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エルフを創ってみよう
031.魔王と勇者
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最近、吾輩の研究室ではテレビを見るすることが増えた。
別に研究をさぼっているわけではない。
『……県に出現した巨木についての続報です……』
テレビには世界樹が映し出されている。
遠距離からの映像が映り、次に近距離からの映像が映る。
『……我々は巨木を調査すべく接近を試みているところです……』
今回の映像はかなり距離が近い。
撮影スタッフが頑張っているようだ。
新記録ではないだろうか。
これまでも世界樹を間近で撮影しようとする者達はいた。
しかし、それは叶っていない。
なぜなら――
『ぷぎーーー! 捕獲ーーー!』
――それを妨害する者がいるからだ。
『う、うわ、なんだ? うわあああぁぁぁ!』
映像が乱れる。
数秒後に映像の乱れは収まったが、それは妨害者を撃退したからではない。
それは一目でわかる。
なぜなら、映像が横向きになっているからだ。
おそらく、カメラを地面に落としたのだろう。
しかし、録画は止まっていないので、映像は続いている。
『ぷぎーっ♪ ここにいるとお婿さん候補の方から集まってくるから楽ね♪』
映像に映ったのは、撮影スタッフと思われる者達だ。
全員、縛り上げられている。
そして、彼らの前に素っ裸で仁王立ちしているのは、ぼたんだった。
その周囲には豚達もいる。
『これが噂の……』
『原住民の集落……』
『豚の王国……』
『あれが女王……』
撮影スタッフがこそこそと話をしているのが聞こえる。
縛り上げられているというのに、意外と余裕があるようだ。
それとも、これがプロのジャーナリストというものなのだろうか。
『ぷぎっ♪ 今回はよい人はいるかなぁ?』
ぼたんが物色を始め、順番に視線を向けていく。
視線を向けられるたびに撮影スタッフの身体が、びくりと震えるのがわかる。
それでも、ジャーナリストとしての意地なのか、ぼたんに話しかけようとする者がいる。
『わ、我々はあなた達と友好的に話をしたいと思ってここに来た。縄を解いてくれないだろうか』
『ぷぎっ? なんで?』
『なんでって……』
しかし、ぼたんは撮影スタッフの言葉に、きょとんと首を傾げるだけだ。
なぜ、そんなことをしなければならないのか全くわからない。
そんな反応だ。
『君達は、私が気に入ったらお婿さんに、私が気に入らなかったら食糧にするんだよ。どうして話をする必要があるの?』
『お、お婿さん?』
『しょ、食糧?』
『食人族の村?』
『ひっ!』
食糧という言葉が出たためか、周囲の豚達が『ブヒッ』と鳴くたびに、撮影スタッフが怯える。
それでも逃げだそうとしないのは、会話ができる相手だから交渉でどうにかなると思っているからだろうか。
それにしても、繁殖兼食糧として利用する、か。
どこかで聞いたような話だな。
…………
というか、吾輩がオークを創ったときの理由だ。
なるほど。
子は親に似るということか。
遺伝子的な繋がりは無いが、ぼたんは吾輩の子供ということだな。
吾輩が感慨に耽っていると、映像の中の状況に変化が起こる。
『メスブタ! 人間達を解放しなさい!』
『ぷぎっ!』
『『『ブヒッ!』』』
声とともに何本もの矢が上から降ってきて、捕まっている者達の周囲に突き刺さる。
それを避けるように、ぼたんと豚達が距離を取る。
その隙に何者かが捕まっている者達に駆け寄り、彼らを縛っている縄をほどく。
『あなた達は逃げてください!』
『き、君は?』
『メスブタを狩る者です!』
『?』
『それよりも、早く逃げて!』
焦れるような声に急かされるように、撮影スタッフ達が逃げ出す。
しかし、さすがはプロのジャーナリスト。
途中でカメラを拾い、さらに、離れた場所から自分を助けた人物を撮影する。
映像が横向きから元に戻り、見やすくなる。
そこに映っていたのは、エルだった。
『ぷぎっ! いつもいつも捕まえた獲物を逃がしてっ! 代わりに君に繁殖の手伝いをさせてあげるよっ!』
『そっちこそ、ボクの世界樹に勝手に住み着いてっ! 今日こそ活け造りにしてやるっ!』
さながら、魔王と勇者のように、ぼたんとエルが対峙する。
だが、ぼたんの前には魔王の配下のように豚達が整列している。
エルがぼたんを倒すためには、豚達を排除しなければならない。
『みんな、やっちゃえー!』
『やあああぁぁぁーーー!』
エルが弓をしまい、剣を抜き放つ。
そして、豚の群れに突っ込んでいった。
*****
テレビでは映像が続いているが、結果は分かっている。
エルの剣の腕では豚の壁を突破できない。
得意の弓を使ったとしても同じことだ。
きりの良いところで諦めて、悔しがりながら帰ってくるだろう。
「ぼたんもエルも元気だな」
「そうですねぇ」
吾輩が感想を言うと、我が助手も相槌を打つ。
ぼたんとエルのじゃれ合いを見慣れたのか、最初の頃のように我が助手も取り乱したりはしない。
ただ、たまに遠い目をするだけだ。
「子供が巣立つ親って、こんな気持ちなんですかねぇ」
「そうかも知れんな」
最近はこんな感じで、ぼたんやエルの観察を続けている。
これも研究の一環だ。
別に研究をさぼっているわけではない。
『……県に出現した巨木についての続報です……』
テレビには世界樹が映し出されている。
遠距離からの映像が映り、次に近距離からの映像が映る。
『……我々は巨木を調査すべく接近を試みているところです……』
今回の映像はかなり距離が近い。
撮影スタッフが頑張っているようだ。
新記録ではないだろうか。
これまでも世界樹を間近で撮影しようとする者達はいた。
しかし、それは叶っていない。
なぜなら――
『ぷぎーーー! 捕獲ーーー!』
――それを妨害する者がいるからだ。
『う、うわ、なんだ? うわあああぁぁぁ!』
映像が乱れる。
数秒後に映像の乱れは収まったが、それは妨害者を撃退したからではない。
それは一目でわかる。
なぜなら、映像が横向きになっているからだ。
おそらく、カメラを地面に落としたのだろう。
しかし、録画は止まっていないので、映像は続いている。
『ぷぎーっ♪ ここにいるとお婿さん候補の方から集まってくるから楽ね♪』
映像に映ったのは、撮影スタッフと思われる者達だ。
全員、縛り上げられている。
そして、彼らの前に素っ裸で仁王立ちしているのは、ぼたんだった。
その周囲には豚達もいる。
『これが噂の……』
『原住民の集落……』
『豚の王国……』
『あれが女王……』
撮影スタッフがこそこそと話をしているのが聞こえる。
縛り上げられているというのに、意外と余裕があるようだ。
それとも、これがプロのジャーナリストというものなのだろうか。
『ぷぎっ♪ 今回はよい人はいるかなぁ?』
ぼたんが物色を始め、順番に視線を向けていく。
視線を向けられるたびに撮影スタッフの身体が、びくりと震えるのがわかる。
それでも、ジャーナリストとしての意地なのか、ぼたんに話しかけようとする者がいる。
『わ、我々はあなた達と友好的に話をしたいと思ってここに来た。縄を解いてくれないだろうか』
『ぷぎっ? なんで?』
『なんでって……』
しかし、ぼたんは撮影スタッフの言葉に、きょとんと首を傾げるだけだ。
なぜ、そんなことをしなければならないのか全くわからない。
そんな反応だ。
『君達は、私が気に入ったらお婿さんに、私が気に入らなかったら食糧にするんだよ。どうして話をする必要があるの?』
『お、お婿さん?』
『しょ、食糧?』
『食人族の村?』
『ひっ!』
食糧という言葉が出たためか、周囲の豚達が『ブヒッ』と鳴くたびに、撮影スタッフが怯える。
それでも逃げだそうとしないのは、会話ができる相手だから交渉でどうにかなると思っているからだろうか。
それにしても、繁殖兼食糧として利用する、か。
どこかで聞いたような話だな。
…………
というか、吾輩がオークを創ったときの理由だ。
なるほど。
子は親に似るということか。
遺伝子的な繋がりは無いが、ぼたんは吾輩の子供ということだな。
吾輩が感慨に耽っていると、映像の中の状況に変化が起こる。
『メスブタ! 人間達を解放しなさい!』
『ぷぎっ!』
『『『ブヒッ!』』』
声とともに何本もの矢が上から降ってきて、捕まっている者達の周囲に突き刺さる。
それを避けるように、ぼたんと豚達が距離を取る。
その隙に何者かが捕まっている者達に駆け寄り、彼らを縛っている縄をほどく。
『あなた達は逃げてください!』
『き、君は?』
『メスブタを狩る者です!』
『?』
『それよりも、早く逃げて!』
焦れるような声に急かされるように、撮影スタッフ達が逃げ出す。
しかし、さすがはプロのジャーナリスト。
途中でカメラを拾い、さらに、離れた場所から自分を助けた人物を撮影する。
映像が横向きから元に戻り、見やすくなる。
そこに映っていたのは、エルだった。
『ぷぎっ! いつもいつも捕まえた獲物を逃がしてっ! 代わりに君に繁殖の手伝いをさせてあげるよっ!』
『そっちこそ、ボクの世界樹に勝手に住み着いてっ! 今日こそ活け造りにしてやるっ!』
さながら、魔王と勇者のように、ぼたんとエルが対峙する。
だが、ぼたんの前には魔王の配下のように豚達が整列している。
エルがぼたんを倒すためには、豚達を排除しなければならない。
『みんな、やっちゃえー!』
『やあああぁぁぁーーー!』
エルが弓をしまい、剣を抜き放つ。
そして、豚の群れに突っ込んでいった。
*****
テレビでは映像が続いているが、結果は分かっている。
エルの剣の腕では豚の壁を突破できない。
得意の弓を使ったとしても同じことだ。
きりの良いところで諦めて、悔しがりながら帰ってくるだろう。
「ぼたんもエルも元気だな」
「そうですねぇ」
吾輩が感想を言うと、我が助手も相槌を打つ。
ぼたんとエルのじゃれ合いを見慣れたのか、最初の頃のように我が助手も取り乱したりはしない。
ただ、たまに遠い目をするだけだ。
「子供が巣立つ親って、こんな気持ちなんですかねぇ」
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これも研究の一環だ。
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