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033.思い出の杏子
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四人の子供は、対等な友人関係だった。
けれど、同じというわけではなかった。
勉強の成績や運動の成績には差があるし、性格や趣味も違う。
そしてなにより、血縁関係に違いがあった。
アオイとアンズは血縁関係にあるが、サクラとカエデは違う。
田舎という小さな社会なので、大昔まで遡れば全員に血の繋がりはあるかも知れないが、少なくとも現代の法律ではアオイとアンズだけが血縁関係にあった。
けれど、問題はなかった。
たとえば、アンズとサクラとカエデが恋敵になった場合、様々な問題が出る。
アンズは法律で結婚が認められないという点では不利になる。
しかし、ひとつ屋根の下で暮らしているという点では有利になる。
有利と不利を相殺して対等にはなるかも知れないが、サクラやカエデと同じというわけにはいかない。
もっとも、それはアオイが特別な一人を選ぶ場合の話だ。
アオイはアンズとサクラとカエデに対して、対等に接した。
だから、問題はなかった。
「お兄ちゃん、また子猫が外に行っちゃったみたい」
「わかった。一緒に捜しに行こう」
子猫の世話は交代制だった。
アオイ、アンズ、サクラ、カエデに同じ回数だけ当番が回ってくる。
家族だからといって、アオイとアンズで合わせて一回になったりはしない。
ただし、家族だから一緒に世話をすることはできる。
二人でやれば、世話の回数は二倍だが、世話の手間は半分になる。
二人は協力して子猫の世話をしていた。
「どこに行っちゃったんだろう?」
「この間、ネズミを捕まえていたぞ。また何か捕まえようとして、追いかけているんじゃないか?」
「そうかも知れないね」
それほど大きくない田舎とは言っても、どこにでも隠れることができる子猫を捜し出すのは大変だ。
しかし、アンズにとって、それは苦痛ではなかった。
アオイと一緒に歩き回る。
猫を捜すという目的はあるが、それは散歩ということだ。
だから、苦痛ではなかった。
「お兄ちゃん、あっちに行ってみようよ」
気まぐれに目的地を決めて歩き回る。
無計画なようにも思えるが、これで意外と子猫が見つかる。
猫は気まぐれだ。
アンズも気まぐれだ。
思考回路が似ているので、目的地も被ることが多いのかも知れない。
いつものように気ままに散歩をする。
けれど、その日はいつもとは少し違った。
「あっ!」
子猫はすぐに見つかった。
だから散歩は終了ということになる。
しかし、アンズが声を上げたのは、散歩が早く終わったことが不満だったからではない。
子猫が野犬に襲われていたからだ。
「大変だ! 助けないと!」
アオイが慌てて助けに向かう。
子猫は今にも噛み殺されそうな雰囲気だったが、奇跡的に怪我は負っていなかった。
鳴き声を上げて威嚇しているので、襲われているのではなく、喧嘩をしているつもりなのかも知れない。
体格差は明確なのだが、子猫なので経験が足りなくて、そのことが分からないのかも知れない。
どちらにしても、子猫が相手に敵わないことに気付いたときには、手遅れになる可能性がある。
一刻も早く助ける必要があった。
しかし、相手に敵わず手遅れになる可能性があるのは、アオイも一緒だった。
野犬は狂暴だ。
鋭い牙で噛みつかれれば喉など食い破られてしまう。
鋭い爪で切り裂かれれば内臓までズタズタにされてしまう。
肉食の獣と向かい合うということは、獲物として狙われる覚悟を要求される。
「お兄ちゃん、これ!」
子猫を助けなければならないのは、アンズにも分かっていた。
しかし、そのために危険な目に遭うのは望むところではなかった。
だから、危険度を下げるための行動を取った。
肉食の獣と同様に、人間も狩りをする。
ただし、身体能力で言えば、人間は肉食の獣に敵わない。
けれど、地上で最も繁栄しているのは人間だ。
その理由は、牙や爪ではなく、道具を使って狩りをするからだ。
槍を使えば、牙や爪よりも間合いが伸びる。
石を投げれば、さらに間合いが伸びる。
アンズがアオイに手渡したのは、道端に落ちていた大きめの石だった。
槍のように鋭くはないから、刺すには向かない。
大きく重いので、投げるのには向かない。
だから、アオイは受け取った石を両手で持って振りかぶった。
そして、力いっぱい振り下ろした。
振り下ろした先には、野犬の頭があった。
普段なら、狂暴で素早い野犬が人間の子供に負けることは無かっただろう。
しかし、そのときの野犬は子猫を狙っていた。
油断したとしても、万が一にも負ける可能性がない子猫を狙っていた。
「ギャンッ!」
だから、アオイは子猫を助けることができた。
当たり所も助けることができた理由だった。
アオイにとっては運が良いことに、野犬にとっては運が悪いことに、石は頭蓋骨を割っていた。
そして、わずかではあるが、頭蓋骨の中身を潰していた。
実のところ、野犬はまだ生きていた。
けれど、身体を動かすための器官を潰されたために、動けなかった。
アオイとアンズにとっては、それで充分だった。
アオイとアンズの目的は、子猫を助けることであって、狩りをすることではなかった。
だから、野犬を動けなくさせるだけでよかった。
とどめを刺す必要はなかった。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。子猫も無事だよ」
「よかった~」
アオイとアンズは目的を達成し、子猫を連れて家へ帰った。
残された野犬は、後から通りかかった人物に有効活用されることになった。
けれど、同じというわけではなかった。
勉強の成績や運動の成績には差があるし、性格や趣味も違う。
そしてなにより、血縁関係に違いがあった。
アオイとアンズは血縁関係にあるが、サクラとカエデは違う。
田舎という小さな社会なので、大昔まで遡れば全員に血の繋がりはあるかも知れないが、少なくとも現代の法律ではアオイとアンズだけが血縁関係にあった。
けれど、問題はなかった。
たとえば、アンズとサクラとカエデが恋敵になった場合、様々な問題が出る。
アンズは法律で結婚が認められないという点では不利になる。
しかし、ひとつ屋根の下で暮らしているという点では有利になる。
有利と不利を相殺して対等にはなるかも知れないが、サクラやカエデと同じというわけにはいかない。
もっとも、それはアオイが特別な一人を選ぶ場合の話だ。
アオイはアンズとサクラとカエデに対して、対等に接した。
だから、問題はなかった。
「お兄ちゃん、また子猫が外に行っちゃったみたい」
「わかった。一緒に捜しに行こう」
子猫の世話は交代制だった。
アオイ、アンズ、サクラ、カエデに同じ回数だけ当番が回ってくる。
家族だからといって、アオイとアンズで合わせて一回になったりはしない。
ただし、家族だから一緒に世話をすることはできる。
二人でやれば、世話の回数は二倍だが、世話の手間は半分になる。
二人は協力して子猫の世話をしていた。
「どこに行っちゃったんだろう?」
「この間、ネズミを捕まえていたぞ。また何か捕まえようとして、追いかけているんじゃないか?」
「そうかも知れないね」
それほど大きくない田舎とは言っても、どこにでも隠れることができる子猫を捜し出すのは大変だ。
しかし、アンズにとって、それは苦痛ではなかった。
アオイと一緒に歩き回る。
猫を捜すという目的はあるが、それは散歩ということだ。
だから、苦痛ではなかった。
「お兄ちゃん、あっちに行ってみようよ」
気まぐれに目的地を決めて歩き回る。
無計画なようにも思えるが、これで意外と子猫が見つかる。
猫は気まぐれだ。
アンズも気まぐれだ。
思考回路が似ているので、目的地も被ることが多いのかも知れない。
いつものように気ままに散歩をする。
けれど、その日はいつもとは少し違った。
「あっ!」
子猫はすぐに見つかった。
だから散歩は終了ということになる。
しかし、アンズが声を上げたのは、散歩が早く終わったことが不満だったからではない。
子猫が野犬に襲われていたからだ。
「大変だ! 助けないと!」
アオイが慌てて助けに向かう。
子猫は今にも噛み殺されそうな雰囲気だったが、奇跡的に怪我は負っていなかった。
鳴き声を上げて威嚇しているので、襲われているのではなく、喧嘩をしているつもりなのかも知れない。
体格差は明確なのだが、子猫なので経験が足りなくて、そのことが分からないのかも知れない。
どちらにしても、子猫が相手に敵わないことに気付いたときには、手遅れになる可能性がある。
一刻も早く助ける必要があった。
しかし、相手に敵わず手遅れになる可能性があるのは、アオイも一緒だった。
野犬は狂暴だ。
鋭い牙で噛みつかれれば喉など食い破られてしまう。
鋭い爪で切り裂かれれば内臓までズタズタにされてしまう。
肉食の獣と向かい合うということは、獲物として狙われる覚悟を要求される。
「お兄ちゃん、これ!」
子猫を助けなければならないのは、アンズにも分かっていた。
しかし、そのために危険な目に遭うのは望むところではなかった。
だから、危険度を下げるための行動を取った。
肉食の獣と同様に、人間も狩りをする。
ただし、身体能力で言えば、人間は肉食の獣に敵わない。
けれど、地上で最も繁栄しているのは人間だ。
その理由は、牙や爪ではなく、道具を使って狩りをするからだ。
槍を使えば、牙や爪よりも間合いが伸びる。
石を投げれば、さらに間合いが伸びる。
アンズがアオイに手渡したのは、道端に落ちていた大きめの石だった。
槍のように鋭くはないから、刺すには向かない。
大きく重いので、投げるのには向かない。
だから、アオイは受け取った石を両手で持って振りかぶった。
そして、力いっぱい振り下ろした。
振り下ろした先には、野犬の頭があった。
普段なら、狂暴で素早い野犬が人間の子供に負けることは無かっただろう。
しかし、そのときの野犬は子猫を狙っていた。
油断したとしても、万が一にも負ける可能性がない子猫を狙っていた。
「ギャンッ!」
だから、アオイは子猫を助けることができた。
当たり所も助けることができた理由だった。
アオイにとっては運が良いことに、野犬にとっては運が悪いことに、石は頭蓋骨を割っていた。
そして、わずかではあるが、頭蓋骨の中身を潰していた。
実のところ、野犬はまだ生きていた。
けれど、身体を動かすための器官を潰されたために、動けなかった。
アオイとアンズにとっては、それで充分だった。
アオイとアンズの目的は、子猫を助けることであって、狩りをすることではなかった。
だから、野犬を動けなくさせるだけでよかった。
とどめを刺す必要はなかった。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。子猫も無事だよ」
「よかった~」
アオイとアンズは目的を達成し、子猫を連れて家へ帰った。
残された野犬は、後から通りかかった人物に有効活用されることになった。
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