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第十二話 廃都にて
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天使を壊滅させると、車座になり、再びリリスをどうするかという話になった。時計がないので正確な時刻はわからないが、午後三時あたりだろうか? リリスは俺の膝の上、サタンは再び哨戒中である。こき使ってすまんな。空を飛べるのが便利すぎるのだ。
「我は、リリスをこのまま一緒に連れて行きたいと考え直した。理由は三つある」
俺の言葉に、一同が身を乗り出してくる。
「一つ、この子には恐らく身内がいない。彼女はパダールへ向かう街道の、進行方向に倒れていた。高い確率でパダールの者だが、パダールは壊滅している。一方で、どういう訳か我に大変懐いている。記憶もないのに、誰も知った顔がいない所に居るよりは、我と居るほうが安心するのではないかということ」
右手の人指し指を立てる。皆、俺の話に聞き入っている。
「二つ、地上にはすでに安全と言いきれる場所がない。天使が我らをすり抜け後方を襲わないという保証はない。それよりか、寧ろ最強である我と共に居たほうが安全なのではないかということ」
中指を立てる。驕りかも知れないが、当を得ているという自信がある。
「三つ、先程の我の魔法を見ただろうが、あれはリリスが我に手を触れたことでパワーが増したものだ。良くない言い方かも知れぬが、この子は戦力になる」
薬指を立てる。ここまで理由を並べると、誰も反論はないようだ。
そして、四つ目の隠し理由として、リリスが何者なのか純粋に知りたい。不自然に道端で倒れていたこと、記憶喪失なこと、魔法語しか通じないこと、魔力を増幅させる謎の能力など、不可解な点が多すぎる。
一同はリリスの同行を承知し、再び進軍を再開した。ベル、ユコと馬車で対面になり、リリスが隣りに座る。パンを食む彼女を見つめていると、視線に気づいたのか不思議そうな顔で見つめ返してきた。
うーん、どうもこの子とは以前にどこかで会っている気がする。しかし、帝都の群衆に紛れていたというパターンは、パダールへ向かう道に倒れていたことと矛盾するし……。気のせいなのだろうか。
◆ ◆ ◆
翌日、いくばくかの下級天使に襲われたぐらいで、大過なくパダールに到着した。本来防衛にあたっていたベアトリーチェとケルビエルが打って出てきたので、こちらは手薄だったようだ。空を自由に飛べる天使たちにしてみれば、城や街に拘る必要もないのだろう。
パダールは中世ヨーロピアンな世界観を表すかのように、巨大な城壁で囲まれている。城門は開放されていたので、すんなり中に入れた。ほとんど損傷のない城壁と異なり、街中は多くの家屋が焼け落ちていた。すでに白骨化した死体も、あちこちに転がっている。どれほど惨たらしい虐殺が行われたのだろう。砦の時と同じように、黙祷を捧げながら街の奥へと進んでいく。
ベルの広げる、在りし日のパダールの地図を頼りに城内の食料庫を調べてみたが、残念ながら全て焼き払われるか鼠のような害獣に食い荒らされていた。後詰めが来るまで、今積んである食料が頼りというわけだ。まあ、釣りや狩り、あるいは城周囲の放置されている農作物を手に入れるという選択肢もあるが。
陽も傾いてきたので、伝令として馬車から外した馬と御者を遣わせ、焼け残った大きな空き家を物色する。着の身着のまま逃げたのであろう、鍋の中で宜しくない状態になっているシチュー(だったと思しき物)が残っていたが、ユコがてきぱきと屋内を掃除し、人の住める状態にしてくれた。
こうして、約一週間に渡る九人の共同生活が始まった。
「我は、リリスをこのまま一緒に連れて行きたいと考え直した。理由は三つある」
俺の言葉に、一同が身を乗り出してくる。
「一つ、この子には恐らく身内がいない。彼女はパダールへ向かう街道の、進行方向に倒れていた。高い確率でパダールの者だが、パダールは壊滅している。一方で、どういう訳か我に大変懐いている。記憶もないのに、誰も知った顔がいない所に居るよりは、我と居るほうが安心するのではないかということ」
右手の人指し指を立てる。皆、俺の話に聞き入っている。
「二つ、地上にはすでに安全と言いきれる場所がない。天使が我らをすり抜け後方を襲わないという保証はない。それよりか、寧ろ最強である我と共に居たほうが安全なのではないかということ」
中指を立てる。驕りかも知れないが、当を得ているという自信がある。
「三つ、先程の我の魔法を見ただろうが、あれはリリスが我に手を触れたことでパワーが増したものだ。良くない言い方かも知れぬが、この子は戦力になる」
薬指を立てる。ここまで理由を並べると、誰も反論はないようだ。
そして、四つ目の隠し理由として、リリスが何者なのか純粋に知りたい。不自然に道端で倒れていたこと、記憶喪失なこと、魔法語しか通じないこと、魔力を増幅させる謎の能力など、不可解な点が多すぎる。
一同はリリスの同行を承知し、再び進軍を再開した。ベル、ユコと馬車で対面になり、リリスが隣りに座る。パンを食む彼女を見つめていると、視線に気づいたのか不思議そうな顔で見つめ返してきた。
うーん、どうもこの子とは以前にどこかで会っている気がする。しかし、帝都の群衆に紛れていたというパターンは、パダールへ向かう道に倒れていたことと矛盾するし……。気のせいなのだろうか。
◆ ◆ ◆
翌日、いくばくかの下級天使に襲われたぐらいで、大過なくパダールに到着した。本来防衛にあたっていたベアトリーチェとケルビエルが打って出てきたので、こちらは手薄だったようだ。空を自由に飛べる天使たちにしてみれば、城や街に拘る必要もないのだろう。
パダールは中世ヨーロピアンな世界観を表すかのように、巨大な城壁で囲まれている。城門は開放されていたので、すんなり中に入れた。ほとんど損傷のない城壁と異なり、街中は多くの家屋が焼け落ちていた。すでに白骨化した死体も、あちこちに転がっている。どれほど惨たらしい虐殺が行われたのだろう。砦の時と同じように、黙祷を捧げながら街の奥へと進んでいく。
ベルの広げる、在りし日のパダールの地図を頼りに城内の食料庫を調べてみたが、残念ながら全て焼き払われるか鼠のような害獣に食い荒らされていた。後詰めが来るまで、今積んである食料が頼りというわけだ。まあ、釣りや狩り、あるいは城周囲の放置されている農作物を手に入れるという選択肢もあるが。
陽も傾いてきたので、伝令として馬車から外した馬と御者を遣わせ、焼け残った大きな空き家を物色する。着の身着のまま逃げたのであろう、鍋の中で宜しくない状態になっているシチュー(だったと思しき物)が残っていたが、ユコがてきぱきと屋内を掃除し、人の住める状態にしてくれた。
こうして、約一週間に渡る九人の共同生活が始まった。
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