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第六章 眠り姫

100.誕生パーティー直前

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 パーティー当日。
 まだ、開始時間には早いけれど、私は城に来ていた。

「なんの話だと思う?」

 隣を歩くアーサー王子に尋ねる。
 メイド達は同行していない。
 彼女達には別の場所に待機してもらっている。
 代わりに同行しているのは護衛の騎士達だ。
 彼らは『普通の』護衛をしてくれる。

「『赤の聖女』として呼ばれているからね。いきなり捕まるってことはないと思うよ」
「だといいけど」

 城に来ている理由は、呼ばれたからだ。
 呼んだ相手は、この国の王様。
 だから、謁見の間に向かっている。
 ちなみに、メフィは一緒じゃない。
 誕生パーティーで合流する予定だ。

「意外と本当にお礼を言われるだけかも知れないよ。褒美ももらえるかもね」
「その褒美も不安なんだけどね」

 褒美というのは、一般的に与えられる側にとって、喜ばしいものだと言われている。
 だけど、それは間違いだ。
 なぜなら、褒美は報酬じゃないからだ。
 押し付けられた褒美は、必ずしも喜ばしいものとは限らない。

「褒美って、受け取り拒否もできるわよね」
「えーっと・・・」

 アーサー王子が困ったように苦笑いをする。
 分かっている。
 王様からの褒美を断れるわけがない、
 断ることはできるだろうけど、それなりの理由がいる。
 ただ拒否するだけでは、褒美が不満だと言っているようなものだ。
 つまり、王様が満足できる褒美を与えられなかったことになる。
 それは、侮辱と思われる可能性がある行為なのだ。
 まったく、メンドクサイ。

「まあ、王様との謁見はそんなに心配してないけどね。フォローしてくれるんでしょ?」
「それは、もちろん」

 アーサー王子が嬉しそうに肯定してくる。
 頼ったことを喜んでいるようだ。
 正直、フォローが無くても何とかなるとは思っているけど、王族であるアーサー王子がいた方が話はスムーズに進むだろう。

 *****

 謁見の間には王様、そして、王女がいた。
 あとは、重臣らしき人や騎士が何人か。

「よく来てくれた、赤の聖女殿。・・・・・どうした?」

 いけない、いけない。
 聖女と呼ばれることに対する拒否反応が、顔に出てしまったようだ。

「失礼しました。お招きいただき、ありがとうございます」

 丁寧なカーテシーをしながら、招待に対する礼を言う。
 使者として来たときは男装だったけど、今日は違う。
 『赤の聖女』として呼ばれたのだから、それにふさわしい赤いドレスで来た。

「さて、こうして来てもらった理由だが・・・」

 そうして、王様が話し始めた内容は、ある意味では予想通りだけど、ある意味では予想外だった。

「我が国を救ってもらったことに礼を言う」

 その一言から始まった感謝の言葉は、なんというか予想以上だった。

「(なんで、こんなに感謝されているんだろ?)」
「(シンデレラのおかげで豊作だったといっても、今年だけのことだしね)」

 王様からは唇の動きが見えない程度の小声でアーサー王子と会話をする。
 やはり、アーサー王子から見ても、この感謝のされ方は異常らしい。
 なにしろ、王様が言うには、私はこの国の救世主らしい。

「あの・・・」

 王様の話を遮ることが不敬なことだとは知っているけど、運よく話の隙間ができたので、口を挟む。

「無断で勝手なことをしたにも関わらず感謝していただけたのは嬉しいですが、いささか過剰な感謝をいただいている気がいたします」

 ずばり訊いてみた。
 本当はもう少し遠まわしに訊いた方がいいのかも知れないけど、回りくどいのは苦手だ。
 ふと見ると、アーサー王子が何か言いたそうにしていた。
 しまった。
 こういうときのために、フォローをお願いしていたんだった。
 まあ、もう遅いけど。

「過剰などではない」

 幸い、王様は気を悪くしていないようだ。
 私の疑問に答えてくれる。

「そなたが我が国のためにしてくれたことを考えれば、過剰などではない」
「しかし、私が行ったことは、村を回って畑の状態に適した種や苗を配っただけのことです。今年は豊作だったと聞きましたが、来年以降も同じようになるとは限りません。毎年、植えるものを入れ替えるなどの対策をすれば、昨年までよりは収穫量は改善するとは思いますが・・・」
「そなたが行ったのが、それだけではないことはわかっておる」
「・・・・・?」

 王様の言葉に疑問を抱く。
 私、他に何かやったっけ?
 他にやったことと言えば、地下の隠し部屋にいた女性達をアレしたくらいだけど。
 まさか、それではないと思う。
 そうだとしたら、こんな感謝のされ方はしないだろう。

「我が国の特産物を、アヴァロン王国が低い関税で輸入するように働きかけてくれただろう。もともと国内だけで消費されていたものなのだが、それを国外に売ることにより冬の食糧を買うという手段を手に入れることができた」

 それは、もしかして、アレか。
 師匠が個人的な理由で勝手に関税を下げたっていう、アレか。

「もし、来年以降に不作になったとしても、国民が飢えることは少なくなるだろう。聖女殿には感謝しても、しきれん」

 それをやったのは別人です。
 なんて言える雰囲気じゃなかった。
 そういえば、以前アレの話が出たときに、私の役に立つとか言っていた気がする。
 そのときは意味がわからなかったから、半ば聞き流していたけど、ここに影響していたか。
 なんだか嵌められた気もするけど、師匠の手助けだと思って、この状況を利用するしかない。

「残念ながら、その件については、私は大したことはやっていません」
「謙遜せずともよい」
「謙遜ではありません。その件は、王子が協力してくれたから実現できたことです」
「ほう」

 隣でアーサー王子が、ぎょっとしたのが分かった。
 けど、気付かないフリをする。

「ならば、王子にも感謝をせねばならぬな」
「え、いや、その・・・」

 アーサー王子が、ちらちらと責めるような視線をこちらに向けてくるけど、無視だ。
 何しろ私は、嘘を言っていない。
 私が大したことをやっていないことも、王子が協力したことも、単なる事実だ。
 私がやったんじゃなくて師匠がやったことだし、協力した、というか、協力させられたのはアーサー王子じゃなくてアダム王子だけど、それはちょっとだけ言葉が足りなかっただけだ。
 けっして、嘘ではない。

「もったいない、お言葉です」

 王様の感謝の言葉に、最終的にアーサー王子は、色々と諦めた表情でそう答えた。

「それで、褒美の件だが・・・」

 一通り感謝の言葉を述べた後、王様がそう言い出した。
 さて、何が出てくるかな。

「我が国に仕える気はないか?」
「・・・・・・・・・・は?」
「それなりの役職を用意するつもりだ」

 何を言われたのか分からなかった。
 いや、言葉の意味は分かったけど、その言葉が出て来た理由が分からなかった。

「あのー・・・私はアヴァロン王国の王子の婚約者で・・・ですね」

 アヴァロン王国で役職についているわけではないけど、似たようなものだ。
 なにせ、王子に嫁ぐ予定なのだから、ある意味では役職につく以上ともいえる。
 それは使者で来たときにも伝えたはずなんだけど。

「うむ。だから、王子にも問いたい。我が国に来る気はないか?」

 何を言っているんだ、この王様は。
 ちらっと、アーサー王子を見ると、驚きで言葉も出ないようだ。

「いやー、無理じゃないですかね。アーサー王子は、王位継承権の第一位じゃないとは言っても、万が一の場合に王位を継ぐ可能性もありますし・・・」

 ちなみに、王位継承権の第一位は兄であるアダム王子で、弟であるアーサー王子は第二位だ。
 アーサー王子が役に立たないので、代わりに発言する。
 喋り方がぞんざいになってしまったけど、王様は気にしていないようだ。
 こちらが驚いているから、大目に見てくれたのかも知れない。
 だからというわけでもないだろうけど、王様は続けて追撃を加えてくる。

「だが、今のままではアーサー王子が王位を継ぐことができる可能性は低いだろう」

 それは、その通りだ。
 アダム王子とアーサー王子の仲は悪くないから、骨肉の争いはしていない。

「我が国に来た場合、アーサー王子が望むなら、将来、王位を譲ってもいいと考えている」
「「はあぁっ!?」」

 私とアーサー王子の声が重なった。
 もちろん、驚きの声だ。
 というか、驚くなという方が無理だろう。

「ただし、その場合は、血を繋ぐために、エリザベートを第二正妃として娶ってもらう必要があるがな」

 エリザベートとは王女の名前だ。
 つまり、自分の娘を第二正妃として娶れば、アーサー王子に王位を譲ると言っているのだ。
 第一正妃と言わなかったのは、私を優先させたということだろう。
 破格の、というより、あり得ない条件だ。
 私は思わず王女の方を見る。

「・・・・・」

 王女に驚いた様子は無かった。
 むしろ、笑みすら浮かべている。
 王女も今の条件を承知しているということだろう。
 けど、どうしてだろう。
 王女の笑みを見ていると、背筋に冷たいものが流れてきた。
 それで、冷静になることができた。

「光栄なお話ですけど、断らせてもらいます」

 アーサー王子に相談はしない。
 下手に話させて、これ以上良いの条件を出されるとマズい。
 断れなくなる。

「私は王妃になる気はありませんから」

 私の我儘で通すことにした。
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