上 下
14 / 60

第十四話 チーレムな日常と、異変と

しおりを挟む
 雀っぽい謎生物の声で眠りから醒める。帝都の宮殿で味わったベッド程ではないが、これもかなり上物で、すこぶるよく眠れた。大あくび一つして鎧戸を開けると、眩しい陽光が部屋に差し込む。

 召喚されてから向こう、戦ってばかりの日々だったが、今は秋頃だろうか。衣類掛けに引っ掛けておいたローブを羽織り、部屋の壁に掛かっている絵画を見る。この家の家族と思しき十人弱の肖像画だ。いずれの顔も、帝都や砦で見かけていない。無事ならば良いのだが。

 階段を降りて食堂に行くとすでに食卓に着席し、食事をしていた一同が、マルコとリリス以外起立して挨拶してきたので、挨拶返しの後再着席を促し、俺自身も座った。ラドネスの風習では、準備のできたものからさっさと食事してしまうものらしい。

 しかし、この世界というか帝国には「いただきます」だとか食前の祈りとか、それ系の風習ないのな。まあ、この世界に来る前の俺も部屋でそんな感じだったから、大して勝手は変わらないが。

 それにしても、食糧事情は厳しい。何しろ冷蔵庫などという便利な物は存在しないので、日持ちのする焼きしめたパンと干し肉がメインだ。これが少なくとも一週間続くのはきつい。何とかしたいところだ。半ば野生化してるマルコを城外の森林にでも置いとけば、勝手に何か狩ってきてくれるんじゃなかろうか。

 それにしても、百合ップルとリリス以外の女性陣+ユコのラブ視線がどうにもこうにも俺に突き刺さる。俺、モテ過ぎと違うか。マルコに至っては、ベルが椅子に結んだリードをほどいたら、襲い掛かってきそうである。性的な意味で。

「ところで皆、食事が終わったら食料を調達しに行かないか? 街を調べれば釣具が手に入るかも知れん」

 ちょっと空気を変えたかったこともあり、提案をしてみる。

「良いお考えだと思います」

「任せろ! オレ、森のヌシ狩ってくる!」

 ベルを筆頭に、めいめい快く賛同してくれた。

 ◆ ◆ ◆

「おお、また釣れたぞ」

 昼下がり、用水路の釣りチームと森の狩りチームに分かれて食料調達に励んでいるわけだが、さっきから釣れて釣れて仕方ない。釣具は、幸いなことに近くの民家に十分な数があった。

 ちなみに、釣りチームは俺、ベル、サタン、フォル、ユコ、リリス。森に詳しい猫人族グリマルキンの二人と、体力お化けの半野生児は狩りチームである。

「ルシくんほんとよく釣るねー。お姉ちゃんさっぱりだよ」

 二つ右隣りに座っているサタンが竿を引き上げると、見事に餌だけ取られていた。無論、ボウズである。

「魔法や科学だけではなく、釣りも……さすがルシフェル様です」

 俺とサタンの間で、熱のこもった視線を向けて賞賛するフォル。ちなみに釣果一尾。

「どうしたらそんなにお上手に釣れるのですか?」

 左隣のベルが、真剣な眼差しで問うてくる。ちなみに釣果二尾。どうといわれてもな。何故か知らんが、やたら釣れるんだからしょうがない。

「こんなに山ほど釣っても食いきれんな。そろそろ引き上げるか」

 入れ食いというやつか、ビクが一杯になってしまった。背後では、ユコがリリスの子守をしている。何をしているのかと見てみれば、ラドネス語を教えているようだ。今度俺も教えてもらうかな。

 とどめにもう一尾釣り上げ、我々は館に戻った。

 ◆ ◆ ◆

「あ~生き返るうぅ~」

 夕飯にたら腹魚を食った後、一番湯を頂くことになった。我ながらおっさん臭いリアクションだ。手ぬぐいとか頭に乗せちゃってるんだぜ。

 ラドネスの風呂は、日本と同じように湯船に浸かるタイプのものだ。五右衛門風呂というやつが近いかもしれない。裕福な家のようだから、浴室も広々としていて気持ちいい。

「ルシフェル様、お背中を流しに参りました」

 呑気にアニソンなど歌っていると、扉の向こうからユコの声が聞こえた。

「おう、わかった」

 湯船から出て風呂椅子に座ると、胸元まで大きなタオルを巻いたユコが入ってくる。ここではたと気づく。ユコの性自認は女だ。つまりこれはあまり宜しい事じゃないんじゃないか?

「お背中流しますね」

 石鹸で泡立ったタオルで、背中が擦られる。うわーどうしよう、絵面的には男と女で。でも、体的には男同士でメンタル的にはやっぱり男と女。なんだか混乱してきたぞ。

「前の方も流させていただきます」

 前!? 前はいかんだろ、前は!

「大丈夫だ! 大丈夫だぞ、自分でできる! だからもう上がって良いぞ!」

「そうですか? では、お湯だけおかけしますね」

 背中の泡を流すと、彼は出ていった。あー、緊張したわ……。

 ◆ ◆ ◆

 風呂も上がって、今はベッドの上。あとはもう寝るぐらいだ。『獣』は不眠不休でまだ見張りをしてるのだから、大したもんだ。本当に色んなことが今まであったな。物騒だし何かと不便だが、力と賞賛と愛に恵まれている今の生活は、今までの人生で最も充実していると感じる。

「お兄ちゃん、おきてる?」

 リリスがノックもせずに扉を開ける。手には枕を抱えていた。ぶかぶかの寝間着が肩からずり落ちそうだ。

「どうした、眠れないのか?」

 こくりと頷く。

「いっしょにねてもいい?」

 大胆だな、おい。いやまあ、子供らしいっちゃらしいが。紳士な俺が手招きすると、その小さい体を毛布の中に潜り込ませてきた。

「あれからまだ何も思い出せないか?」

 無言で頷く。ふーむ、記憶喪失ってどうしたらいいんだろうな。ショックを与えるといいとか言うけど、あれほんとなのかね?

「そうだな、天界で知った異世界の話でもしてやろう」

 車やパソコン、スマホといったものを、この世界のレベルでも分かるように説明してみせると、食い入るようにリリスは耳を傾ける。

「でな、蛇口というものをひねるだけで水が――」

 気付くと、彼女は静かな寝息を立てていた。俺も寝るか。ランプの明かりを吹き消して横になると、心地よい眠りに落ちていった。

 ◆ ◆ ◆

 何だ? 何かが体にのしかかってる。重い。それに首が息苦しい。

 あまりの息苦しさに瞼を開けると、俺の上にリリスが跨って、首元に両手を伸ばしていた!

 幸い俺の体は自動防御されているので首が締め切られるようなことはなかったが、慌ててリリスを突き飛ばす。

「リリス! 何を考えてるんだ!」

 鎧戸を開け、月明かりを部屋の中に入れると、茫然自失となって自分の手を見つめるリリスの姿が照らされた。

「ちがっ……! リリス、ちがうの! こんな事したくないの!」

 混乱しきって、とうとう大声で泣き出してしまった。騒ぎを聞きつけて、隣で寝ていた寝間着姿のベルが乱入してくる。

「ルシフェル様! 一体何が……!?」

「あー……うむ。そのちょっと何だ……」

 さて、このことを正直に話したものかどうか。頭を掻いて、思わず考え込んでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...