきた。

 彼女も着替えが終わって、お揃いのマイクロビキニ姿で並んでお互いの姿を確認する。

「乳輪ちょっとはみ出てるよ……気づいてる?」

「うん、わざと」



「だと思った……」

 悠莉はドン引きして優しく笑った。

「じゃあ行こっか」

「う、うん」

 私達は手を繋いで更衣室を出た。砂浜に降りると、潮風が私の髪を揺らして暑い日差しが肌を指す。

 日焼け止めは朝、塗ってきたから大丈夫。

 私は悠莉と波打ち際まで歩いた。本当は走り出したかったけど、人混みがそれを許さなかった。

「お、おい……アレ見ろよ」 
「可愛くね? なんであんな子達が?」
「うおっ!なんだあの2人……」
「エロっ!」
「食い込んでんじゃん」
「美人だからって調子に乗ってない?」

 私達をみて驚く声、声に出さずとも好奇の視線をすれ違いざまに感じる。

 私の握っている悠莉の手にギュッと力が加わった。私も握り返す。

「……見られてるね」

「うん、見せちゃってる」

 周りの視線を気にしつつ、波内際に来て海に足をつけた。

「足、冷たいね」

 悠莉はそう言いながら、足を水に浸してパシャパシャと波を蹴った。

「実は私……海って初めてなんだ」

「え、 そうなの? なんで秘密にしてたの?」

 私の告白に悠莉は意外そうな声を上げた。

「別に秘密にしてたわけじゃないよ。ただ言いそびれただけ」

「ふーん……じゃあ、また哀香の初めて貰っちゃった」

「うん。あと、スクール水着以外を人前で着るのも初めて」

「私もこんな水着は初めて……やっぱり、こういう格好は恥ずかしいね……」



 悠莉が顔を真っ赤にして俯いた。お尻をもじもじしながら隠している。

「私は好きだよ、この水着。だって……すぐ見てもらえるもん」

 何もしなくても、お尻はほとんど丸見えで食い込んでる。

 そして……何よりも。

 私はペラっと水着をめくった。

 悠莉にだけ見えるようにチラッと乳首を見せる。

「やめなさい!」

「えへへ……ぶぁ!?」

 驚いた。悠莉は私を黙らせるために、顔面に海水をぶっかけてきた。

 塩っぱい海水の味、目にも入った。

「やったな!」

 私もやり返した。

 2人でバシャバシャと海水を掛け合う、楽しくて仕方がなかった。

 えっちな目的だけじゃなくて単純に海が楽しかった。

 きゃっきゃと黄色い声を上げて彼女とじゃれあった。

 そんな時、だった。

「君たち可愛いね! 一緒に遊ばない?」

 男性の3人組が私達に話しかけてきた。


***


 男達に話しかけられた私は思わず、悠莉の腕にしがみついた。

 人見知りスイッチがオンになって

「ね、ねぇ悠莉……これって」

「うん、ナンパだね」

 それは絵に描いたようなナンパだった。

 馴れ馴れしくヘラヘラしながら、男の人たちが私達に近づいてくる。

「君たち可愛いね。もしよかったら、俺達と遊ばない?」

 3人組のリーダー格っぽい人がそう言って話しかけてきた。

 剃り込みの入ったツーブロックで、筋肉質な身体をしている。

 見るからにこういう事に慣れてる様子で、この為に身体を鍛えているんじゃないかってくらい自信満々だった。

 他の2人も、同じような印象でどちらも髪を染めてチャラい感じだ。

「ね? いいでしょ」

 リーダー格の男が悠莉の肩に手を置いて、身体を近づけた。

「は?  触んないで。なんであんた達と遊ばなきゃいけないの? キモ」

 悠莉は眉間にシワを寄せて、侮蔑するように男の手を払いのけた。

 一瞬、男がムッとした表情を見せた。

 私はオドオドするばかりで、悠莉の後ろに隠れてしまった。喧嘩はしないでほしい。

「おいおい、それはないんじゃない?」

 男が苦笑いした。なぁ? っと仲間に同意を求めた。

「そんなエロい水着で女の子2人だけって、誘われるの待ってたんじゃねーの?」

「それな」

 他の2人もニヤニヤしながら、マイクロビキニを着た私達を舐め回すように見回した。

「そんなんじゃないし……これは罰ゲームで……」

 悠莉は恥ずかしがって顔を真っ赤に染めた。バレバレな嘘で言い繕って誤魔化そうとする。

 たしかに、こんなに際どい水着で人の多い海水浴場に来たら何て思われても仕方ないような気もする。

 そもそも、見せるために私達はここに来ていた。でも実際問題、いざ他人に話しかけられると風景のように思っていた人混みが突然、意思をはらんで実体化したような気分。

 ちょっと楽しくなってきた。

「君はどう?」

 悠莉が言い淀んでいると、男が私に話しかけてきた。

「え……っと」

 私は言葉に詰まった。『ナンパ』されるなんて初めての経験だったし、なにより彼らの陽キャオーラに圧倒されていた。

 でも、彼らの視線が私が向けられている場所を察するとピックっと反応してしまう。

 ──あっ乳輪、見てもらえてる♡

 全身見てもらえるように彼女の体の陰から姿を晒した。

「待ちなさい」

 悠莉が私を庇うように割り込んできた。

「……この子に何かしたら殺すから」

 悠莉は男達を睨みつけて、威嚇した。

「おお、怖い」

「いいね! 俺、気が強い女ってタイプだわ」

 彼らは怯むどころかニヤニヤと笑っている。まるで睨む悠莉を小動物扱いして、バカにしているみたいだった。

 悠莉がブチギレ5秒前なのを察した私は彼女の腕に抱きついた。

「……大丈夫だよ。悠莉」

 私は彼女の陰から身体を出した。

 ちょっと恥ずかしそうに、片手で股間の食い込みを直す。

「君、大人しそうなのにエロい身体してるね」

「そ、そうですか……」

 彼らは明らかに私の胸に目線を向けていた。

 わずかに隠された乳首に狙いを定めているようでゾクっとする。

「あの……あんまり見られると恥ずかしいです……」

「君エロすぎ。でさぁ、どう?  俺らと遊ばない?」

「……遊ぶって何するんですか?」

 私はドキドキして、悠莉の手を握りながら聞いた。

「何って、それは……ねぇ?」

 男は他の2人に目配せをした。

「そうそう、楽しいこと」

「俺たちとイイコトしようよ」

 彼らは今までより増して、私たちの体にいやらしい視線を向けてきた。

「イイコトって……あの?  私よくわからなくて……」

「あれ?  なに、もしかして君たち、経験ないの?」

「え、あの……はい」

「え?  マジ!? 」

「ちょうどいいじゃん。俺たちで教えてあげようぜ」

 私は思わずその『イイコト』っていうのを想像してしまって、悠莉に視線を向けた。ぎゅっと腕を掴む。

「この子には手を出さないで」

 すると悠莉は男達にますます噛み付く勢いで私を庇ってくれた。

「いいじゃん。2人で来てるんでしょ?  カレシとかいないなら俺たちと楽しもうよ」

「そうそう、俺たちこう見えても慣れてるから」

 男達は余裕たっぷりの表情で悠莉をあやすようになだめた。そんな態度に腹が立ったのか、彼女はよりムッとした。

「キモ……なんであんた達とエロいことしなきゃいけないの?」

 そう言って彼女が男を睨みつけると、男達は意外にも目を丸くした。

「 え?  エロいこと?  俺たちバーベキューやってるからさ、肉もいっぱいあるし一緒にどうかなって」

「……は?」

(……え?)

「男だけで来たけど、やっぱり可愛い子と一緒に楽しみたいじゃん? もちろん奢るよ」

 彼らが発している言葉の意味を理解するのに私は時間がかかった。

 つまり、私達とバーベキューしたいってこと?

 質問を頭の中で反芻する。

「どう? 俺たちと遊ばない?」

「え、あの……」

(遊ぶって、そういう意味だったんだ。あっ……まずは油断させてからその後ホテルに連れ込まれたりするのかな?)

 私は考えを巡らせた。

 悠莉はどう思ってるんだろうと顔色を伺うと、彼女は顔を真っ赤にしていた。

 おそらく私と同じ勘違いをしていたのだろう。多分、私より素直に……。

「ね? いいでしょ?」

 男がグイグイと誘ってくる。

 だから私は、

「バーベキューだけなら……楽しそう。……ね? 」

 彼らの誘いにまんざらでもない顔を作って、悠莉に同意を促した。

「え? う、うん……あなたがいいなら……」

 悠莉は戸惑っていたけど、私の意図を汲み取ってくれたようだ。

「おっ! マジ? 2人とも可愛いし、楽しくなりそう」

「やったぜ!」

「じゃあ早速、移動しようか」

 男達は意気揚々と私達を案内してくれた。

 彼らに背中を押されていると、のこのこと罠にかかりに行くような不安を感じる。

 これからどうなるんだろう、って考えてゾクゾクしているのは内緒だった。

「着いたよ」

 連れてこられたのは、海水浴場から少し離れた浜辺だった。

 岩場に囲まれた小さな砂浜で、周りは林に囲まれている。私たちの他に数人のグループがいるだけで、とても静かだった。

「ここなら人目を気にしないで楽しめるね」

「いい場所見つけたでしょ? ちゃんと『バーベキュー可』だよ」

 男の1人が指差した先には朽ち果てた看板があった。

 男達は荷物を置くとさっそくバーベキューの準備を始めた。

 私も手伝おうと思ったけれど、彼らが何もかもやってくれた。

 そして、あっけなく時間が過ぎた。

 炭に火をつけて、網の上で肉や野菜が焼かれて、取り分けてくれて、お酒を飲むか聞かれて、18歳だから断って、他愛もないことを聞かれて、答えて、自慢話を聞かされて、愛想笑いして、悠莉も適当に笑って、お肉を食べて……そんな感じ。

 なんていうか、普通だった。

 ご馳走してもらったから一食浮いたなってくらいの些細な満足感。

 傍の悠莉も同じことを思っていたのだと思う。

 私達は今日ここに、異常なことをしに来たのだから。

 ──こんなのじゃ、全然満足できない……。

 私は物取りなさを感じていた。

 でも、このままバーベキューは何事もなく終わろうとしていた。

「ふぅ、食った食った」

「じゃあアレやろうぜ。腹ごなしとデザート代わりに」

「お、いいね」

 3人の男達はそう言うと、1人が荷物を探り出した。

「アレってなに?」

 悠莉が何気なくそう聞くと、男達はニヤっと笑った。

「夏と言ったらコレでしょ!」

 そして、彼らの1人がドヤ顔でそれを私達に見せて来た。

 それは、黒と緑の縞模様の球体で1980円っていう値段のシールが貼られている。

 つまり、スイカだった。

「これでスイカ割りしようぜっ!」

 漫画とかアニメで『スイカ割り』のシーンを見たことあるけれど、実際にやったことなんてなかった。

「……スイカ割り初めてです」

「そっかぁじゃあ俺たちとやろう!」

「君が割ってみる?」

 彼らは何気ない感じで、私達に聞いてきた。

「やだ」

 悠莉はあまり興味がなさそうだった。子供騙しのレクリエーションだと思ったのだろう。

「あ、私やってみたいです」

 でも私は思うところがあって、誘いに乗った。

 単調な日常を変えるのはいつだって自分の意思なのだから……。

 スイカ割りが始まった
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