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エルフを創ってみよう

016.育児の方向性

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「エルちゃんが凄いのはわかりました」

 我が助手が拍手をやめて、吾輩の方に視線を向ける。
 どことなく、吾輩のことを非難するような視線だ。
 今回は事前に教えたし、デモンストレーションを称賛もしていたというのに、なにか気に入らないことでもあるのだろうか。

「でも、教授。年頃の子にこんな服を着せて、感心しませんよ。もう少し、オシャレにも気を使ってあげてください」

 どうやら、我が助手はエルが着ている服が気に入らないらしい。
 エルの着ているのは、サイズは違うが、ぼたんに最初に着せていた服と同じものだ。
 ゆったりしたデザインで、すぽっと頭からかぶることができる。
 身体が多少大きくなっても着ることができるので便利なのだが、機能性を優先しているのは事実だ。
 というより、吾輩はオシャレというものが理解できない。
 マーケット調査をしたことがあるので、どういうデザインがオシャレなのかは知っている。
 しかし、実用性を感じないのだ。
 身体を守護するためのものなのに身体を覆う面積が少ないビキニアーマーや、掃除などの家事をするためのものなのに汚れたら洗うのが大変そうなフリル満載のメイド服など、機能性が無いにもほどがある。
 機能美という点で言えば、ゼロどころかマイナスなのではないのだろうか。
 専門の文献に載っていたので、それがオシャレなのだということは疑っていないのだが、吾輩の頭脳を持ってしても理解に苦しむ。
 そんなわけで、吾輩はシンプルな服をエルに着せているのだが、我が助手はそれが気に入らないようだ。
 もしかしたら、我が助手はオシャレというものについて、吾輩よりも理解が深いのかも知れない。
 助手に理解度で負けているという点について、悔しいと思う気持ちが無いわけではない。
 しかし、吾輩とて科学者だ。
 感情で相手を否定するつもりはない。
 それに、自分に得手不得手があることは知っている。
 我が助手が言っていることが正しいのであれば、それを認めよう。
 だが、我が助手が正しいと決まったわけではない。
 ゆえに、その判断は本人に任せようと思う。

「ふむ。エルよ。おまえはどう思う? どんな服を着たい?」

 吾輩が尋ねると、エルは驚いた様子で吾輩と我が助手を交互に見る。
 エルは、ぼたんと違い身体能力は、それほど高くない。
 その代わり、英才教育を施してある。
 植物を育てたり、植物を病気から回復させたりするには、知識も必要だからだ。
 だから、知識は充分なはずなのだが、判断力が弱いのかも知れない。
 吾輩の質問に即答できないでいる。
 これは意図せず重要な情報が手に入った。
 我が助手に紹介したのは、正解だったようだ。
 エルも我が助手に育てさせた方がよいかも知れないな。
 頼んでみるか。
 そんなことを考えている間に、エルは一応答えを決めたようで口を開く。

「ボ、ボクはその……父様がくれた服でいいと思います」

 エルはそう答えたが、要するに今のままでよいという意味だ。
 自分で判断したとは言い難い。
 まあ、無理もない。
 オシャレに関する知識は教えていないから、判断しろと言っても無理だろう。
 そんなエルの様子に思うところがあったのか、我が助手がエルを抱きしめる。

「エルちゃん、健気!」
「え? あの……」

 突然抱きしめられてエルがおろおろしているが、我が助手はかまわず抱きしめ続ける。

「ポンコツな父親に気を使っているのね。いいわ。私がオシャレについて教えてあげる」
「え? でも……」

 ポンコツとはひどい言われようだ。
 だが、吾輩が頼まなくても、我が助手はエルの世話をするつもりのようだ。
 都合がよいので、そのまま任せることにしよう。

「エルちゃんは私が立派なレディに育ててあげる。教授、いいですよね」
「うむ。かまわないぞ」

 予想通り、我が助手はエルを育てることを宣言する。
 その顔は決意に満ちている。

「私、ぼたんを育てたときのことを振り返って気付いたんです」
「ほう」

 我が助手は、ぼたんの育成方法について分析したらしい。
 よいことだ。
 成功した場合も失敗した場合も、それを分析して次に活かすのは、科学者にとって重要なことだ。

「ぼたんは甘やかしすぎました。それであんなに、はっちゃけた性格になっちゃったと思うんです」
「はっちゃけ……まあ、間違ってはいないな」

 言葉の選択はともかく、ぼたんに行動力があり過ぎるのは確かだ。
 もう少し慎重に行動するように育ててもよかったかも知れない。
 野生で生き残るには慎重さと行動力の両立が必要なので、ぼたんの性格が悪いというわけではない。
 しかし、日本の山中で派手に暴れていたら、害獣として殺処分される可能性もある。
 慎重に越したことは無い。

「だから、エルちゃんはお淑やかな性格に育てようと思います」
「よいのではないか?」

 エルは植物との親和性が高いから、もともと性格は穏やかだ。
 お淑やかに育っても、何の問題もない。
 だから、我が助手の意見に賛同する。

「さあ、エルちゃん。お着替えしましょうね。ぼたんの服が残っているはずだから」
「あの、ボクは、その……」
「私のことは母様って呼んでいいからね」

 我が助手が、エルを隣の部屋へ連れていく。
 身体能力が人間の子供と同じくらいのエルは、抵抗することもできずに引きずられていく。
 バタンという扉が閉まる音とともに、二人の姿が見えなくなる。
 隣の部屋でエルの着替えをしているのだろう。
 吾輩は二人が戻ってくるのを、のんびりと待つ。

「…………」

 のんびり待っていたら、ふと気になることを思い出した。
 我が助手は、エルを立派なレディに育てると言っていた。
 それは別によいのだが、我が助手はわかっているのだろうか。
 もしかして、勘違いしていないだろうか。
 そんなことを考えていたら――

『きゃあああぁぁぁ!』

 ――隣の部屋から絶叫が聴こえてきた。
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