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第十三章 シンデレラ
207.シンデレラ(その3)
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結局のところ、吸血鬼なんてものはいない。
それが私の考えだ。
その証拠に、メフィは最初こそ『吸血鬼』という単語を使ったけど、その後の説明のときは『人間達』と言っていた。
たぶんあれは、人々が『吸血鬼』と呼んでいるという意味だったのだろう。
じゃあ、攻めてきた連中はただの人間なのかというと、そういうわけでもない。
吸血鬼はいない。
だけど、吸血鬼のような存在を作ることはできる。
そういうことなんだと思う。
筋力を増幅させる薬。
痛みを感じさせなくする薬。
幻覚を見せて、判断力を低下させて、恐怖を感じさせなくする薬。
光や水を怖れるようになる、感染力の高い病。
血を吸う行為による暗示。
そういったものを組み合わせることで、おとぎ話に出てくる吸血鬼のような存在を作ることはできる。
思い返してみれば、みんな『彼女』がやっていたことだ。
最初からそういう計画だったのか、今までの蓄積で思い付いたのかは分からない。
だけど、結果として、人々から吸血鬼と呼ばれる存在は現実世界に現れた。
種明かしをすれば、事態は解決するだろうか。
無理だ。
吸血鬼が本当に吸血鬼かどうかなんていうのは、些細な問題なのだ。
襲い掛かってくる相手が吸血鬼のように怖ろしく、噛まれたら吸血鬼に噛まれたようになってしまうということが重要なのだ。
実際に吸血鬼かどうかなんて、脅威という点においては、どちらでも変わらない。
「私が甘かったってことなんでしょうね」
『彼女』、エリザベート王女を殺す機会はあった。
殺さなくても、牢屋から出られなくすることはできたはずだ。
他国の王女だからだとか、色々な理由はあったけど、やろうと思えばできたはずなのだ。
だけど、やらなかった。
その結果、今の状況になっている。
部屋の中には、駆け込んできたミシェル、不安そうなリンゴ達、これからのことを考えている様子の師匠。
そして、楽しそうに笑っているメフィ。
みんな、私の言葉を待っているように見える。
それを眺めながら思う。
なんでこんなことになっているのだろう。
義理の母親にいじめられるまま、屋敷で灰にまみれながら掃除をして暮らしていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
そうすれば、エリザベート王女はシルヴァニア王国で残虐な行為を続けただろうけど、それは遠い国の出来事として無関係でいられたのだろうか。
過去に戻って試せない以上、どうなるかは分からない。
それに、試そうとも思わない。
もし、過去に戻れたとしても、私は行動を起こすと思う。
師匠に出会わなくても、メフィを呼び出さなくても、私は舞踏会に行ったと思う。
そして、今と似たような状況になった気がする。
なぜなら、メフィを呼び出したのは手段でしかなく、舞踏会に行くと決めたのは私なのだから。
「いいわ、メフィ。あなたから借りたものを、まとめて返すことにするわ」
なら、なんでこんなことになっているかなんて、考えるだけ無駄だ。
無駄なことはせずに、とっとと終わらせることにする。
「どうやってですかな?」
私の宣言に、メフィが問いかけてくる。
だけ、不思議がっている様子はない。
たぶん、私が何て答えるのは分かっているのだと思う。
「バビロン王国を手に入れて、吸血鬼にされた人々の魂をあげる。それだけあれば足りるでしょう?」
「おつりが出ますな」
私の答えは期待通りだったのだろう。
メフィは楽し気に私の言葉を肯定する。
「女神らしく、吸血鬼退治と行きましょうか」
吸血鬼が本当に吸血鬼かどうかなんていうのは、些細な問題だ。
なら、私が本当に女神かどうかなんていうのも、些細な問題だ。
女神なんていう不相応な呼び名も、せいぜい利用させてもらうことにする。
*****
さて、吸血鬼を退治するとは言ったけど、私にできることは少ない。
だから、できないことは丸投げにしようと思う。
「あの、姉様。いったい何があったのですか?」
部屋に駆け込んできたミシェルは不安そうにしている。
それはそうだろう。
故郷が襲撃されていると聞いたのだ。
私は安心させるように頭を撫でる。
「大したことじゃないわ。吸血鬼が出たっていうだけ」
「吸血鬼って、姉様・・・」
我ながらおかしな言葉だとは思うけど、ミシェルは私の言葉を聞いて笑いも怒りもしなかった。
おそらく、故郷からの連絡で、似たような情報を聞いたのだろう。
色々と教えることはできるけど、今はその時間がもったいない。
だから、一言だけ伝える。
「私が退治してあげるから、ちょっと待っててね」
「・・・はい」
納得したわけではないことは表情から分かるけど、ミシェルはそれ以上は何も言ってこなかった。
自分が騒いでも邪魔になることが分かっているのだろう。
賢い子だ。
ミシェルが大人しくしてくれたのを確認し、私は本題に入る。
「吸血鬼がどんな存在なのかは、この際、気にしないことにしましょう」
「豪胆じゃのう。まあ、異論はないが」
吸血鬼の正体を予想できていると思われる師匠はそうコメントする程度だけど、他の人間は不安そうだ。
でも、予想を説明したとしても状況が変わるわけではないし、脅威に対する不安が解消されるわけではないので、説明は省略させてもらうことにする。
「気を付けなきゃいけないのは、そいつらに怪我を負わされると厄介な病に感染するということ。そして、バビロン王国の国民が吸血鬼にされただろうから、数が多いだろうってこと」
「バビロン王国の国民が吸血鬼に襲われて仲間にされたってことですか?大変じゃないですか!助けないと!」
私の言葉にミシェルが声を上げる。
賢い上に良い子だと思う。
でも、私は良い子ではないから、ミシェルの言葉にはこう答える。
「大丈夫よ。バビロン王国の『人間』は助けるつもりだから」
「ホントですか、姉様」
「ええ」
私の言葉にミシェルは安堵した様子を見せる。
だけど、ちらりと他の人間を見ると、そんな様子は見せていない。
私の言葉が正しく伝わっているのだろう。
そして、ミシェルにそのことを教えないのは、私の意図も伝わっているからだと思う。
私は話を続ける。
「師匠、バビロン王国からやってくる敵に対して作戦は立てられる?」
「一番よいのは、アヴァロン王国、ハーメルン王国、ブレーメン王国が連携して、これ以上敵を通さないことじゃろうな。敵は数こそ多いが突破力は低いじゃろうから、敵を通さなければ被害の拡大は防げると思う」
「連携しないといけないのは、なぜ?」
「どこかの国が突破されたら、複数の方向から攻撃されることになる。それでなくても数が多いのじゃから、敵がやってくる範囲が広がってしまっては、防ぐのが難しくなる」
つまり、下手に攻撃するより、防衛に徹した方が被害は出ないということか。
だけど、長期戦になりそうだな。
「じゃが、連携は難しいじゃろうな。どの国も自国を優先するじゃろうし、事態を早期に解決しようとバビロン王国を攻めようとするじゃろ」
師匠は、自らが語った戦略が効率的だとは思いつつも、実現は難しいと考えているようだ。
私だって、そう思う。
単純に戦局のことだけでなく、戦後の利権が絡めば、さらに状況は悪化する可能性すらある。
でもそれは、普通の戦争だったらの話だ。
「今の作戦を私の名前で各国へ伝えるわ」
「おぬしの名で?」
「女神の神託としてね」
今回は普通の戦争じゃない。
相手は人間ではなく、吸血鬼なのだ。
そこを利用させてもらうことにする。
師匠は私の言葉をしばし考える。
「・・・吸血鬼に対する人々の不安を煽って、協力せざるを得ない状況にするということか?そう上手く行くじゃろうか」
さすがに師匠は私が考えていることは、すぐに理解できたようだ。
けど、実現できるかは半信半疑のようだ。
「それだけじゃ、上手く行かないでしょうね。だから、ちゃんと利益と損害のバランスも取るわよ。シルヴァニア王国には避難民の受け入れをお願いするわ」
師匠の作戦だと、バビロン王国をから最も遠いシルヴァニア王国だけが損害が少ないことになる。
それでは、他の国が納得しないだろう。
だから、他の方法で協力してもらうつもりだ。
「それでもバランスは不十分じゃろ。作戦を実行すれば、おそらく戦力が低いブレーメン王国の護りが最も薄くなる。アヴァロン王国とハーメルン王国から兵や装備を提供するための対価は用意できるのか?」
銃を持つアヴァロン王国と鎧を持つハーメルン王国に対して、ブレーメン王国は戦力が低い。
観光資源により経済面では上だったかも知れないけど、少し前に経済が低迷していると相談を受けたばかりだ。
だから、単純にお金で解決するのは難しいかも知れない。
どうするかな。
「あの・・・」
私が頭を悩ませていると、ミシェルがおずおずと声を上げる。
この賢い子がこのタイミングで口を開くということは、何か意見があるのだろう。
聞いてみることにする。
「なに?」
私が促すと、ミシェルは少し迷う素振りを見せた後、言葉を続ける。
「情報ではダメでしょうか?」
「情報?」
「バビロン王城の現在の状況と、現在の状況でもバビロン王城へ辿り着くことができる道についての情報です」
その情報が手に入るのなら充分な対価になる。
なぜなら、戦争において情報は戦況を大きく左右する。
だけど、情報は大勢の兵士がいれば手に入るというものではない。
少人数の優秀な人材が、命をかけて手に入れるしかないのだ。
だから、問題は一つ。
「本当にそれが手に入るなら対価になるけど・・・できるの?」
そういう人材がいるのかどうか、そしてその人材が他国の人材より優れているのかどうかだ。
他国が自力で手に入れることができる情報ならば、価値は薄れる。
「我が国は昔から観光地だった影響で、バビロン王国からのお客様も多く訪れています。その中には、バビロン王国で高い地位にいる貴族もいるんです。その人達から情報を集めることができると思います」
そういう繋がりがあるのか。
そうやって情報を収集してきたことが、ブレーメン王国が他国より戦力が低くても生き延びてこれた理由なのかも知れない。
情報があれば、戦争が起きる前に対処して、有利な立場を保つこともできるだろう。
「国家機密に触れる情報だと思うのだけど、情報を提供してくれるかしら?」
「吸血鬼なんてものが現れている状況ですし、身の保証を取り引き材料にすれば、情報を提供してもらうことは可能だと思います」
ミシェルの言い方からすると、過去にもそういう取り引きで情報を得た実績があるようだ。
なら、当てにできそうだな。
本来なら、今の話は他国の人間に話してはいけないことなのだろう。
だけど、非常事態だから話してくれたのだと思う。
だから、私も信じようと思う。
「わかったわ。それでいきましょう」
これで、各国の役割についての方針は決まった。
「書状を作るから、リンゴ達は各国へ届けてちょうだい」
「承知しました」
「それと、ミシェルはそのときに一緒にブレーメン王国に帰って、今の内容を直接話してきてね。さすがに、他国の人間である私からお願いして、さっきの情報をもらうのは難しいでしょうから」
「わかりました」
私の合図で、みんなが行動を開始した。
それが私の考えだ。
その証拠に、メフィは最初こそ『吸血鬼』という単語を使ったけど、その後の説明のときは『人間達』と言っていた。
たぶんあれは、人々が『吸血鬼』と呼んでいるという意味だったのだろう。
じゃあ、攻めてきた連中はただの人間なのかというと、そういうわけでもない。
吸血鬼はいない。
だけど、吸血鬼のような存在を作ることはできる。
そういうことなんだと思う。
筋力を増幅させる薬。
痛みを感じさせなくする薬。
幻覚を見せて、判断力を低下させて、恐怖を感じさせなくする薬。
光や水を怖れるようになる、感染力の高い病。
血を吸う行為による暗示。
そういったものを組み合わせることで、おとぎ話に出てくる吸血鬼のような存在を作ることはできる。
思い返してみれば、みんな『彼女』がやっていたことだ。
最初からそういう計画だったのか、今までの蓄積で思い付いたのかは分からない。
だけど、結果として、人々から吸血鬼と呼ばれる存在は現実世界に現れた。
種明かしをすれば、事態は解決するだろうか。
無理だ。
吸血鬼が本当に吸血鬼かどうかなんていうのは、些細な問題なのだ。
襲い掛かってくる相手が吸血鬼のように怖ろしく、噛まれたら吸血鬼に噛まれたようになってしまうということが重要なのだ。
実際に吸血鬼かどうかなんて、脅威という点においては、どちらでも変わらない。
「私が甘かったってことなんでしょうね」
『彼女』、エリザベート王女を殺す機会はあった。
殺さなくても、牢屋から出られなくすることはできたはずだ。
他国の王女だからだとか、色々な理由はあったけど、やろうと思えばできたはずなのだ。
だけど、やらなかった。
その結果、今の状況になっている。
部屋の中には、駆け込んできたミシェル、不安そうなリンゴ達、これからのことを考えている様子の師匠。
そして、楽しそうに笑っているメフィ。
みんな、私の言葉を待っているように見える。
それを眺めながら思う。
なんでこんなことになっているのだろう。
義理の母親にいじめられるまま、屋敷で灰にまみれながら掃除をして暮らしていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
そうすれば、エリザベート王女はシルヴァニア王国で残虐な行為を続けただろうけど、それは遠い国の出来事として無関係でいられたのだろうか。
過去に戻って試せない以上、どうなるかは分からない。
それに、試そうとも思わない。
もし、過去に戻れたとしても、私は行動を起こすと思う。
師匠に出会わなくても、メフィを呼び出さなくても、私は舞踏会に行ったと思う。
そして、今と似たような状況になった気がする。
なぜなら、メフィを呼び出したのは手段でしかなく、舞踏会に行くと決めたのは私なのだから。
「いいわ、メフィ。あなたから借りたものを、まとめて返すことにするわ」
なら、なんでこんなことになっているかなんて、考えるだけ無駄だ。
無駄なことはせずに、とっとと終わらせることにする。
「どうやってですかな?」
私の宣言に、メフィが問いかけてくる。
だけ、不思議がっている様子はない。
たぶん、私が何て答えるのは分かっているのだと思う。
「バビロン王国を手に入れて、吸血鬼にされた人々の魂をあげる。それだけあれば足りるでしょう?」
「おつりが出ますな」
私の答えは期待通りだったのだろう。
メフィは楽し気に私の言葉を肯定する。
「女神らしく、吸血鬼退治と行きましょうか」
吸血鬼が本当に吸血鬼かどうかなんていうのは、些細な問題だ。
なら、私が本当に女神かどうかなんていうのも、些細な問題だ。
女神なんていう不相応な呼び名も、せいぜい利用させてもらうことにする。
*****
さて、吸血鬼を退治するとは言ったけど、私にできることは少ない。
だから、できないことは丸投げにしようと思う。
「あの、姉様。いったい何があったのですか?」
部屋に駆け込んできたミシェルは不安そうにしている。
それはそうだろう。
故郷が襲撃されていると聞いたのだ。
私は安心させるように頭を撫でる。
「大したことじゃないわ。吸血鬼が出たっていうだけ」
「吸血鬼って、姉様・・・」
我ながらおかしな言葉だとは思うけど、ミシェルは私の言葉を聞いて笑いも怒りもしなかった。
おそらく、故郷からの連絡で、似たような情報を聞いたのだろう。
色々と教えることはできるけど、今はその時間がもったいない。
だから、一言だけ伝える。
「私が退治してあげるから、ちょっと待っててね」
「・・・はい」
納得したわけではないことは表情から分かるけど、ミシェルはそれ以上は何も言ってこなかった。
自分が騒いでも邪魔になることが分かっているのだろう。
賢い子だ。
ミシェルが大人しくしてくれたのを確認し、私は本題に入る。
「吸血鬼がどんな存在なのかは、この際、気にしないことにしましょう」
「豪胆じゃのう。まあ、異論はないが」
吸血鬼の正体を予想できていると思われる師匠はそうコメントする程度だけど、他の人間は不安そうだ。
でも、予想を説明したとしても状況が変わるわけではないし、脅威に対する不安が解消されるわけではないので、説明は省略させてもらうことにする。
「気を付けなきゃいけないのは、そいつらに怪我を負わされると厄介な病に感染するということ。そして、バビロン王国の国民が吸血鬼にされただろうから、数が多いだろうってこと」
「バビロン王国の国民が吸血鬼に襲われて仲間にされたってことですか?大変じゃないですか!助けないと!」
私の言葉にミシェルが声を上げる。
賢い上に良い子だと思う。
でも、私は良い子ではないから、ミシェルの言葉にはこう答える。
「大丈夫よ。バビロン王国の『人間』は助けるつもりだから」
「ホントですか、姉様」
「ええ」
私の言葉にミシェルは安堵した様子を見せる。
だけど、ちらりと他の人間を見ると、そんな様子は見せていない。
私の言葉が正しく伝わっているのだろう。
そして、ミシェルにそのことを教えないのは、私の意図も伝わっているからだと思う。
私は話を続ける。
「師匠、バビロン王国からやってくる敵に対して作戦は立てられる?」
「一番よいのは、アヴァロン王国、ハーメルン王国、ブレーメン王国が連携して、これ以上敵を通さないことじゃろうな。敵は数こそ多いが突破力は低いじゃろうから、敵を通さなければ被害の拡大は防げると思う」
「連携しないといけないのは、なぜ?」
「どこかの国が突破されたら、複数の方向から攻撃されることになる。それでなくても数が多いのじゃから、敵がやってくる範囲が広がってしまっては、防ぐのが難しくなる」
つまり、下手に攻撃するより、防衛に徹した方が被害は出ないということか。
だけど、長期戦になりそうだな。
「じゃが、連携は難しいじゃろうな。どの国も自国を優先するじゃろうし、事態を早期に解決しようとバビロン王国を攻めようとするじゃろ」
師匠は、自らが語った戦略が効率的だとは思いつつも、実現は難しいと考えているようだ。
私だって、そう思う。
単純に戦局のことだけでなく、戦後の利権が絡めば、さらに状況は悪化する可能性すらある。
でもそれは、普通の戦争だったらの話だ。
「今の作戦を私の名前で各国へ伝えるわ」
「おぬしの名で?」
「女神の神託としてね」
今回は普通の戦争じゃない。
相手は人間ではなく、吸血鬼なのだ。
そこを利用させてもらうことにする。
師匠は私の言葉をしばし考える。
「・・・吸血鬼に対する人々の不安を煽って、協力せざるを得ない状況にするということか?そう上手く行くじゃろうか」
さすがに師匠は私が考えていることは、すぐに理解できたようだ。
けど、実現できるかは半信半疑のようだ。
「それだけじゃ、上手く行かないでしょうね。だから、ちゃんと利益と損害のバランスも取るわよ。シルヴァニア王国には避難民の受け入れをお願いするわ」
師匠の作戦だと、バビロン王国をから最も遠いシルヴァニア王国だけが損害が少ないことになる。
それでは、他の国が納得しないだろう。
だから、他の方法で協力してもらうつもりだ。
「それでもバランスは不十分じゃろ。作戦を実行すれば、おそらく戦力が低いブレーメン王国の護りが最も薄くなる。アヴァロン王国とハーメルン王国から兵や装備を提供するための対価は用意できるのか?」
銃を持つアヴァロン王国と鎧を持つハーメルン王国に対して、ブレーメン王国は戦力が低い。
観光資源により経済面では上だったかも知れないけど、少し前に経済が低迷していると相談を受けたばかりだ。
だから、単純にお金で解決するのは難しいかも知れない。
どうするかな。
「あの・・・」
私が頭を悩ませていると、ミシェルがおずおずと声を上げる。
この賢い子がこのタイミングで口を開くということは、何か意見があるのだろう。
聞いてみることにする。
「なに?」
私が促すと、ミシェルは少し迷う素振りを見せた後、言葉を続ける。
「情報ではダメでしょうか?」
「情報?」
「バビロン王城の現在の状況と、現在の状況でもバビロン王城へ辿り着くことができる道についての情報です」
その情報が手に入るのなら充分な対価になる。
なぜなら、戦争において情報は戦況を大きく左右する。
だけど、情報は大勢の兵士がいれば手に入るというものではない。
少人数の優秀な人材が、命をかけて手に入れるしかないのだ。
だから、問題は一つ。
「本当にそれが手に入るなら対価になるけど・・・できるの?」
そういう人材がいるのかどうか、そしてその人材が他国の人材より優れているのかどうかだ。
他国が自力で手に入れることができる情報ならば、価値は薄れる。
「我が国は昔から観光地だった影響で、バビロン王国からのお客様も多く訪れています。その中には、バビロン王国で高い地位にいる貴族もいるんです。その人達から情報を集めることができると思います」
そういう繋がりがあるのか。
そうやって情報を収集してきたことが、ブレーメン王国が他国より戦力が低くても生き延びてこれた理由なのかも知れない。
情報があれば、戦争が起きる前に対処して、有利な立場を保つこともできるだろう。
「国家機密に触れる情報だと思うのだけど、情報を提供してくれるかしら?」
「吸血鬼なんてものが現れている状況ですし、身の保証を取り引き材料にすれば、情報を提供してもらうことは可能だと思います」
ミシェルの言い方からすると、過去にもそういう取り引きで情報を得た実績があるようだ。
なら、当てにできそうだな。
本来なら、今の話は他国の人間に話してはいけないことなのだろう。
だけど、非常事態だから話してくれたのだと思う。
だから、私も信じようと思う。
「わかったわ。それでいきましょう」
これで、各国の役割についての方針は決まった。
「書状を作るから、リンゴ達は各国へ届けてちょうだい」
「承知しました」
「それと、ミシェルはそのときに一緒にブレーメン王国に帰って、今の内容を直接話してきてね。さすがに、他国の人間である私からお願いして、さっきの情報をもらうのは難しいでしょうから」
「わかりました」
私の合図で、みんなが行動を開始した。
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