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第一章 新生活

友達

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 わたしにとって身体の一部を触られるというのは特別なことだ。
 意図しない接触でない限り、触ってきた人物はわたしに用がある。
 名前を呼ばれても反応できないわたしにとって、とても判りやすい。

「アイザワさん、おはよう」

 背中を叩いてきた人物がわたしに挨拶をする。

「イトウさん、おはよう」

 背中を叩いてきた人物にわたしも挨拶をする。
 振り向くと、そこにいたのは、わたしの数少ない中学時代の友人だった。

「また一緒の学校だね。同じクラスになれるといいね」

 イトウさんが、わたしの横に並びながら言う。
 わたしは、それに頷く。

「うん。わたしも一緒のクラスになりたい」

 本心からそう思った。
 そのことが判ったのだろう。
 イトウさんが笑顔になって、わたしの手を握ってきた。
 わたしもその手を握り返す。

 わたしとイトウさんは、百合百合しい関係というわけじゃない。
 だけど、こうして手を繋ぐというのは、わたしにとって都合がいい。
 誰かがわたしを呼んだとき、意図してか意図せずか、イトウさんは手を少し強く握ってくる。
 わたしはそれで呼ばれたことに気付く。
 だから、イトウさんと手を繋ぐことは、わたしにとって都合がいい。
 友達を都合のいい存在と考えることに自己嫌悪になるが、大切な友達だと思っているのも本心だ。

 わたしとイトウさんは手を繋ぎながら入学式の会場に向かって歩く。
 好奇の視線が向いてきていることには気づいたけど、わたしから手を離すことは無い。
 そして、イトウさんから手を離すことも無かった。
 だから、手を繋いだまま目的の場所に到着した。
 そこでようやく手を離す。

「入学式の席は隣同士みたいだね」

 わたしが座席表を見ながら、席の場所を確認する。

「隣同士なんて、なんだか運命を感じちゃうね」

 イトウさんが、いたずらっぽい顔で言う。
 席が隣なのは運命というわけじゃない。
 アイザワとイトウ。
 あいうえお順で座席が決まっているみたいだから、隣になっても不思議ではない。
 でも、運命と考えた方が素敵だとは思う。

「そうだね」

 だから、わたしは微笑みながら同意する。
 すると、イトウさんも微笑みを返してくる。
 なんとなく、二人で微笑み合う。

「仲がいいのね。わたしも混ぜてもらっていい?」

 微笑み合っていたら、後ろから声をかけられた。
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