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第十五話 五月十八日(日) 恋人ができて、幸せ!

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 どのぐらい、そうしていただろう。

 やがて、彼女から拘束を緩めてくれた。

「みっともないとこ、見せてごめん」

 鼻声で、そう言うユシャンちゃん。

「ううん。わたしこそ、ごめんね」

 それを言うのが精一杯で。涙と鼻水で濡れた胸元を、春風が冷やす。

「ユーは、なんも悪くないよ。堂々と、エレンと付き合いな」

 でも、大親友は鼻声で。

「ごめんね。相思相愛だったら良かったのにね」

「言うな」

 そうだね。もう、言ってもしょうがないこと。

「せめてわたしたち、幸せになるね」

「ならんかったら、許さん」

 うん、うん。

「ユシャンちゃん、変わらず親友でいてくれる?」

「わからん。まだ、心の整理つかん」

「都合の良いお願いだけど、大親友のままでいられたらいいな」

 鼻をぐずっとすすり、「善処する」なんて、難しい言い回しをする彼女。

「じゃあね、私の一番の大親友!」

 ユシャンちゃんをぎゅっとハグすると、それぞれ自宅へ戻りました。


 ◆ ◆ ◆


 さ・て。

 ユシャンちゃんについては、とにもかくにも、決着が着いた。

 となると、やることはただ一つ。

 受話器を握りしめる。うう……心臓がバクハツしそうだよぅ!

 ずいぶん唸ってたけど、意を決して、ダイヤル! アユムさんも、「押せ押せだよ!」って言ってたし!

「はい、フェルマインです」

「あ! その声、エレンちゃん!?」

「ユー! 嬉しいな。ちょうど、ユーと話したかったんだ」

 心臓が、バクバクするぅ~! 落ち着けー。深呼吸~!

「あのっ! わたし、その、エレンちゃんのこと、なんかいいなって思ってて……その……あの……好き! 恋愛的な意味で! お付き合い、してくれないかな!?」

 頭と心臓がどうにかなりそうなので、一気に言い切る。

 間。

「嬉しい……。私も、ユーのこと、そういう意味で好きだったから……。ふふ、相思相愛だったんだね」

 頭が真っ白になって、体の芯から、あったかいものが広がっていく。

「ありがとう……!」

 涙が、ぽろぽろこぼれてくる。

「正式に、恋人、なろう?」

「うん……! うん……!」

 感極まって、それしか言えなかった。

 わたし、ひどい女の子だね。親友振った直後に、こんなに幸せな気持ちになって。ごめんね、ユシャンちゃん。身を引いてくれて、ありがとうユシャンちゃん。

 色んな感情がぐちゃぐちゃになって、ひたすらに泣き倒してしまうわたし。エレンちゃんは、そんなわたしを、うん、うん、と相づちを打って、受け止めてくれました。

 会いたいな。今すぐ会いたい!

「ねえ! 今、会えないかな!?」

「今? いいよ」

 やった! やった! やった!

「どこで会う?」

「ユーの家、行ってみたいな」

 うち!?

 うわあ、うわあ……! エレンちゃんがおうちに来るううう!?

「わかった! 迎えに行ったほうがいい!?」

「そうしてくれると助かるかな。学校前で落ち会お?」

「うん! すぐ着替えていく!!」

 空をふわふわ飛ぶような気持ちで、おめかしして家を出るのでした。


 ◆ ◆ ◆


 校門前でそわそわして待っていると、来た! 来ましたよ!

「待った?」

「ううん、いま来たとこ」

 うふふ。デートのお約束セリフだ~!

「じゃあ、行こ!」

 恋人つなぎで、ふわふわ気分で歩いちゃいます。

 ああ、見慣れた風景が、とても新鮮に見える!

 花が綺麗! 空が蒼い! お日様があったかい! ああ! 世界って、こんなに素晴らしいのね!

 プールでの疲れなんて、吹っ飛んじゃったよ!

 気づいたら、家に着いてました。店側から、一度入る。

「おや、ユーちゃん。その子は?」

お友達・・・のエレンちゃん! 前話したでしょ?」

 エレンちゃんに目配せ。お父さんには、まだシゲキが強そうだからね-。

「エレン・フェルマインです。今日は、お邪魔しに伺いました」

 お行儀よく、お辞儀する彼女・・

「いらっしゃい。遊びに来たのね。ありがとう」

 ケーキを、お客さんに渡し終わったお母さんも、挨拶する。

「よろしくお願いします」

 またも、ぺこりとお辞儀するエレンちゃん。

「それじゃふたりとも、仲良くね」

 状況を察したであろうお母さんが、ウィンクする。

「はい!」

 ハモってお返事。

「じゃあ、裏口に回ろ」

 ああ! いきなり恋人のお招き! わたしってば、ダ・イ・タ・ン! ドキドキするぅ~!
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