上 下
1 / 49

第一話 四月一日(火) 幸せで、幸せで、本当に幸せ!

しおりを挟む
 ん……目覚まし時計が鳴ってる……。

 おはよー。

 朝起きたら、わたしが最初にやること。

 胸とお股を触って、自分が女であることを確認するの。お母さんに見つかったとき、「何やってんの!」って、すごく怒られちゃったけど。

 ああ、それにしても! わたしは女! わたしは女! わたしは女の子!

 ナイトキャップを取って、長い髪を下ろす。この重さも、嬉しい!

 一階に降りて、洗面所へ。

 そこの鏡には、猫耳金髪なゆるふわロングな女の子が映っている。正直、顔もかわいい。

 これが、今のわたし!

 思わず、にへら~と顔が緩んじゃう。

 ……いけない、いけない! 顔、洗わないと!

 わたしの前世の記憶が戻ったのは、三年前。いろんなことが頭にどばっと流れてきて、わたしはとっても混乱してたらしい。

 その記憶にあったのは、心が女、体が男で苦しんでいた自分・・

 それがあまりにも辛くて、思わず電車に……。

 今でも、その最期を思い出すと、背筋がブルっときて、しっぽがぶわってなる。

 辛かったね、前世のわたし。

 心が女なのに、周りから男として扱われるって、辛いよね。ひげが生えてきた時は、一日中泣いてたっけ。

 そして、ごめんなさい。前世のお父さん、お母さん。

 手術とか色々道はあったんだろうけど、大人になるまで待てなかったよ……。

 色々あった、前世のわたし。今の人生では、わたしと一緒に、幸せな人生を送ってね!

 ……って、顔洗う!


 ◆ ◆ ◆


「おはよーございまーす!」

「おはよう、ユーちゃん」

「おはよう。今日も上機嫌ねえ」

 お父さんとお母さんから、挨拶を返される。

 二人とも、猫耳に猫しっぽ。これが、この世界の人間・・

 今日の朝食は、マッシュポテトにソーセージ、オニオンスープ、そしてトースト。

「今日は、どっちが作ったんだろー」

「当ててご覧」

 と、お父さんが言う。うちは、お父さんもお母さんも、二人で仕事も家事もする。もちろん、わたしもできる範囲でお手伝い。

「ん~! お父さん!」

「はーずれー! 私でしたー」

 お母さんとお父さんが、楽しそうにほほえみ合う。ああ、幸せだなあ。

「いただきます」

 キリスト教……この世界にはないけど、それみたいなお祈りのポーズで、いただきますを言う。和洋ごっちゃで変な感じだけど、もう慣れたよ。

 美味しいなあ。

 うちはスイーツショップをやっていて、お父さんとお母さんはパティシエとパティシエール。

「今日、休業日でしょ。学校から帰ったら、お菓子作り教えて!」

「いいとも、いいとも。ユーちゃんは、本当に勉強熱心だねえ」

「だって、こんなに女の子なお仕事してる、家の子供に生まれたんですもの!」

 にこ~っと微笑む。

「おいおい、いつから僕は女の子になったんだい?」

「ほんとに、ユーちゃんは女の子するのが好きよねえ」

「うん! 女に生まれて、ほんとに幸せなんだもん!」

 そう言って、ごはんをもぐもぐ。

「ごちそうさまでした! 美味しかったよー」

 今度も、お祈りポーズでごちそうさま。

 そして、歯磨きと着替えを済ませたら、いざ学校へ!


 ◆ ◆ ◆


 お隣の家のチャイムを鳴らすと、黒髪三つ編みの大親友、ユシャン・チャンちゃんが、「おはよ」と出てきました。

「ユシャンちゃーん、お手々つないでがっこいこー!」

「朝から元気だねー、ユーは。行こか」

「うん!」

 お手々つないで、らんらんと学校へ。周りから、「仲良すぎじゃない?」って冷やかされるけど、実際仲良しだもんねー!

 女の子同士のスキンシップ。これも、前世のわたしが、ずっとやりたかったこと!

「ユシャンちゃんは、今日も昨日の続き?」

「ん。いいとこで寝なきゃいけなくなってさ」

「睡眠はきちんと取らないと、おハダ荒れちゃうよ~?」

 ユシャンちゃんの、すべすべぷにぷにほっぺに、手を当てる。

 彼女の家は、本屋さん。そんなわけか、彼女もたいそう読書家です。

 こんな感じの雑談をしながら、学校へ向かう。

 道すがらの商店前のプランターに、春のお花が咲いている。

 春。私の好きな季節!

 北国であるラドネスグルグこの国の厳しい冬が終わって、いろんな命が芽吹く季節。前世では桜が人気だったけど、この国だと植物園でも行かないと見られないのが残念だな~。

 でも、わたし、風景を眺める登校時間も大好き!

 幸せで、幸せで、本当に幸せ!
しおりを挟む

処理中です...