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第十話 五月六日(火) 初恋で幸せ!?

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「ただいまーっ!」

 元気に帰宅! あまり遅くならずに、帰れてよかったー!

「おかえり」

「おかえりなさい」

 テレビを見ていたお父さんたちが、お返事してくれる。

「新しいお友達とは、上手くいってるみたいだね」

 笑顔のわたしを見て、そう言うお父さん。電話で、エレンちゃんのおうちに寄っていたことは、話してあります。

「うん! なんかね、うまく言えないんだけど、なんか素敵な子なの!」

 語彙力ゼロ! あう~。

「素敵な子だったのね。よかったわねえ」

 そんな、ダメダメなわたしに、素直な喜びとともに、微笑んでくれるお母さん。二人の愛情が、身にしみるよぅ……。

「ところで、今日はお菓子作りどうするんだい?」

 ん~……。早めに切り上げてきたといっても、もう夕方なんだよね。

「今日はやめとく! ありがとうね! お風呂、用意してきまーす!」

 今日は、ゆっくり休むことに決めるのでした。


 ◆ ◆ ◆


 ちゃぷん。

 ふうぅ~。お風呂って気持ちいいなあ。

 何といっても、自分が女であることを、再確認できる時間の一つ! それって、とっても幸せなこと!

 それにしても。

 なんだってわたし、あんなにエレンちゃんに対して、上手く言えない感情が湧き上がってくるんだろう。

 わたし、この感情に、心当たりがある気がするんだよね。なんか、心の奥底の、古い記憶に……。

 ユシャンちゃんや、レィナちゃんにも、こんな感じの気持ちを抱いたことがあるけれど、エレンちゃんに対しては、何ていうか、それがよりいっそう強い……。

 なんていうのかな、胸が暖かくなって、ちょっとドキドキして。不思議な感覚なんだけど、なぜか身に覚えがある。

 お風呂というリラックス空間で、自分の「中」を見つめてみる。きっと、そこに答えがあるはず。

 小学校低学年時代。……心当たりナシ。

 保育園時代……これも、心当たりナシ。

 赤ちゃん時代……さすがに、全然思い出せない。

 じゃあ、もっと前は?

 前世を思い出してみる。

 かっこよくて、性格もいい、同級生の男子……。

「あっ!!」

 思わず、大声を出してしまう。

 これ、恋だ!

 前世で、心が女だったわたしが、彼に抱いた気持ち。ほわほわして、ドキドキして、彼のことしか考えられなくて。でも、嫌われたり、気持ち悪がられるのが怖くて、告白できなくって……。

 わたしが、苦しみのあまり、死を選んだ理由の一つ。

 こんな大事なことを、今まで思い出せなかったなんて!

 だけど、わたし、今は身も心も、れっきとした女だよ?

 それなのに、エレンちゃんに惚れちゃうって、どういうこと!?

 学校の先生は、男同士、女同士で好きになるのはおかしいことじゃないって、授業で言ってたけど……。

 私、赤ちゃん産んで、お母さんになりたかったはずなのに……。なんか、くらくらしてきた。のぼせ始めてるのかもしれない。とりあえず、お風呂を出よう。


 ◆ ◆ ◆


「おかえり。ずいぶん長風呂だったわね?」

 お母さんが、声をかけてくる。

「うん。お母さん、ちょっと相談したいことがあるんだ」

 牛乳で水分補給しながら、提案する。

「あら、なにかしらね? かまわないわよ」

 お母さん、びっくりするかなあ。昔、前世の話したら、かなーり驚いてたもんねえ。


 ◆ ◆ ◆


「それで、相談ってなあに?」

 お父さんには、なんだか話しにくくて、席を外してもらっています。そんなわけで、お父さんはお風呂なう。

「えっとね。そのね。あの、言いにくいんだけど……。私、エレンちゃんに恋しちゃったみたい!」

 心臓が、ドキドキする。でも、表情はきっと困っていて。

「そっか。お母さんも、そういう経験あるわよ」

 へ? あっさりと共感されちゃった。

「小学生のころね。すっごく仲がいい女の子の同級生がいて、彼女といると、ドキドキして、とても幸せで、ほわほわして。将来、結婚したい! ぐらいまで思ってたのね」

 さすがにまだ結婚したいまでは行ってないけど、私と同じだ!

「思えば、あれが初恋だったなー」

 遠い目をするお母さん。

「あの、その子とはどうなったの!? 今、お父さんと結婚してるよね!?」

「うーん、料理学校進んだら、進路別々になっちゃってね。最初は文通してたんだけど、それも少なくなって、自然消滅しちゃった。で、お父さんと出会ったの」

「じゃあ、わたしたちもそうなるのかな……?」

 エレンちゃんと自然消滅だなんて、嫌だ。

「それはわからないわね。でも、身近な女の子に恋するって、ユーちゃんぐらいの歳の女の子には、よくある話だから、おかしくもなんともないよ。最終的に、女同士でゴールインする女性も、そこそこいるし」

「わたし、ふつーの女の子なのね!? おかしくないんだね!?」

「うん。保証します」

 お母さんが、力強くうなずく。

「でも、わたし、エレンちゃんも好きだけど、子供も産みたいの。どうしたらいいのかな……」

 保健体育の授業で、男女じゃないと子供が産めないのは知っている。

「今は、悩まなくていいんじゃない? まだ、小六なんだもの。そのときになってから、考えればいいのよ」

 うーん、そういうもん?

「でも、打ち明けたら、嫌われたり、気持ち悪がられたりしないかな……?」

 前世の、辛い記憶が蘇ってくる。

「突き放すようだけど、それを決められるのはユーちゃんだけだよ。もしかしたら、相思相愛になるかもしれないし、逆に、上手くいかないかもしれない。それは蓋を開けてみるまでわからない。私からは、応援しかできないかな」

 困った。やっぱり、答えは自分で出すしかないんだ。

「スクールカウンセラーの先生にも、相談してみようかな……」

「いいんじゃない? 私とも、違う意見が出るかもよ?」

「お話、終わったかな?」

 湯上がりのお父さんが、ひょっこりと声をかけてきました。

 ……やっぱり、お父さんには話しづらいな。申し訳ないけど。

 とりあえず、カウンセラーの先生にも話してみよう。
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