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第一章 新生活

入学式

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 入学式というのは、それなりに大切な行事だと思う。
 期待と不安に胸を膨らませる新入生にとっては、最初の行事だ。
 そんな中、わたしは物思いにふけっていた。
 わたしが不良だとか、ひねくれているというわけじゃない。
 つまらないわけでも、退屈なわけでもない。
 ただ、希望に満ち溢れた先生や在学生の言葉に、ときおりノイズが入るというだけだ。
 だけど、そのせいで話している内容がいまいち理解できない。
 授業中はあまりこういったことはないのだけど、感情のこもった会話などでたまにある。
 その結果、わたしは宇宙人の言葉でも聞いているような気分になり、早々に理解を諦めた。
 わたしは、新入生に向けられた希望に満ちた話を、音楽のように聴きながら考え事をする。

 イトウさんとの付き合いは、それなりに長い。
 小学校の頃からだ。
 だけど、その期間ずっと友達関係だったかというと、そういうわけではない。
 最初は全くの見ず知らずだった。
 というより、わたしにとって同級生は、ほとんどが見ず知らずだった。
 例外なのは幼稚園から一緒の人だけど、友達ではないから知っているというだけだった。
 そんなわたしだけど、小学校や中学校ではそれなりにモテた。
 ノイズのせいで他人の言葉に反応できないのを、他人に媚びないと思われていた。
 ノイズのせいで楽しそうな会話を理解できないことを、クールだと思われていた。
 ノイズは関係ないけど、容姿はそこそこだと思う。
 だからなのか、わたしは陰でクールビューティーと言われていたようだ。

 ときおり、下駄箱に手紙が入っていた。
 文字は理解できるから、それがラブレターだということは判った。
 だから、わたしはその手紙に書かれていた呼び出し場所へ向かう。
 そこで待っていたのは、ほとんどが男の子で、たまに女の子だった。
 その子たちは、わたしに向かって、似たようなことを言う。

「■■■ちゃん、■■です。付き合ってください」

 それを聞いたわたしは即座に答える。

「ごめんなさい」

 当たり前だ。
 全く意味が判らないのだから、向けられる言葉には恐怖しか感じない。
 ラブレターの内容から、おそらくは健全な好意を向けられていたのだと思う。
 だけど、直接向けられる言葉は恐怖でしかなく、わたしはことごとく断った。
 その結果、わたしは『高嶺の花』『茨姫』『雪の女王』などと呼ばれたようだ。
 もっとも、当時のわたしに、そう呼ばれていることを知るすべはない。
 後になってから、イトウさんに教えてもらったことだ。

 自分が高嶺の花なんて、これっぽちも思っていないけど、周囲はそうじゃない。
 遠くから見てくるだけなら害はないのだけど、そうじゃない人もいた。
 嫉妬から花を手折ろうとする人がいた。

 たとえば、好意を寄せていた異性がわたしに告白する。
 わたしが、それを断る。
 その異性に告白して付き合えたとしても、自分はあくまで本命の代わりでしかない。
 そう思った人が、それなりの人数いたようだ。
 イトウさんも、そんな人たちの中の一人だった。
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