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 高校生活は退屈でした。
 だって彼がいません。
 でも暇だった訳ではありません。
 だって彼のためにすることがいっぱいあります。

 私は勉強を頑張りました。
 彼が東大に行くことになっても大丈夫なようにです。
 私は運動を頑張りました。
 彼が体育大学に行くことになっても大丈夫なようにです。

 一学期が終わりました。
 私は全ての科目で上位の成績を取ることができました。
 科目によってはテストで一番になりました。
 彼と同じ大学に行くための準備は順調です。

「ねぇねぇ、恋バナしよ、恋バナ」

 でもひとつだけ予定外のことがありました。
 それはルームメイトである先輩の存在です。
 ルームメイトは学校側が決めます。
 だから知らない人なのは仕方ないです。

 予定外なのは別のことです。
 具体的にいうと予定外なのは先輩の性格です。
 やたらベタベタしてくるのです。
 今も私が明日の予習をしているというのに背中に抱き着いてきています。

「ねえったらぁ」

 うるさいです。
 暑苦しいです。
 鬱陶しいです。
 勉強の邪魔です。

「先輩、離れてください」
「あ~ん、いけずぅ」

 でも相手は高校の先輩です。
 あまり無碍にするわけにもいきません。
 学校では成績だけでなく生活態度も大切です。
 寮での生活は寮母さんや他の生徒達に見られています。

 私は品行方正で完璧な生徒にならなければなりません。
 友人関係や先輩後輩関係も完璧でなければなりません。
 鬱陶しい先輩とも良好な関係を築く必要があります。
 だから私は先輩の話に少しだけ付き合うことにしました。

「それでなんの話をするんですか?」
「だから恋バナだよ、恋バナ」

 引っぺがしながら改めて尋ねると先輩が答えてきました。
 どうやら先輩は恋バナをご所望のようです。
 高校と寮は山奥にあります。
 娯楽に飢えているのでしょうか。

「私、ずっと女子校だったから、男の子との学校生活って体験したことがないの。だから、共学ってどんな感じか話を聞いてみたかったんだぁ」

 なるほど。
 娯楽に飢えているのではなく男に飢えているようです。
 そういうことであれば私はご期待に沿えそうにありません。
 だって私は生まれてからずっと彼一筋なのですから。

「共学といっても女子校と変わりませんよ。教室で受ける授業は男女一緒ですけど、授業中に男女で話したりはしませんし、体育などは男女別ですから」
「でも、部活動とかは一緒だよね?」
「そうですけど、私はそういった部には入っていませんでしたから」
「そうなんだぁ」

 先輩はつまらなさそうに呟きます。
 やはりご期待には沿えなかったようです。
 ですがこればかりは仕方ありません。
 私の全ての時間は彼のためにあるのですから。

 授業で拘束されない時間は全て彼のために使いました。
 授業で拘束されている時間も常に彼のことを考えました。
 彼以外のために時間を使うことなんてありませんでした。
 彼以外と交際することなんてありえませんでした。

「学校で仲良くなった男の子はいなかったの?」
「いません」

 先輩の問いに私は即答しました。
 私と彼の関係は生まれたときからです。
 だから学校で仲良くなったわけではありません。
 私と彼は生まれたときから結ばれるのが決まっていたのです。

「そっか。じゃあ、あなたも恋愛初心者なんだ」

 仲間ができたとでも思ったのか先輩は嬉しそうでした。
 私には彼という存在がいるのですがあえて否定はしませんでした。
 こういうときは先輩の顔を立てた方がよいと考えたからです。
 これで少しは先輩と良好な関係を築くことができたでしょうか。

 良好な関係を築くコツは嘘をつかないことです。
 嘘はバレる可能性があるからです。
 嘘はつかずに本当のことは口に出さない。
 これが良好な関係を築くコツだと思います。

「なら、私と一緒に恋愛の勉強してみない? 明日の放課後、付き合って」

 でも嘘はつかず本当のことを口に出さなくても予想外のことが起きることはあります。
 私のことを恋愛初心者だと思った先輩が恋愛の勉強とやらに誘ってきました。
 なにやらあやしげなお誘いです。
 でも山奥でそれほどおかしなことは行われないだろうと考えて私は先輩に付き合うことにしました。
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