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夜の11時、都会には終わりがないんだなって思う。
眠らない街とはよく言ったもので、田舎のように電気が消えて人ひとりいない状況にはならないのが凄い。
寧ろ、これからが本番だって人もたくさんいるんだろうなぁ。
人の欲望に終わりがない証拠だ。
「すっかり遅くなっちゃったね」
帰りの車の中、レイ君が申し訳なさそうに言った。あたしたちの欲望には、強制的に終わりが来てしまったけれど。
「でも、楽しかったね」
遊園地にでも行っていたような表現が正しいのかは分からないけど、心からそう感じていた。
まだ体中に甘い余韻が残っていて、気怠いし、眠いし、朝起きれるのか心配だけど、それでももう少し早く切り上げればよかったとは思わない。
できることなら、朝まで一緒にいたかった。
でも、本当は何事もちょっと物足りないくらいの方がいいんだろうなって思う。
ずっと一緒にいたくて、彼氏と同棲もしたけど、いざ24時間一緒になると、どうしたってありがたみが薄くなってしまう。
ホント勝手だけど、人間なんてそんなものだから、実はレイ君が離れを出てくれてよかったのかも。
今も一緒に暮らしてたら、こんな風に外へ行くことはなかっただろうし。
イッセイ坊ちゃまにダメだって言われるほど会いたくなるし、好きになる。
そう考えると、不思議とありがたいとさえ思えてくる。
会えない時間が愛を育むって本当なのかも……ウフッ。
「次会えるのは土曜日かな」
こうして次に会う約束ができるのも、別々に住んでいるから。待ち合わせの時間と場所を決め、離れの前で別れた。
「おやすみ」
そう言って、レイ君はおでこにキスをしてくれた。
こういうのもいいよね。
さっきまで散々ディープなキスをしていたからこそ、ね。
あたしが帰るまで見ているというので、ニンマリして玄関を開け驚愕した。
「うわーっ!何してるんですか!?」
1人でずっとここにいたのかと思うと、ちょっぴり怖くなった。
物凄い執念だな。恐るべし黒澤一成。
「あんまり遅いからもう帰ろうかと思ってたとこだ」
「何か御用ですか……?」
恐る恐る訊ねる。
「赤い顔しやがって。今までヤリまくってたんだろ」
「ええーっ!」
隠すように慌てて頬を押さえた。顔赤いの? あたし。鏡も見てないし、自分じゃ気がつかなかった。
「フンッ。相変わらずバレバレだな、お前は」
「すいません……」
だってまさか、イッセイ坊ちゃまが待ってるなんて思わないし、気も緩みきってたんだもん。
「謝ることないよ。別に悪いことしたわけじゃないのに」
背後からレイ君が庇うように言った。
「お前が俺の立場でも同じことが言えんのか?」
「さあ、それは。けど、本当に彼女のことを思うなら、彼女の幸せを願うべきじゃないのか?」
そんなに献身的な人じゃない気もするけどな……。スターだし、王子だし、暴君だし。
「そんなこと、お前如きに言われなくても分かってる。だからこうしてわざわざ待ってたんだろうが」
へ? 意表をつく言葉に思わず耳を疑った。
「今さら隠すこともないからはっきり言うが、俺は実梨が好きだ。ずっと好きだった。この俺が初めて結婚してもいいと思えた女だ。だから、お前なんかには絶対渡したくないけど、実梨がどうしても零がいいって言うなら俺は撤退する」
それって、渋々でもあたしたちのこと認めてくれるってこと? あまりに意外過ぎて、レイ君と顔を見合わせた。
「だが勘違いするな!一時撤退するだけだ。諦めるワケじゃない。どうせこんな変な奴、すぐに嫌になるだろうから、それまで待つだけだ」
「……ありがとうございます」
頭を下げながらも、まだ信じられなかった。
高圧的な上から目線は変わらないけど、これが彼なりの精一杯の祝福なのかも。そう思うと、彼が愛おしく見えた。
「礼を言うなんて失敬なヤツだな」
あたしの言動に坊ちゃまは呆れて小さく舌打ちをした。
「あっ、すみません」
「ただ、これだけは言っておく。今は俺が邪魔して横取りしようとしてるって扱いにされてるが、元はと言えばお前に目をつけてここへ連れて来たのは俺なんだからな! 邪魔して横取りしたのは寧ろこいつなんだ。それだけは忘れなんよ! 俺は必ずお前を取り戻す!」
思い切りあたしたちを指差しながら、イッセイ坊ちゃまはそう宣言した。
人を指差すのは失礼なことだけど、彼には似合いすぎていて何の違和感もない。ヒーローもののキメゼリフ的な安定感さえある。
「……ありがとう」
信じられない光景だった。レイ君がイッセイ坊ちゃまにお礼を言ったのだ。
「止めろよ、気持ち悪い。お前にありがたがられても不愉快なだけだ。まあ、今のうちにせいぜい余裕こいてろよ。この俺様を敵に回したことを今に後悔させてやるから!」
確かに、敵に回したくはない男だな。
「それと、この前言ったルールはまだ生きてるからな!俺の前でイチャイチャすんなよ。もし見かけたらお前のその粗末なち○こをちょん切ってやるからな」
ひえぇぇぇー。ホントにやりそうで怖い。気をつけなきゃ。
言いたい放題言って、本宅へ帰ろうとしているイッセイ坊ちゃまを見送る。
「ホントにありがとうございました!」
お礼言うなって言われたけど、今は感謝の言葉しかない。
「はあー。お前を離れに住まわせるんじゃなかったよ」
「……え?」
下げていた頭を上げると、坊ちゃまが目の前に立っていた。
「もう一度、あの夜に戻れるならお前を俺の手元に置いて、こいつには絶対会わせないのに」
外灯しかない薄暗い中で、イッセイ坊ちゃまはあたしの頬に触れ、悲し気に微笑んでいた。
何とも言えない複雑な気持ちになった。謝るのもお礼を言うのも可笑しい気がして、黙って立ち尽くすしかなかった。
「そんな顔すんなよ。せっかくの決意が揺らぐだろ」
頬に添えていた手で、坊ちゃまは軽くあたしの頬を抓った。
「あーあ。こんなことなら初めて会った日にヤッとくんだったなー」
空気を変えるように、坊ちゃまが笑って言った。
「え? 何もしてないんですか?」
「当たり前だろ。泣きながら泣いてないって言って、元カレの名前叫んでる女なんか抱けるか。言っただろ? 俺は紳士なんだ。手の早いあいつとは違う」
少し後ろにいるレイ君を顎で指して言った。
そうだったんだ……。
「あたしてっきり坊ちゃまとナニかあったんだと思ってました。なんだーそうだったんだー」
妙にホッとしている自分がいた。
イッセイ坊ちゃまは見かけよりずっと紳士だったんだ。
「がっかりしたんなら、いつでも相手してやるぞ」
冗談っぽく腰に手を回す。
「それより、今度あたしと出会った日のこと聞かせてくださいよ。お恥ずかしながらあの日のことは何にも覚えてなくて」
「ヤダ。教えてやんない」
「えー! ケチ!」
通常営業っぽく言い合ってると、イッセイ坊ちゃまが急に「痛っ」と叫んだ。気がつくと、レイ君が真後ろに立っていて、坊ちゃまがあたしの腰に回していた手を抓ったようだった。
「長い」
「なんだよ! 感じ悪いヤツだな! 俺に悪いと思う気があるなら、一日貸し出すぐらいの心遣いがあってもいいはずだぞ」
日付も変わろうってのに、いい大人が3人揃って、庭で騒いでたらご近所から苦情がきちゃうよね。
でも、今日はこの前みたいな喧嘩じゃないからいっか?(よくないか)
「じゃあ、俺は帰るから。お前もさっさと帰って来いよ!」
背を向け、捨て台詞を残してイッセイ坊ちゃまは帰って行った。
「ありがとう。イッセイ坊ちゃま」
去っていく背中に小声で呟いた。
「みのりちゃん」
レイ君に呼ばれて振り返る。
「ん? なに?」
「大事にするから」
「え……」
スッと伸びてきた腕があたしを包む。
ギュッと息もできないくらい。
「みのりちゃんのこと大事にするから」
不意打ちに泣いちゃいそう。
「嬉しい。ありがとっ!」
思いよ届けと、強く抱きしめ返す。
「好きよ、レイ君」
「俺もみのりちゃんが好き」
骨が軋むほど抱き合って、その夜は名残惜しく別れた。
これが生涯最後の恋になればいいのに。星も月もない真っ暗な夜空に願った。
宣言通り、あれからイッセイ坊ちゃまは前のようなあからさまな嫌がらせはしなくなった。
けど、諦めないと言ったのは事実のようで、時々思い出したように離れにやって来ては、鍋を食わせろだのなんだのって家に上がり込んだ。
そして、その度に「あいつとは上手くいってるのか?ダメならすぐに別れろ」って同じアドバイス?ばかりしてくれた。
バレンタインにはチョコ寄越せって言って、レイ君のために手作りしたチョコをちゃっかり半分持って帰っちゃうし。
イラッとすることもあるけど、彼は彼なりにあたしたちのことを心配してくれてるんだろうなって解釈することにしている。
まあ、お陰様でイッセイ坊ちゃまが心配するようなことは何ひとつなく、あたしたちはラブラブな交際を続けているのだけども。
レイ君は優しいし大人だし、ケンカにもならないから。知れば知るほど、レイ君をどんどん好きになっていくんだな、これが。
やがて、季節は巡り、あたしが最も待ち望んでいた6月6日がやって来た。
そう。我が愛しのレイ君のお誕生日。
今まで一度も祝ってもらったことがないという黒歴史も今日で終わり。
30歳という節目の歳を2人で盛大にお祝いしようと、付き合った当初からずっとプランを考えていた。
産みのお母さんを呼ぶことも考えたりしたけど、喜ばなかったら困るし、初回から博打は止めようと思い留まった。
何より、2人きりで祝いたかったし!
平日なのは残念だけど、レイ君に内緒で仕事を早退させてもらい、イッセイ坊ちゃまに今日だけは離れでお祝いさせてほしいと頼み込んでおいた。
外堀は完璧。あとは、あたしが頑張るだけ!
大山さんに教わりながら、密かに何度も練習したフルコースの料理を準備し、ケーキも焼いて、レイ君の帰りを待つ。
そろそろかなと思い、家中の電気を消しクラッカーを持ってスタンバイ。生まれて初めてのサプライズにワクワクドキドキ。
すると、玄関の開く音がした。体中に緊張が走る。
リビングのドアが開いたらクラッカーを鳴らして……段取りは完璧だ。
「アレ?」
彼が電気を点けたのと同時にパーンとクラッカーを鳴らした。
「お誕生日お……ええーっっっ!!!」
クラッカーの音にビックリしていたのはイッセイ坊ちゃまだった。
「なんだよ、ビックリすんなぁ。撃たれたかと思った」
いやいや、ホンマに撃ったろか! なんでよ!? 今日はサプライズパーティーするってあれほど言っといたじゃないかぁ!!
「んーっ! もぉ! 何してるんですか!」
『一世』一代のサプライズを『一成』に邪魔されるなんて、全然笑えない。
「パーティーするって言うから、シャンパン買って来てやったんだよ」
「そりゃありがたいですけど、何でレイ君より先に入って来るんですか?だいたいレイ君お酒飲めないし」
まさかわざと?わざとなのか?
「は? 飲めなくないぞ、あいつ。ははーん。さては隠してるんだな。試しに今日飲ませてみな。面白いから」
新情報はよしとして、得意げにニヤッとされても腹の虫が治まらん!
「えらく賑やかだね」
ギャーッ! 最悪ー!坊ちゃまとバトルしてる間に、レイ君帰って来ちゃった……。
あ゛ぁ~!!
数ヶ月がかりのプランがぁ~! ウソだー! こんなの絶対夢に決まってる。これが悪夢じゃなきゃなんなのー!
朝から一生懸命巻いた髪を振り乱す。見事に凹んだあたしを見て、さすがのイッセイ坊ちゃまもシャンパンだけ置いて帰った。
「ごめんね、レイ君」
うわーんって声に出して泣きたいよ。
「どうして謝るの? すごく嬉しいよ。誕生日におめでとうって言われたの初めてだし」
レイ君は喜んでくれてるみたいだけど、自分的に納得いかない。完全に消化不良。完璧なプランだったのになぁ。チッ!またしても、黒澤一成め!
「じゃあせっかくだから、これ飲もうかな。あいつがくれるなんて毒でも入ってそうだけど」
「あ、ホントだ。怖いなぁ」
未開封だから、さすがにそれはないだろうけど、疑いたくもなるよ。
「でも、みのりちゃんと一緒ならいいかな、死んでも」
美しい宝石のような色のシャンパンを、グラスに注ぎながらレイ君が言う。
「えーヤダ。まだまだ2人でしたいこといっぱいあるのにぃ」
死んで花実が咲くものか、だよ。
「それもそうだね」
ただシャンパン飲んでるだけなのに、カッコイイなぁ、レイ君。上品な微笑を見ていたら、誕生日の人に気を遣わせてちゃいけないなってちょっと反省した。
サプライズなんか失敗でもいいじゃん。こうして、一緒にお祝いできてるんだも
の。来年にはきっと笑い話になってるよね。気を取り直して乾杯。
でも、シャンパンを飲み始めてすぐレイ君に異変が起きた。
急にガクッと項垂れた 後、ピクリとも動かなくなってしまった。
アレ? 大丈夫かな?やっぱり飲めないんじゃないの?
「……レイ君? 大丈夫?」
「……クククククッ」
ひぇぇ! 何? どういう声、これ? もしかして、目の怖い人になっちゃうんじゃ?
あまりに不気味で、イスから立ち上がり横から顔を覗き込んだ。
「フフフフフッ」
へ? もしかして笑ってる? なんで? なんか面白いことあった?
「どうしたの?」
「え、何が?別にどうもしないよ」
頭を上げたレイ君は別人のように陽気な顔をしていた。これって……所謂、笑い上戸ってヤツですか?
「みのりちゃんこそどうしたの? あ、こっちおいで」
おや? 単なる笑い上戸っていうか、キャラ変わってない? もう別の人じゃない? 笑顔であたしを隣に座らせるなんて。
「かわいいねーみのりちゃんは」
普段言わないようなこと言って、頭を撫でるなんて。
「なんか、レイ君じゃないみたいだね」
「そう?」
相手は酔ってるんだから気にしきゃいいのかもしれないけど、見た目はレイ君だもんなー。嫌でもドキドキしちゃうよ。
「ねえ、みのりちゃん」
急に甘えた声出したりしてさ。
「なに?」
「俺のこと好き?」
いつもはそんなこと訊かないのに。
「うん。好き」
「じゃあ、チュウしてもいい?」
クールなレイ君しか知らなかったから、ここまでデレデレされると……毎日お酒飲ませちゃうかも。(おい)
うん、と頷くとニヤニヤしながらレイ君が近づいてきた。
何だか調子狂っちゃうな……。チュッとしたら終わりなのかと思ったのに、意外とがっつりくるし。
嫌がらせ半分のお節介だと疑ってたけど、シャンパンをくれたイッセイ坊ちゃまに感謝しなきゃいけないかも。こんなにかわいいレイ君を知らないのは損だもん。
「みのりちゃん、今日は本当にありがとう。準備とか大変だったでしょ?」
熱いキスの後、レイ君はあたしを抱きしめると呂律が少し回っていない感じで言った。
「ううん。楽しかったから」
喜んでくれるかなって想像しながらだとホントに楽しくて、何時間でもやっていられた。
「30年、待った甲斐があったよ」
「え?」
「今日のために今まで誕生日がなかったんだとしたら納得だよ。生まれて初めての誕生日祝いをしてくれたのが、みのりちゃんでよかった」
酔っ払った人の言葉だって頭では分かっているけど、それでもやっぱり嬉しくて涙が込み上げた。
「一生、大事にするから。ずっと俺のそばにいて」
「うん。ずっとレイ君のそばにいる」
もうどうしたらいいのか分からないくらい好きで、背中に回す手に力が入った。優しく受け止められると、笑っているのに涙が止まらなかった。
きっとあたしたちの前にはこれからもたくさんの試練が待っていると思う。
今思い浮かべただけでも、結構大変な壁がいくつもある。
イッセイ坊ちゃまに、奥様、レイ君の産みのお母さん。
それに加えて、あたしたちのこの身分差などなど……。
すべてがクリアになる日なんて、今はまだ想像すらできないけど、でも、焦らずゆっくりとひとつひとつ、レイ君と乗り越えていきたい。
どんな問題も逃げずに立ち向かっていけば、きっと運命だって変えられるはずだから……!
あたしはそう信じている。
「わーごめん。いつの間にか寝ちゃってたんだね。やっぱり飲むんじゃなかったな」
翌朝、甘あまモード全開のまま突然眠ってしまったレイ君は、目を覚ますと申し訳なさそうに言った。
「酔っ払ったレイ君すっごく可愛かったから大丈夫」
意外な一面を見れて余は満足じゃ。
「怖いな、全然覚えてない。なんか変なことしなかった?」
「フフッ。プロポーズされちゃった」
どさくさに紛れて、話を盛った。
「えっ、ごめん。そのことは忘れて」
「あぁ、うん……」
ですよねー。やっぱり現実はしょっぱいな。
「今度、素面の時にちゃんと言うから」
二日酔いで痛むのか、頭を押さえながらサラッと言われた。
「はい?」
「どうかした?」
どうかしたなんてもんじゃないでしょうよ! 今のは、そのうちプロポーズするよ宣言でしょ?
「レイ君、プロポーズって意味分かってる?」
微妙な年頃の女に『結婚』の二文字は危険すぎる。
「ヒドイな。それぐらい分かってるよ」
いいの? 本気にしちゃっても……。知らないよ?
あたしは単純だから、ホントに期待して待っちゃうからね。潤んだ目を誤魔化すように、彼の背中に飛びついた。その柔らかな温かさに満たされていく。
「おい! いつまで乳繰り合ってんだ! 無断で遅刻とはいい度胸だな」
和室の襖がデリカシーの欠片もなく突然開け放たれたかと思ったら、イッセイ坊ちゃまが怒鳴り込んできた。
感動的な場面も台無し。
「乳繰りって……へ? 嘘!もう6時だ! すいません! すぐ行きます!!」
軽いパニックに陥り、慌てて準備する。あ~情けない!
せっかくレイ君に結婚する意思があるって分かったのに、いきなりダメなとこが露呈しちゃった……。
さっきから頬杖ついて、じっとあたしを見てるけど……もしや呆れてる?
「ん?」恐る恐る首を傾げてみる。
「いや、かわいいなと思って」
はぁ~。急いでる時にそういうの反則だから! ほっぺにチュウでもしなきゃ収まらなくて、彼の元へ走った。
思ったより勢いがあって、唇は乱暴に当たってしまったけど、彼はにっこり微笑んで「いってらっしゃい」って言ってくれた。
「いってきます」
何気なく交わす言葉にも、勝手に愛を感じられるおめでたいあたしは、靴が左右バラバラなことにも気がつかず、ニヤニヤしながら本宅へ全力疾走していた。
これからも、まだまだあたしの恋物語は続いていくのだけれど……。
それはまた別のお話。
【おしまい】
眠らない街とはよく言ったもので、田舎のように電気が消えて人ひとりいない状況にはならないのが凄い。
寧ろ、これからが本番だって人もたくさんいるんだろうなぁ。
人の欲望に終わりがない証拠だ。
「すっかり遅くなっちゃったね」
帰りの車の中、レイ君が申し訳なさそうに言った。あたしたちの欲望には、強制的に終わりが来てしまったけれど。
「でも、楽しかったね」
遊園地にでも行っていたような表現が正しいのかは分からないけど、心からそう感じていた。
まだ体中に甘い余韻が残っていて、気怠いし、眠いし、朝起きれるのか心配だけど、それでももう少し早く切り上げればよかったとは思わない。
できることなら、朝まで一緒にいたかった。
でも、本当は何事もちょっと物足りないくらいの方がいいんだろうなって思う。
ずっと一緒にいたくて、彼氏と同棲もしたけど、いざ24時間一緒になると、どうしたってありがたみが薄くなってしまう。
ホント勝手だけど、人間なんてそんなものだから、実はレイ君が離れを出てくれてよかったのかも。
今も一緒に暮らしてたら、こんな風に外へ行くことはなかっただろうし。
イッセイ坊ちゃまにダメだって言われるほど会いたくなるし、好きになる。
そう考えると、不思議とありがたいとさえ思えてくる。
会えない時間が愛を育むって本当なのかも……ウフッ。
「次会えるのは土曜日かな」
こうして次に会う約束ができるのも、別々に住んでいるから。待ち合わせの時間と場所を決め、離れの前で別れた。
「おやすみ」
そう言って、レイ君はおでこにキスをしてくれた。
こういうのもいいよね。
さっきまで散々ディープなキスをしていたからこそ、ね。
あたしが帰るまで見ているというので、ニンマリして玄関を開け驚愕した。
「うわーっ!何してるんですか!?」
1人でずっとここにいたのかと思うと、ちょっぴり怖くなった。
物凄い執念だな。恐るべし黒澤一成。
「あんまり遅いからもう帰ろうかと思ってたとこだ」
「何か御用ですか……?」
恐る恐る訊ねる。
「赤い顔しやがって。今までヤリまくってたんだろ」
「ええーっ!」
隠すように慌てて頬を押さえた。顔赤いの? あたし。鏡も見てないし、自分じゃ気がつかなかった。
「フンッ。相変わらずバレバレだな、お前は」
「すいません……」
だってまさか、イッセイ坊ちゃまが待ってるなんて思わないし、気も緩みきってたんだもん。
「謝ることないよ。別に悪いことしたわけじゃないのに」
背後からレイ君が庇うように言った。
「お前が俺の立場でも同じことが言えんのか?」
「さあ、それは。けど、本当に彼女のことを思うなら、彼女の幸せを願うべきじゃないのか?」
そんなに献身的な人じゃない気もするけどな……。スターだし、王子だし、暴君だし。
「そんなこと、お前如きに言われなくても分かってる。だからこうしてわざわざ待ってたんだろうが」
へ? 意表をつく言葉に思わず耳を疑った。
「今さら隠すこともないからはっきり言うが、俺は実梨が好きだ。ずっと好きだった。この俺が初めて結婚してもいいと思えた女だ。だから、お前なんかには絶対渡したくないけど、実梨がどうしても零がいいって言うなら俺は撤退する」
それって、渋々でもあたしたちのこと認めてくれるってこと? あまりに意外過ぎて、レイ君と顔を見合わせた。
「だが勘違いするな!一時撤退するだけだ。諦めるワケじゃない。どうせこんな変な奴、すぐに嫌になるだろうから、それまで待つだけだ」
「……ありがとうございます」
頭を下げながらも、まだ信じられなかった。
高圧的な上から目線は変わらないけど、これが彼なりの精一杯の祝福なのかも。そう思うと、彼が愛おしく見えた。
「礼を言うなんて失敬なヤツだな」
あたしの言動に坊ちゃまは呆れて小さく舌打ちをした。
「あっ、すみません」
「ただ、これだけは言っておく。今は俺が邪魔して横取りしようとしてるって扱いにされてるが、元はと言えばお前に目をつけてここへ連れて来たのは俺なんだからな! 邪魔して横取りしたのは寧ろこいつなんだ。それだけは忘れなんよ! 俺は必ずお前を取り戻す!」
思い切りあたしたちを指差しながら、イッセイ坊ちゃまはそう宣言した。
人を指差すのは失礼なことだけど、彼には似合いすぎていて何の違和感もない。ヒーローもののキメゼリフ的な安定感さえある。
「……ありがとう」
信じられない光景だった。レイ君がイッセイ坊ちゃまにお礼を言ったのだ。
「止めろよ、気持ち悪い。お前にありがたがられても不愉快なだけだ。まあ、今のうちにせいぜい余裕こいてろよ。この俺様を敵に回したことを今に後悔させてやるから!」
確かに、敵に回したくはない男だな。
「それと、この前言ったルールはまだ生きてるからな!俺の前でイチャイチャすんなよ。もし見かけたらお前のその粗末なち○こをちょん切ってやるからな」
ひえぇぇぇー。ホントにやりそうで怖い。気をつけなきゃ。
言いたい放題言って、本宅へ帰ろうとしているイッセイ坊ちゃまを見送る。
「ホントにありがとうございました!」
お礼言うなって言われたけど、今は感謝の言葉しかない。
「はあー。お前を離れに住まわせるんじゃなかったよ」
「……え?」
下げていた頭を上げると、坊ちゃまが目の前に立っていた。
「もう一度、あの夜に戻れるならお前を俺の手元に置いて、こいつには絶対会わせないのに」
外灯しかない薄暗い中で、イッセイ坊ちゃまはあたしの頬に触れ、悲し気に微笑んでいた。
何とも言えない複雑な気持ちになった。謝るのもお礼を言うのも可笑しい気がして、黙って立ち尽くすしかなかった。
「そんな顔すんなよ。せっかくの決意が揺らぐだろ」
頬に添えていた手で、坊ちゃまは軽くあたしの頬を抓った。
「あーあ。こんなことなら初めて会った日にヤッとくんだったなー」
空気を変えるように、坊ちゃまが笑って言った。
「え? 何もしてないんですか?」
「当たり前だろ。泣きながら泣いてないって言って、元カレの名前叫んでる女なんか抱けるか。言っただろ? 俺は紳士なんだ。手の早いあいつとは違う」
少し後ろにいるレイ君を顎で指して言った。
そうだったんだ……。
「あたしてっきり坊ちゃまとナニかあったんだと思ってました。なんだーそうだったんだー」
妙にホッとしている自分がいた。
イッセイ坊ちゃまは見かけよりずっと紳士だったんだ。
「がっかりしたんなら、いつでも相手してやるぞ」
冗談っぽく腰に手を回す。
「それより、今度あたしと出会った日のこと聞かせてくださいよ。お恥ずかしながらあの日のことは何にも覚えてなくて」
「ヤダ。教えてやんない」
「えー! ケチ!」
通常営業っぽく言い合ってると、イッセイ坊ちゃまが急に「痛っ」と叫んだ。気がつくと、レイ君が真後ろに立っていて、坊ちゃまがあたしの腰に回していた手を抓ったようだった。
「長い」
「なんだよ! 感じ悪いヤツだな! 俺に悪いと思う気があるなら、一日貸し出すぐらいの心遣いがあってもいいはずだぞ」
日付も変わろうってのに、いい大人が3人揃って、庭で騒いでたらご近所から苦情がきちゃうよね。
でも、今日はこの前みたいな喧嘩じゃないからいっか?(よくないか)
「じゃあ、俺は帰るから。お前もさっさと帰って来いよ!」
背を向け、捨て台詞を残してイッセイ坊ちゃまは帰って行った。
「ありがとう。イッセイ坊ちゃま」
去っていく背中に小声で呟いた。
「みのりちゃん」
レイ君に呼ばれて振り返る。
「ん? なに?」
「大事にするから」
「え……」
スッと伸びてきた腕があたしを包む。
ギュッと息もできないくらい。
「みのりちゃんのこと大事にするから」
不意打ちに泣いちゃいそう。
「嬉しい。ありがとっ!」
思いよ届けと、強く抱きしめ返す。
「好きよ、レイ君」
「俺もみのりちゃんが好き」
骨が軋むほど抱き合って、その夜は名残惜しく別れた。
これが生涯最後の恋になればいいのに。星も月もない真っ暗な夜空に願った。
宣言通り、あれからイッセイ坊ちゃまは前のようなあからさまな嫌がらせはしなくなった。
けど、諦めないと言ったのは事実のようで、時々思い出したように離れにやって来ては、鍋を食わせろだのなんだのって家に上がり込んだ。
そして、その度に「あいつとは上手くいってるのか?ダメならすぐに別れろ」って同じアドバイス?ばかりしてくれた。
バレンタインにはチョコ寄越せって言って、レイ君のために手作りしたチョコをちゃっかり半分持って帰っちゃうし。
イラッとすることもあるけど、彼は彼なりにあたしたちのことを心配してくれてるんだろうなって解釈することにしている。
まあ、お陰様でイッセイ坊ちゃまが心配するようなことは何ひとつなく、あたしたちはラブラブな交際を続けているのだけども。
レイ君は優しいし大人だし、ケンカにもならないから。知れば知るほど、レイ君をどんどん好きになっていくんだな、これが。
やがて、季節は巡り、あたしが最も待ち望んでいた6月6日がやって来た。
そう。我が愛しのレイ君のお誕生日。
今まで一度も祝ってもらったことがないという黒歴史も今日で終わり。
30歳という節目の歳を2人で盛大にお祝いしようと、付き合った当初からずっとプランを考えていた。
産みのお母さんを呼ぶことも考えたりしたけど、喜ばなかったら困るし、初回から博打は止めようと思い留まった。
何より、2人きりで祝いたかったし!
平日なのは残念だけど、レイ君に内緒で仕事を早退させてもらい、イッセイ坊ちゃまに今日だけは離れでお祝いさせてほしいと頼み込んでおいた。
外堀は完璧。あとは、あたしが頑張るだけ!
大山さんに教わりながら、密かに何度も練習したフルコースの料理を準備し、ケーキも焼いて、レイ君の帰りを待つ。
そろそろかなと思い、家中の電気を消しクラッカーを持ってスタンバイ。生まれて初めてのサプライズにワクワクドキドキ。
すると、玄関の開く音がした。体中に緊張が走る。
リビングのドアが開いたらクラッカーを鳴らして……段取りは完璧だ。
「アレ?」
彼が電気を点けたのと同時にパーンとクラッカーを鳴らした。
「お誕生日お……ええーっっっ!!!」
クラッカーの音にビックリしていたのはイッセイ坊ちゃまだった。
「なんだよ、ビックリすんなぁ。撃たれたかと思った」
いやいや、ホンマに撃ったろか! なんでよ!? 今日はサプライズパーティーするってあれほど言っといたじゃないかぁ!!
「んーっ! もぉ! 何してるんですか!」
『一世』一代のサプライズを『一成』に邪魔されるなんて、全然笑えない。
「パーティーするって言うから、シャンパン買って来てやったんだよ」
「そりゃありがたいですけど、何でレイ君より先に入って来るんですか?だいたいレイ君お酒飲めないし」
まさかわざと?わざとなのか?
「は? 飲めなくないぞ、あいつ。ははーん。さては隠してるんだな。試しに今日飲ませてみな。面白いから」
新情報はよしとして、得意げにニヤッとされても腹の虫が治まらん!
「えらく賑やかだね」
ギャーッ! 最悪ー!坊ちゃまとバトルしてる間に、レイ君帰って来ちゃった……。
あ゛ぁ~!!
数ヶ月がかりのプランがぁ~! ウソだー! こんなの絶対夢に決まってる。これが悪夢じゃなきゃなんなのー!
朝から一生懸命巻いた髪を振り乱す。見事に凹んだあたしを見て、さすがのイッセイ坊ちゃまもシャンパンだけ置いて帰った。
「ごめんね、レイ君」
うわーんって声に出して泣きたいよ。
「どうして謝るの? すごく嬉しいよ。誕生日におめでとうって言われたの初めてだし」
レイ君は喜んでくれてるみたいだけど、自分的に納得いかない。完全に消化不良。完璧なプランだったのになぁ。チッ!またしても、黒澤一成め!
「じゃあせっかくだから、これ飲もうかな。あいつがくれるなんて毒でも入ってそうだけど」
「あ、ホントだ。怖いなぁ」
未開封だから、さすがにそれはないだろうけど、疑いたくもなるよ。
「でも、みのりちゃんと一緒ならいいかな、死んでも」
美しい宝石のような色のシャンパンを、グラスに注ぎながらレイ君が言う。
「えーヤダ。まだまだ2人でしたいこといっぱいあるのにぃ」
死んで花実が咲くものか、だよ。
「それもそうだね」
ただシャンパン飲んでるだけなのに、カッコイイなぁ、レイ君。上品な微笑を見ていたら、誕生日の人に気を遣わせてちゃいけないなってちょっと反省した。
サプライズなんか失敗でもいいじゃん。こうして、一緒にお祝いできてるんだも
の。来年にはきっと笑い話になってるよね。気を取り直して乾杯。
でも、シャンパンを飲み始めてすぐレイ君に異変が起きた。
急にガクッと項垂れた 後、ピクリとも動かなくなってしまった。
アレ? 大丈夫かな?やっぱり飲めないんじゃないの?
「……レイ君? 大丈夫?」
「……クククククッ」
ひぇぇ! 何? どういう声、これ? もしかして、目の怖い人になっちゃうんじゃ?
あまりに不気味で、イスから立ち上がり横から顔を覗き込んだ。
「フフフフフッ」
へ? もしかして笑ってる? なんで? なんか面白いことあった?
「どうしたの?」
「え、何が?別にどうもしないよ」
頭を上げたレイ君は別人のように陽気な顔をしていた。これって……所謂、笑い上戸ってヤツですか?
「みのりちゃんこそどうしたの? あ、こっちおいで」
おや? 単なる笑い上戸っていうか、キャラ変わってない? もう別の人じゃない? 笑顔であたしを隣に座らせるなんて。
「かわいいねーみのりちゃんは」
普段言わないようなこと言って、頭を撫でるなんて。
「なんか、レイ君じゃないみたいだね」
「そう?」
相手は酔ってるんだから気にしきゃいいのかもしれないけど、見た目はレイ君だもんなー。嫌でもドキドキしちゃうよ。
「ねえ、みのりちゃん」
急に甘えた声出したりしてさ。
「なに?」
「俺のこと好き?」
いつもはそんなこと訊かないのに。
「うん。好き」
「じゃあ、チュウしてもいい?」
クールなレイ君しか知らなかったから、ここまでデレデレされると……毎日お酒飲ませちゃうかも。(おい)
うん、と頷くとニヤニヤしながらレイ君が近づいてきた。
何だか調子狂っちゃうな……。チュッとしたら終わりなのかと思ったのに、意外とがっつりくるし。
嫌がらせ半分のお節介だと疑ってたけど、シャンパンをくれたイッセイ坊ちゃまに感謝しなきゃいけないかも。こんなにかわいいレイ君を知らないのは損だもん。
「みのりちゃん、今日は本当にありがとう。準備とか大変だったでしょ?」
熱いキスの後、レイ君はあたしを抱きしめると呂律が少し回っていない感じで言った。
「ううん。楽しかったから」
喜んでくれるかなって想像しながらだとホントに楽しくて、何時間でもやっていられた。
「30年、待った甲斐があったよ」
「え?」
「今日のために今まで誕生日がなかったんだとしたら納得だよ。生まれて初めての誕生日祝いをしてくれたのが、みのりちゃんでよかった」
酔っ払った人の言葉だって頭では分かっているけど、それでもやっぱり嬉しくて涙が込み上げた。
「一生、大事にするから。ずっと俺のそばにいて」
「うん。ずっとレイ君のそばにいる」
もうどうしたらいいのか分からないくらい好きで、背中に回す手に力が入った。優しく受け止められると、笑っているのに涙が止まらなかった。
きっとあたしたちの前にはこれからもたくさんの試練が待っていると思う。
今思い浮かべただけでも、結構大変な壁がいくつもある。
イッセイ坊ちゃまに、奥様、レイ君の産みのお母さん。
それに加えて、あたしたちのこの身分差などなど……。
すべてがクリアになる日なんて、今はまだ想像すらできないけど、でも、焦らずゆっくりとひとつひとつ、レイ君と乗り越えていきたい。
どんな問題も逃げずに立ち向かっていけば、きっと運命だって変えられるはずだから……!
あたしはそう信じている。
「わーごめん。いつの間にか寝ちゃってたんだね。やっぱり飲むんじゃなかったな」
翌朝、甘あまモード全開のまま突然眠ってしまったレイ君は、目を覚ますと申し訳なさそうに言った。
「酔っ払ったレイ君すっごく可愛かったから大丈夫」
意外な一面を見れて余は満足じゃ。
「怖いな、全然覚えてない。なんか変なことしなかった?」
「フフッ。プロポーズされちゃった」
どさくさに紛れて、話を盛った。
「えっ、ごめん。そのことは忘れて」
「あぁ、うん……」
ですよねー。やっぱり現実はしょっぱいな。
「今度、素面の時にちゃんと言うから」
二日酔いで痛むのか、頭を押さえながらサラッと言われた。
「はい?」
「どうかした?」
どうかしたなんてもんじゃないでしょうよ! 今のは、そのうちプロポーズするよ宣言でしょ?
「レイ君、プロポーズって意味分かってる?」
微妙な年頃の女に『結婚』の二文字は危険すぎる。
「ヒドイな。それぐらい分かってるよ」
いいの? 本気にしちゃっても……。知らないよ?
あたしは単純だから、ホントに期待して待っちゃうからね。潤んだ目を誤魔化すように、彼の背中に飛びついた。その柔らかな温かさに満たされていく。
「おい! いつまで乳繰り合ってんだ! 無断で遅刻とはいい度胸だな」
和室の襖がデリカシーの欠片もなく突然開け放たれたかと思ったら、イッセイ坊ちゃまが怒鳴り込んできた。
感動的な場面も台無し。
「乳繰りって……へ? 嘘!もう6時だ! すいません! すぐ行きます!!」
軽いパニックに陥り、慌てて準備する。あ~情けない!
せっかくレイ君に結婚する意思があるって分かったのに、いきなりダメなとこが露呈しちゃった……。
さっきから頬杖ついて、じっとあたしを見てるけど……もしや呆れてる?
「ん?」恐る恐る首を傾げてみる。
「いや、かわいいなと思って」
はぁ~。急いでる時にそういうの反則だから! ほっぺにチュウでもしなきゃ収まらなくて、彼の元へ走った。
思ったより勢いがあって、唇は乱暴に当たってしまったけど、彼はにっこり微笑んで「いってらっしゃい」って言ってくれた。
「いってきます」
何気なく交わす言葉にも、勝手に愛を感じられるおめでたいあたしは、靴が左右バラバラなことにも気がつかず、ニヤニヤしながら本宅へ全力疾走していた。
これからも、まだまだあたしの恋物語は続いていくのだけれど……。
それはまた別のお話。
【おしまい】
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