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第一章 森の中のマンドラゴラ

027.待て待て

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「行きます」
「ダメだって」

 満月の夜にハーブを採りに行くというメイと、それを止める俺。
 さっきから説得しているのだけど、メイは頑固だ。

「休みの日が満月になるタイミングまで待つくらいできるだろ」
「何ヶ月も先になっちゃいますし、ハーブが生えるのは季節も関係あるんです。待てませんよ」

 理由を聞けば、なるほどと思う。
 しかし、だからといって学校をさぼってよいわけではない。

「ケイがついてきてくれないなら、私一人で行きます」
「待て待て」

 メイが強硬に主張し、ハーブの採取を強行しようとする
 慌ててそれを止めるが、今の俺にメイを止める腕力はない。
 このままでは、メイは本当に一人で行ってしまうだろう。

「仕方ないな」

 学校をさぼることには目をつぶるにしても、夜に一人で出歩かせるのは心配だ。
 メイには恩もあるし、夜に森の中を出歩いて怪我でもされたら寝覚めが悪い。

「わかったよ。俺もついていく」
「ホントですか。ありがとうございます」

 メイが嬉しそうな顔をする。
 夜の一人歩きは不安だったのかも知れない。
 それでも行こうとしていたのだから、メイの意志は固そうだ。

「それじゃあ、お弁当を作ります。夜食と、朝食の分も必要ですね」

 そう言ってメイは、マンドラゴラを探しに行ったときのように、台所へ向かう。

「夜のピクニックか」

 まあ、ハーブならすぐ見つかるだろうし、星でも見ながら夜の散歩を楽しむことにしよう。

 *****

 そんな考えが甘かったと気付いたのは、森の真っただ中に来た頃だった。
 前回のように高級ソファーに座らせてもらい、森の中を進みながらメイと話す。

「星、見えませんねぇ」
「見えないな」

 メイの言う通り、星は全く見えない。
 それはまあいい。
 残念ではあるが、大した問題ではない。
 問題は星が見えない理由だ。

「かなり曇っているな」

 空を見ると、分厚い雲が漂っている。
 まだ明るいはずの時間なのだけど薄暗い。
 この分だと、目的地に着く前に暗くなるだろう。
 それどころか、雨が降ってくる可能性すらある。

「なあ、やっぱり今日は止めておかないか?」
「嫌ですよぅ」

 メイが拗ねたように口を尖らせる。
 そう言うだろうとは思っていたけど、今日は天候的によくないのだ。

「もう、平日に採りに行くなとはいかないよ。でも、来月じゃダメか?」
「来月になったら、ハーブが枯れちゃいますよ」

 一ヶ月先だからな。
 できれば希望は叶えてやりたい。
 けど、夜が近づいているせいか、雲が厚くなってきたせいか、ますます暗くなってきた。

「雨具は持っているのか?後は夜に寝るときのための防寒具とか」
「帽子がありますし、このローブは保温性にすぐれているんですよ」

 メイは魔女衣装を見せびらかしてくる。
 確かに帽子はつばが広いし、ローブも温かいけど、雨の中を歩くには心もとない。
 それに、防寒性能が高いとはいっても、ローブ一枚で一晩を過ごすのは身体が冷えるのではないだろうか。
 少なくとも、顔は夜風にさらされるわけだし。

「目的地の側に小さな洞窟があるので、そこまで行けば・・・」

 疑問が顔に出たのだろう。
 メイが雨や寒さをしのぐ方法を教えてくれる。
 けど、皮肉にも、ちょうどそのとき雨粒が顔に当たる。

「降って来ちゃいましたね」
「まずいな。メイ、その洞窟までは、あとどのくらいだ?」
「三十分くらいでしょうか」

 三十分か。
 微妙な時間だな。
 ここに来るまでに三十分くらいかかっている。
 行っても、帰っても、同じくらいの時間なら、メイは間違いなく行く方を選択するだろう。

「できるだけ急いでいくぞ」
「わかりました」

 メイが返事をしてるけど、夜の森の中を走らせるわけにも行かない。
 しかし、長時間雨に打たれるのも危険なので、早歩きといった感じで急いでもらう。

 結局、ハーブを採るために、メイは長時間雨に打たれることになった。
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