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第二章 南海の海魔王編
第二十八話 魔導剣士ロイ、凶鳥王を売る
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いやはや、久しぶりだな、ルンドンべア!
街道が、雪に閉ざされる前に帰ってこれて良かった。
「あっちの料理も美味かったけど、女将さんの料理が恋しいっすよ~」
さっそく、空腹を訴えるマイシスター。
「悪いが、食事よりも先にやることがある。時間との勝負だ。行くぞ」
各人の同意も待たず、早歩きで目的地へ向かうのだった。
◆ ◆ ◆
たどり着いたのは、なんだか懐かしい気がする、ベイシック邸。
「『スティング・ホーネット』のロイです。ベイシック卿はご在宅でしょうか?」
「ご在宅であるが……。何用か」
門衛に問われる。この間も、もどかしい。
「完全新種の魔物の、ご報告に参りました。時間との勝負です、とお伝え下さい」
「待っていろ」
つくづくもどかしいが、ご在宅なだけでもラッキーだ。まんじりともせず、彼の招きを待つ。
「許可が降りた。腰のものは、預からせてもらう」
害意なんてないよ、と言いたいけど、そんなことを言っている時間も惜しい。
執事さんの案内で、応接室に通される。
「やあやあ、これは久しいですな! なんでも、新種の魔物を発見されたとか?」
「はい。まずは、論より証拠ですね」
ベルトポーチから、あのバカでかいゴーグルを取り出す。ノンキしてた卿も、息を呑む。
「パティ。急いでシャックスの姿絵を描いてくれ」
パティのことだから、やたら丸っこいシャックスが描かれることだろうが、彼女が一番絵が上手いので、そこは目を瞑ろう。
「シャックス、ですと?」
卿が、突如飛び出した謎ワードに首を傾げる。
「やつ自身が、そう名乗っていました。さて、ベイシック卿。ここからは商談です。シャックスの情報を、この値段で買っていただきたい。金貨で」
指で、ちょいとお高い値段を提示する。
「や、それはなかなか……。もう少し、なんとかなりませんかな」
「我々は、北から馬車を飛ばしてきました。少々無茶もしました。シャックスの情報は、間もなく南下し、こちらに届くでしょう。正式発表、一番乗りのチャンスですよ」
「む、むむ……。せめて、この金額なら」
卿が、指で少しだけ額を下げる。よし、最初に考えていた、落とし所の値段だ。
「では、それで。契約成立です。契約書を」
互いに、手早く交わす。
「では、特徴を述べていきます」
翼長。金属でできた、その体。ボンベ。人語を解し、未曾有の魔法を使うこと……などなど、知りうる限りの情報を開示していく。言葉で伝わらない部分は、パティの絵頼りだ。それを、素早く書き留めていく卿。
「や! これは値千金ですな! 吾輩の知る限り、どの分類にも属さない魔物です。申し訳ないですが、学院に早馬車を飛ばさねばなりません。失礼。セバスチャン、報酬の支払いを」
そう言って、ゴーグルとパティの絵を取り、外套をまとうと、卿はさっそうと飛び出して行った。
どうでもいけど、執事さん、やっぱセバスチャンなんだな。異界知識によると、向こうの執事はセバスチャンが多いらしいが。
「こちらを、お確かめください」
などと考えていると、ずしりと重い袋が手渡される。さっそく勘定。
「……確かに、受け取りました。では、我々はこれで」
我々も、退出する。
◆ ◆ ◆
「はー。こういう稼ぎ方も、あんすねえ」
義妹が、感心のため息を漏らす。
「まあな。情報は金になるぞ。覚えておくといい。さて、昼飯がまだだったな」
サンが、「待ってました!」と、パチンと指を鳴らす。
というわけで、懐かしの「青い三日月亭」だ!
「いらっしゃいませ! やや、これはロイさんたち。お久しぶりです!」
バーシの、相変わらずバカでかい声が耳に痛いが、それすらも嬉しさというものだ。女将さんも、出迎えてくれる。
「二人とも、お久しぶりです。ラドネスブルグは比較的暖かいですね。なにか、温まるものをください……でいいかな?」
皆を見回すと、異存ないようだ。ついでに、小声でシャックスについて一切口外しないように言い含める。ここで触れ回ったら、卿への背信行為だ。
とりあえず、エーデルガルド旅行の思い出話に花を咲かせ、時間を潰す。サウナ、面白かったなあ。
雪崩に飲まれるなんてのも、初めての経験だ。こちらは、二度とやりたくないが。
「お待たせしました。ホワイトシチューと、パンです。それと、こちらのお酒を」
手際よく、飲食物を並べていくバーシ。
「君も、相変わらず元気そうだな。いいことだ」
「ありがとうございます。こうしてここで働けるのも、あのとき頭を下げてくださった、ロイさんのおかげです。日々学ぶことばかりで、嬉しいです」
良き哉良き哉。
「そういや、寿司はどうなった?」
「今じゃ、あちこちの店で売りに出されてますよ。すっかり、馴染みましたね」
そいつぁ、なにより。
さて、おしゃべりをしてると冷めてしまうな。いただこう。
うん! 甘い、クリーミィ! 根菜たちはホクホクで、牛スネはほろりとほぐれる。口の中が、あったか祭だ! パンもふかふかで、実に良い、味の受け皿。
そしてワインを口に含むと……ずしりと来る、辛口フルボディ!
「ずいぶん、強い酒だね」
「度数が高いもののほうが、より体が温まるでしょうとの、女将さんのご判断です」
ふう。たしかに、こいつぁ効く! 底冷えする真冬に、汗だくだ。
「美味しいね、ロイくん」
笑顔を向けてくる、ナンシア。あれから、ずっとこんな口調と態度だ。調子が狂うというか、照れくさいな。
しかし、姉か……。郷愁を、くすぐられるなあ……。
こうして、美味しい料理をごちそうさま。
あとは、卿の頑張り次第だ。気張ってくださいよー!
街道が、雪に閉ざされる前に帰ってこれて良かった。
「あっちの料理も美味かったけど、女将さんの料理が恋しいっすよ~」
さっそく、空腹を訴えるマイシスター。
「悪いが、食事よりも先にやることがある。時間との勝負だ。行くぞ」
各人の同意も待たず、早歩きで目的地へ向かうのだった。
◆ ◆ ◆
たどり着いたのは、なんだか懐かしい気がする、ベイシック邸。
「『スティング・ホーネット』のロイです。ベイシック卿はご在宅でしょうか?」
「ご在宅であるが……。何用か」
門衛に問われる。この間も、もどかしい。
「完全新種の魔物の、ご報告に参りました。時間との勝負です、とお伝え下さい」
「待っていろ」
つくづくもどかしいが、ご在宅なだけでもラッキーだ。まんじりともせず、彼の招きを待つ。
「許可が降りた。腰のものは、預からせてもらう」
害意なんてないよ、と言いたいけど、そんなことを言っている時間も惜しい。
執事さんの案内で、応接室に通される。
「やあやあ、これは久しいですな! なんでも、新種の魔物を発見されたとか?」
「はい。まずは、論より証拠ですね」
ベルトポーチから、あのバカでかいゴーグルを取り出す。ノンキしてた卿も、息を呑む。
「パティ。急いでシャックスの姿絵を描いてくれ」
パティのことだから、やたら丸っこいシャックスが描かれることだろうが、彼女が一番絵が上手いので、そこは目を瞑ろう。
「シャックス、ですと?」
卿が、突如飛び出した謎ワードに首を傾げる。
「やつ自身が、そう名乗っていました。さて、ベイシック卿。ここからは商談です。シャックスの情報を、この値段で買っていただきたい。金貨で」
指で、ちょいとお高い値段を提示する。
「や、それはなかなか……。もう少し、なんとかなりませんかな」
「我々は、北から馬車を飛ばしてきました。少々無茶もしました。シャックスの情報は、間もなく南下し、こちらに届くでしょう。正式発表、一番乗りのチャンスですよ」
「む、むむ……。せめて、この金額なら」
卿が、指で少しだけ額を下げる。よし、最初に考えていた、落とし所の値段だ。
「では、それで。契約成立です。契約書を」
互いに、手早く交わす。
「では、特徴を述べていきます」
翼長。金属でできた、その体。ボンベ。人語を解し、未曾有の魔法を使うこと……などなど、知りうる限りの情報を開示していく。言葉で伝わらない部分は、パティの絵頼りだ。それを、素早く書き留めていく卿。
「や! これは値千金ですな! 吾輩の知る限り、どの分類にも属さない魔物です。申し訳ないですが、学院に早馬車を飛ばさねばなりません。失礼。セバスチャン、報酬の支払いを」
そう言って、ゴーグルとパティの絵を取り、外套をまとうと、卿はさっそうと飛び出して行った。
どうでもいけど、執事さん、やっぱセバスチャンなんだな。異界知識によると、向こうの執事はセバスチャンが多いらしいが。
「こちらを、お確かめください」
などと考えていると、ずしりと重い袋が手渡される。さっそく勘定。
「……確かに、受け取りました。では、我々はこれで」
我々も、退出する。
◆ ◆ ◆
「はー。こういう稼ぎ方も、あんすねえ」
義妹が、感心のため息を漏らす。
「まあな。情報は金になるぞ。覚えておくといい。さて、昼飯がまだだったな」
サンが、「待ってました!」と、パチンと指を鳴らす。
というわけで、懐かしの「青い三日月亭」だ!
「いらっしゃいませ! やや、これはロイさんたち。お久しぶりです!」
バーシの、相変わらずバカでかい声が耳に痛いが、それすらも嬉しさというものだ。女将さんも、出迎えてくれる。
「二人とも、お久しぶりです。ラドネスブルグは比較的暖かいですね。なにか、温まるものをください……でいいかな?」
皆を見回すと、異存ないようだ。ついでに、小声でシャックスについて一切口外しないように言い含める。ここで触れ回ったら、卿への背信行為だ。
とりあえず、エーデルガルド旅行の思い出話に花を咲かせ、時間を潰す。サウナ、面白かったなあ。
雪崩に飲まれるなんてのも、初めての経験だ。こちらは、二度とやりたくないが。
「お待たせしました。ホワイトシチューと、パンです。それと、こちらのお酒を」
手際よく、飲食物を並べていくバーシ。
「君も、相変わらず元気そうだな。いいことだ」
「ありがとうございます。こうしてここで働けるのも、あのとき頭を下げてくださった、ロイさんのおかげです。日々学ぶことばかりで、嬉しいです」
良き哉良き哉。
「そういや、寿司はどうなった?」
「今じゃ、あちこちの店で売りに出されてますよ。すっかり、馴染みましたね」
そいつぁ、なにより。
さて、おしゃべりをしてると冷めてしまうな。いただこう。
うん! 甘い、クリーミィ! 根菜たちはホクホクで、牛スネはほろりとほぐれる。口の中が、あったか祭だ! パンもふかふかで、実に良い、味の受け皿。
そしてワインを口に含むと……ずしりと来る、辛口フルボディ!
「ずいぶん、強い酒だね」
「度数が高いもののほうが、より体が温まるでしょうとの、女将さんのご判断です」
ふう。たしかに、こいつぁ効く! 底冷えする真冬に、汗だくだ。
「美味しいね、ロイくん」
笑顔を向けてくる、ナンシア。あれから、ずっとこんな口調と態度だ。調子が狂うというか、照れくさいな。
しかし、姉か……。郷愁を、くすぐられるなあ……。
こうして、美味しい料理をごちそうさま。
あとは、卿の頑張り次第だ。気張ってくださいよー!
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