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第一章 森の中のマンドラゴラ

001.ずぼっ!

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 気付いたら暗闇だった。
 どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
 だけど、いつ眠りについたか覚えがない。
 よほど疲れていたのだろうか。
 身体が動かない。
 もう少し眠っていようと思う。

 ぴちょん・・・

 暗闇に光が差す。
 もうすぐ、朝が来るのだろう。
 身体を起こそうとする。
 だけど、身体は重く、動くのが億劫だ。
 朝は近いようだけど、まだ朝じゃない。
 だから、無理に起きる必要はない。
 もう少し眠ることにする。

 ぴちょん・・・

 雫が身体を伝わる。
 寝汗をかいてしまっただろうか。
 けれど、暑さは感じない。
 もしかしたら、雨漏りでもしているのかも知れない。
 だとしたら、急いで塞ぐ必要がある。
 だけど、動くのは億劫だ。
 起きてからで大丈夫だろう。

 ぴちょん・・・

 何だか喉が渇く。
 まるで身体が干乾びているようだ。
 水が飲みたい。
 全身で浴びるように水を飲みたい。
 でも、動くのは億劫だ。
 水を飲むのは、もう少し眠ってからにする。
 脱水症状にならないかが心配だけど、まあ大丈夫だろう。
 何となく、そんな気がする。

「・・・・・」

 考え事をしたからだろうか。
 なんだか眠れない。
 動くのは億劫なのだけど、すんなり眠りに入っていけない。
 でもまあ、じっとしていれば、そのうち眠れるだろう。

「・・・・・?」

 そういえば、朝が近いと考えてから、ずいぶんと時間が経った気がする。
 けれど、ちっとも明るくならない。
 もしかしたら、今日は曇りで、このまま待っていても明るくならないのだろうか。
 実際には、すでに昼間なのかも知れない。
 でも、動くのは億劫だ。
 もう少し眠っていよう。

「・・・・・・・・・・」

 やはり眠れない。
 このまま眠っていていいのだろうか。
 そんな不安がある。
 今日は何か用事は無かっただろうか。
 学校?
 会社?
 そういったところへ行かなくてよかっただろうか。
 そもそも、今日は平日だろうか、休日だろうか。

「・・・・・?・・・・・・?」

 自分は今、学生だろうか、社会人だろうか。
 平日か休日かの前に、そこから思い出せない。
 まだ夢の中にいるのだろうか。
 けれど、意識ははっきりしている。
 少なくとも、自分ではそう思っている。
 不安が募る。

「(・・・起きないと)」

 動くのは億劫だ。
 けれど、起きなければならない。
 そんな気がする。
 そんな気がするけど、動くのは億劫だ。
 億劫というより、動けない?
 手足に力を入れる。
 微かに動くけど、微かにしか動かない。
 金縛りにあったように、動くことができない。

「(誰か・・・)」

 助けを呼ぼうとして、ふと考える。
 誰に助けを求めればよいのだろうか。
 こういうときに頼りになるのは家族だ。
 親?
 兄弟?
 助けてくれそうな人の顔が思い浮かばない。
 そもそも、自分の家族構成はどうだったろうか。
 思い出すことができない。

「(・・・記憶喪失?)」

 それにしては思考がはっきりしている。
 自分は自分だと認識しているのに、自分は何者かを認識できない。
 記憶が混乱している。

「(僕は・・・私は・・・俺は・・・)」

 記憶の糸を辿る。
 水面に落ちた水滴のように、微かな波紋が記憶を揺らす。
 けれど、複数の水滴が描く波紋が複雑なように、記憶の糸は絡まっている。
 焦れば焦るほど糸は絡まっていく。
 それを一つ一つほどいていく。
 慎重にほどいたつもりだけど、細い糸は切れてしまう。
 切れてしまった糸は戻らない。
 それでも、ほどいていく。

「(俺は・・・)」

 残ったのは、赤い糸。
 他の糸より太くて、他の糸より丈夫で、血のように、炎のように、赤い糸。
 するすると、それを手繰り寄せる。

「(俺の名前は・・・)」

 ずぼっ!

 目覚めは唐突にやってきた。
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