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悪の女幹部4

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 放課後になりました。
 今日の部活は、先輩部員が作っている同人誌のお手伝いです。

「キララちゃんと加藤ちゃんは校庭を散歩してきて。途中で休憩していいから、ゆっくりしてきてね」

 私とおっぱいお化けは百円玉をひとつずつ持たされます。
 これでジュースを買って飲んでいいということでしょう。
 缶ジュースは無理ですが、紙パックの少し安いジュースなら買うことができます。

「そんな、悪いですよ。みなさんの分のジュースを買ってきます」
「いいわ。こぼすといけないから」
「あぅ」

 おっぱいお化けが提案しますが、先輩部員がそれを断ります。
 断った理由を聞いておっぱいお化けが、シュンとなります。
 実は同人誌の手伝いをしているときに、おっぱいお化けはインクを倒して原稿を汚してしまったのです。
 先輩部員は同人誌をアナログ手法で作っています。
 デジタル手法のようにお手軽にやり直しはできません。
 先輩部員は笑って許してくれましたが、笑顔が引きつっているのは明らかで、見ていて痛々しかったです。
 そういった背景があるので、先ほどの言葉は余計なことをするなという意味だと思います。
 おっぱいお化けは汚名返上をしたかったのでしょうが、見事に玉砕しています。

「私は手伝いますよ。ソラも手伝っていますし」
「キララちゃんは……作風が違うから。なんなら、ソラ君をつけるから、散歩してきて」
「むぅ」

 私は手伝いの継続を名乗り出ますが、断られてしまいました。
 同人誌とは、いわばアート作品です。
 作風が違うと言われたら、引き下がるしかありません。
 色塗りをお願いされたときに、ヒロインの服が少し地味だなと思って、魔女っ子衣装を描き足すくらい頑張ったのですが残念です。

「他にお手伝いできることがあれば、言ってください」
「ええ、ありがとう。今のところないわ」

 部室にいても手伝えることはなさそうです。
 言われた通り、校庭を散歩してくるしかありません。
 私はソラの方を、ちらりと見ます。
 ソラは楽しそうに同人誌作りを手伝っていました。
 同人誌を作ったことは無いはずですが、興味はあったのでしょう。
 手先も器用なので、手伝いの戦力になっています。
 連れて行くとは言いづらいです。
 ソラを女性部員だらけの部室に置いていくのは少し心配です。
 でも、ラスボスであるおっぱいお化けは部室から離れるので、妥協することにします。

「じゃあ、行ってきます」

 こうして、私とおっぱいお化けは校庭を散歩することになりました。

 *****

 考えてみたら、おっぱいお化けと二人きりという状況は初めてです。
 お花見のときに少し会話はしましたが、おっぱいお化けのことはよく知りません。
 ただ散歩をするのも暇なので、彼女の観察でもすることにします。
 ラスボスを倒すためには、情報収集が大切なのです。
 なぜなら、魔女っ子には、決して敗北は許されないからです。
 昔の熱血漫画のように、敗北→修行→勝利ではダメなのです。
 魔女っ子に求められるのは、燃えではなく、萌えなのです。
 ちなみに、先輩部員が描いていたのは熱血漫画でした。
 懐古趣味なのかも知れません。
 そんなことを考えていたら、おっぱいお化けが落ち込んだ表情で話しかけてきました。

「迷惑をかけちゃったみたいだね。みんなで同人誌を作るのって、ちょっと憧れていたんだけどな」

 どうやら、部室でのことを気にしているようです。
 私はソラの付き添いで入部しましたが、おっぱいお化けは入部したいから入部したと言っていました。
 そういう活動が好きなのでしょう。
 ラスボスとはいえ落ち込んでいるのを見るのは、気分のよいものではありません。
 少しフォローすることにします。

「おっぱ……加藤さん、諦めるのは早いわ。同人誌にはコスプレ写真を載せることもあると聞くわよ。加藤さんなら、ちょっと胸元の広い衣装を着て、ジャンプして可愛いポーズをしている写真を載せれば、きっと売り上げに貢献できるんじゃないかしら」
「!?」

 私のフォローを聞いて、加藤さんがバッと胸を押さえます。
 朝のように、ぽかぽかと叩いてはきませんでしたが、ジト目を向けてきます。

「……ねえ、キララさん。私を呼ぶときにいつも最初に言い間違えるけど、もしかして『おっぱい』って言おうとしてる?」

 むっ。
 鋭いです。
 でも、違います。

「いいえ。そんなわけないじゃない」
「……本当?」
「本当よ」

 おっぱいお化けは疑わしそうな顔を向けていますが、本当に違います。
 私は心の中で『おっぱい』ではなく『おっぱいお化け』と呼んでいるからです。
 なぜなら、おっぱいお化けのおっぱいは、普通のおっぱいではありません。
 お化けと呼ぶにふさわしいものだからです。
 除霊したいのですが、残念ながら私はゴーストバスターではないので、できないのです。

「なら、いいけど」

 私が念押しで否定すると、おっぱいお化けはようやく納得しました。
 まったく、疑り深いおっぱいです。
 きっと栄養が全ておっぱいに吸い取られて、人を信じる心が育っていないのです。

 そんな会話をしながら、私とおっぱいお化けは校庭を歩きます。
 しかし、校庭は運動部が活動する広さはありますが、散歩するには狭いです。
 あっという間に、一周してしまいました。
 自然と足は自販機に向かいます。
 ジュースでも飲んで時間を潰すことにしましょう。

 私はオレンジジュースを購入します。
 ビタミンは大切です。
 そして、おっぱいお化けは――

「まだ、おっぱいを大きくしたいの?」

 ――ミルクを買いました。
 きっと、おっぱいの中にミルクを溜め込むためだと思います。
 そして、男の人に飲ませるのでしょう。
 おっぱいお化けは、いやらしいです。

「やっぱり、心の中で私のこと『おっぱい』って呼んでるよね!?」

 私の言葉に、おっぱいお化けが、ぶるんとおっぱいを震わせながら叫びました。
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