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第一章 黒翼の凶鳥王編

第二十話 魔導剣士ロイ、閃く

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「東の国バーブル名物、スケロク寿司でーす! お試しくださーい!!」

 十二時の鐘とともに、青い三日月亭の入口横にテーブルを設置し、スケロク寿司と、土瓶に入れた緑茶の売り子をする。往来の通りすがりたちが物珍しそうに見るが、「まあいいや」と言わんばかりに立ち去ってしまう。うう、メンタルに来るな……。

 しかし、ついに最初の一個が売れ、それが呼び水になったかのように、二個、三個と売れていく。

 これはいけるんじゃないか? と思ったが、五個目で頭打ちになり、今日はそれ以上売れなかった。

「売れ残っちゃいましたね……」

 青い三日月亭の食堂で、売れ残りの弁当を食みながら、反省会を開く。

「いや、僕の経験では悪い出だしじゃないと思うよ。明日次第かな」

 戦果を見に来てくださったモロオ卿が、意見を述べる。真剣な表情で、慰めの言葉には見えない。

「そういうもんですか?」

「そうですね、見慣れない料理の初日なら、こんなものではないでしょうか」

 女将さんも、彼に同意する。

「明日、今日以上に売れたら、リピーターがついたってことだから、あとは口コミで売れるんじゃないかと予測するよ」

 卿の言葉に、一同希望を取り戻す。

「よし、みんな! 明日も気合を入れて売るぞ!」

 拳を突き上げ、戦意高揚の音頭を取る。皆も拳を突き上げ、気合の籠もった声を上げる。

 勝負はまだ、序盤戦。頑張っていこう!


 ◆ ◆ ◆


 二日目は微増して、七食がはけた。卿の予測が、的中したらしい。

 三日目にはついに完売! 序盤戦は制した模様。

「いけますよ、モロオ卿!」

 一昨日の反省会から一転、祝賀会でエールのジョッキを傾け、一気に飲み干す。効くぅ!

「うん、これは軌道に乗りつつあるね。増産体制を敷こう」

 卿もノリノリだ。

「そういえば、通行人が、街の東で大規模な工事してるって話してたぜ」

 サンが、耳ざとく拾った話を振る。

「モロオ卿、そちらでも売ってみませんか?」

「いいね、やってみよう」

 範囲を拡大して、労働者向けに、スケロク寿司を売ってみることに決定した。

 だが、この試みは結果から言えば、失敗に終わった。三日間の試験販売でも、さっぱり売れなかったのだ。

「何がいけなかったんでしょう?」

 パティが両こめかみに人差し指を当てながら、首を傾げ疑問を呈する。

「相変わらず、店頭販売の方は順調なんですけどねえ……」

 目を閉じ、腕組みして耳を垂れるクコ。

「明日、アンケートを取ってみよう。それで何かわかるはずだ」

 俺の提案で、反省会はお開きとなった。

 後日、アンケートによって、なんとも間抜けな敗戦理由が判明する。売れなかった真相、それは「肉も魚も入ってないから」というものだった。

 迂闊うかつ! 肉体労働者を相手に、肉・魚抜きの料理が歓迎されるわけないわな。彼らは俺たち冒険者同様、体が資本だ。これでは、工事現場での売上は諦めるほかない。

 向こうからは撤退し、再度店頭販売に的を絞ることで、リカバリーに成功する。

「何か、他にいい売り場ないかなあ……?」

 すっかり作戦会議室と化した、夜更けの青い三日月亭の食堂で、腕組みして思案する。

「あ、そうだ。スケロク寿司といえば、僕の故郷ではちょっと面白い由来があってね」

 モロオ卿の言葉に、一同彼を見る。

「歌舞伎の演目に出てくる、揚巻と助六っていう登場人物から来てるらしいんだ。それで、観劇のときにこの弁当を出したらしくて、助六と呼ばれるようになったらしいよ」

「あの、『カブキ』って何ですか?」

「ああ、僕の故郷の伝統的な演劇だよ。まあ、僕は見たことないんだけどね」

 パティの質問に答え、肩をすくめる卿。何だ、豆知識を語りたかっただけかという感じで、脱力する一同。いや待て、これ実は大ヒントなんじゃ?

「モロオ卿。閃いたんですけど、商業地区にある大劇場で、スケロク寿司を出してみるのってどうですかね? 他には例えば、バーブルから劇団を招いて、物産展も開いて、一大キャンペーンにするというのはどうでしょう?」

「それだ、ロイ氏! 明日、劇場に打診してみるよ!」

 指をパチンと打ち鳴らし、身を乗り出す彼。おお、何だか話が大きくなってきたぞ。
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