5 / 30
5話 なんか可愛いシスターがお金を借りに来たよ。
しおりを挟むガチャ……。
カランコロン……
事務所のベルが鳴る。
「すみません……」
男性と入れ違いで若い女性が一人、緊張した様子で事務所に入ってきた。
20代前半くらいだろうか。美女だ。
ただ、どことなく性格がキツそうだ。
「ほーいほいほいほーい!」
クルスが玄関までスキップで向かう。妙なテンションだ。何故だろう。腹が立つ。
「すみません……あの…………お金を……貸してもらいたくて………………」
女性は申し訳なさそうに言った。
「お金?借りたい?お客さん?はいよ!それじゃこっちに座って~」
クルスは満面の笑顔で女性をテーブルの前の椅子に案内した。先ほどの男性の時の般若の様な顔と比べるとえらい変わり様だ。
スキップしながらでウザい。
「…………ハイ」
女性は少し不安気な表情を浮かべ、静かに座った。
その後、クルスは向かい合わせに勢いよく座った。
テーブルの傍らには先ほど破壊した大盾の残骸がある。
「ワシはクルス!!ペクニーアエ=コンメリクム=クルスじゃ!クルスでいいぞ。プリティな10歳!!このプリティファイナンスの社長じゃ!キラリンッ☆♪」
一昔前の魔法少女みたいな奇妙なポーズをしている。
「えっ?‥‥‥あ‥‥ハハハ‥‥えっ?!!社長?」
驚く女性。俺も驚いた。
それにしてもここに来て初めて知る様々な事実。
クルスは社長だった。
10歳?社長?名前ながっ!
こんなちっこいのが社長?
「は?そうじゃよ!!可愛いじゃろ?じゃろ?」
執拗に女性に顔を近づけ可愛いと言わせようとしている。
「え?は‥はい。可愛いです」
無理矢理言わされる女性。
「じゃろ~~よく分かっておるなお主!見込みあるぞ!それはそうと名前は何て言うんじゃ?」
可愛いと言わせご満悦のクルス。
「あ……失礼致しました。私は……セーラです」
セーラはクルスのテンションに圧倒され一瞬言葉が詰まりながらも自己紹介をした。
「セーラじゃな。仕事は何をしているんじゃ?」
クルスがえんぴつを鼻の下に乗せながら質問する。
明らかにやる気が無い……
「え?…………あの……シスターです。」
「シスター?どこの?」
クルスは足をプラプラさせながら質問を続ける。
「えっと……聖フランシス大教会です」
セーラはうつむきながら話す。緊張からか途中途中言葉が詰まる様だ。
緊張しているのがコチラまで伝わってくる。
「へぇ……あそこか……最近は教会の経営も大変じゃろ?」
鼻をほじりながら聞くクルス。
ピンッ!
鼻をほじるな!!!もっと興味持て!!
それに、そんなほじったら血が出るぞ!!
しかも!!今!何か飛ばしたな!!!何とは言わないが……コイツ!ありえん!不潔過ぎる!
あー…………疲れた……
ショウタは心の中でツッコミ過ぎて疲れた……
「えっ?あ……は……はい」
何故か驚くセーラ。
鼻ほじに驚いているのか?違うか!
クルスが教会の経営ナンチャラについて言ったから驚いたらしい。
「それで?金貨何枚必要なんじゃ?」
本題を切り出すクルス。
「200枚ほど…………」
「えっ!!!!」
ハッ!ヤバ……声出しちゃった。
ショウタは咄嗟に口を覆った。
クルスがこちらを見て睨んでいる。
ヤベッ……
「す……すみません」
ショウタは謝った。
びっくりし過ぎて思わず声が出てしまった!
は?金貨200枚?!聞き間違いじゃないよね?
家でも買う気か?大丈夫かこの人?何にそんな大金使うんだ!!!
とショウタは心の中で思った。
「ほー!!金貨200枚…………ずいぶん大金じゃな~。そんな大金何に使うんじゃ?」
ですよねー!気になる。気になる。
「…………あっハイ。簡単に言うと教会の運営の為です。先ほどクルスさんがご指摘された通り、わたくしのいる教会は現在、経営難です。教会では身寄りの無い子供達を引き取って育てているのですが、最近になって急にギルドからの寄附金が止まってしまったのです……教会の運営は、ほぼギルドからの寄附金などの援助で成り立っています。急に寄附金を打ち切りにしてしまうなんてあまりにも酷すぎる………………このままでは、子ども達が飢え死にしてしまう……しかし、わたくしにはどうすれば良いか分かりませんでした。そんな時……たまたまコチラの貼り紙を見て、お金を貸して貰えると知り、伺いました…………当面の運営費として貸して頂きたいのです…………」
一通り話し終えるとセーラは下を向いた。
うーん…………寄附金打ち切られて金が無いから借りに来たって事だよね?
これからどうやって返すんだろ?
というか、今まで貯金とかは?まぁ……無いから金借りに来てんのか……良く分からん。
絶対節約したら少しずつは貯金出来た様な……
知らんけど……
「ほう……それで金が必要だという事じゃな……」
セーラの話しを黙って聞いていたクルスが頷いた。
「はい……」
「それで?ワシから金を借りてもそもそも寄附金が無い状況は変わらんじゃろう?収入が無いなら返せないではないか?ウチの利息は1か月1割だぞ?金貨200枚借りたら1か月後には利息だけで金貨20枚だ。どうやって返すつもりじゃ?返すあてはあるのか?」
クルスは淡々と話し、セーラに尋ねた。
やっぱりそれ気になるよね~。返済原資ってやつ?返す方法は気になる。
どうやって返すつもりだ?どうする?シスターセーラ!
ショウタも心の中でセーラに尋ねた。
「………………そ……それは………………仕事を見つけます!!何とか仕事を見つけて返します!だからお願いします!お金を貸して下さい!」
セーラは必死にクルスに訴えた。
えぇーーー!
出た!ほぼ無計画!仕事を見つけて返します!ってこれから仕事見つけるんだよね?いやいや……
まぁ……俺はもっと無計画だから~何も言えないんだけどね~~。
ジーッとセーラを見るクルス。
「…………あの?なんでしょうか?」
クルスの視線に耐えかねて尋ねる。
すると…………
ドンッ!!
机の上に金貨が沢山入った袋を勢いよく置いた。
「ほらよ!金貨200枚じゃ!」
「あ!ありがとうございます!」
セーラは大金を受け取ろうとする。
パシッ!!
が、クルスは金貨が入った袋を離さない。
「待て!貸すには条件がある。利息についてじゃ。利息は通常1か月1割だが、信用の無いアンタは1か月3割払ってもらう。要するに1か月後には金貨260枚返さないと完済しない。つまり1日の利息だけで金貨2枚じゃ。本当は初めて来た客に200枚も貸せん。わしもリスクがある。しかもあんたはこれから仕事を探して返すと言っている。そんな仕事も無い様なヤツには普通は貸さない。でもアンタは返す人の目をしている。目を見て分かった。さあ、どうする?」
クルスはドヤ顔でセーラに尋ねた。
「あ…………ありがとうございます!!!その条件で問題ありません!宜しくお願いします!!」
深々と頭を下げるセーラ。
えーーーー!!
ウソでしょ?お金貸しちゃうの?
何の信用も無いこの人に?しかもほぼ無職だろ?
いくら利息3割にしたってあり得ないでしょ?
あ!!そうかーー!
分かったぞ!分かったーー!!分かったーー!!
はいはい。そういう事ですか!クルスさんも悪い人だよ。
返せない時はピンク色のいかがわしーーい店で働いてもらうんだな。絶対そうだ!
美人だし!!シスターだし!!
マニアックな変態からの需要ありそうだ。
それでガッツリ稼いでもらうんだなー。
あー怖い怖い。やっぱり怖いな。金融屋さんは……
ヤ○ザみたいな怖い人とムフフな仕事はセットなのかなー。
…………なんか色々考えてたら急に怖くなってきたな。厄介事に巻き込まれそう。やっぱり面接受けるのやめようかな………………
ショウタが、そんな事を考えていると……
「ヨシ!それじゃココにサインして!」
クルスが元気良くセーラに言った。
「あっ……はい」
セーラは言われた通りに用紙にサインした。
すると……
「○×△☆♯♭●□▲★※」
クルスが何やらブツブツと呪文の様な言葉を唱え始めた。
すると……先ほどの用紙が光り出し、うっすら光る透明な鎖が浮き出てきた。
その瞬間……
ガシャン!
光る鎖はシスターセーラの足にしっかりロックされた様に見えた。
「ヨシ!これで完了じゃ!」
クルスはニカっと笑う。
「あ……あの今のは?」
セーラが尋ねた。
うん。だよね。今の何?めちゃくちゃ気になる。
ナイス質問!シスターセーラ!
「あー………………今のは『契約の鎖』じゃ。まぁ、目に見えない魔法の鎖じゃな。心配するな!完済して契約が終了すれば外れる。何も問題無い。ただし……返さないで放置していると少しずつ鎖が締まり、いずれ歩けなくなり、終いには…………まぁ……気をつけてくれ」
淡々と話すクルス。
コワッ!!!なにそれ!!しかも終いにはって何だよ!!!
含みを持たせた言い方するんじゃないよ!気になるだろ!
「えッ?!!」
セーラは明らかに動揺している。
「大丈夫じゃよ!きっちり返してくれたら何も問題無い!!それじゃ!一か月後に事務所に返済しに来てくれな~」
クルスはニヤニヤしている。
「はい……それじゃ失礼致します」
セーラは金貨200枚を持って足早に事務所を後にした。
ダメだ……怖い!
やっぱりクルスの、あの目が怖い!
笑いながら人を殺せる人の目だ!!
鉄製の大盾は素手で破壊するし、見たことない魔法使うし……
子供に化けた悪魔に違いない。
やっぱり俺には踏み込んじゃいけない世界だったんだ。
やっぱり帰ろう……
トイレ行くフリして逃げればいい……
そうだ……そうしよう。
ショウタは立ち上がり、無言で事務所の出口の方へ
向かおうとした。
すると…………
ショウタの妙な動きに気付いたクルスが声をかけた。
「オイ!お前!!どこ行くんじゃ?!」
ヒュンッ!!!
ドスッ!!
「ヒィッ!!!!」
ショウタの顔スレスレにナイフが突き刺さった。
ウソでしょ!!!
この人ナイフ投げてきたよ!全然見えなかったし!!
ショウタを睨んでいる。
「いや…………まぁ……あははは……トイレどこかなっと思って……」
適当に誤魔化すショウタ。
怖い!怖い!怖い!怖い!!!!怖すぎる!!!
「ウロチョロするんじゃない!黙って座っておれ
!トイレぐらい我慢しろ!」
ショウタは混乱している。
「あ……ははは……はは」
この状況で逃げる勇気も無く、静かに座った。
一体どうなってしまうんだ……俺……
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
追放からはじまる異世界終末キャンプライフ
ネオノート
ファンタジー
「葉山樹」は、かつて地球で平凡な独身サラリーマンとして過ごしていたが、40歳のときにソロキャンプ中に事故に遭い、意識を失ってしまう。目が覚めると、見知らぬ世界で生意気な幼女の姿をした女神と出会う。女神は、葉山が異世界で新しい力を手に入れることになると告げ、「キャンプマスター」という力を授ける。ぼくは異世界で「キャンプマスター」の力でいろいろなスキルを獲得し、ギルドを立ち上げ、そのギルドを順調に成長させ、商会も設立。多数の異世界の食材を扱うことにした。キャンプマスターの力で得られる食材は珍しいものばかりで、次第に評判が広がり、商会も大きくなっていった。
しかし、成功には必ず敵がつくもの。ライバルギルドや商会から妬まれ、陰湿な嫌がらせを受ける。そして、王城の陰謀に巻き込まれ、一文無しで国外追放処分となってしまった。そこから、ぼくは自分のキャンプの知識と経験、そして「キャンプマスター」の力を活かして、この異世界でのサバイバル生活を始める!
死と追放からはじまる、異世界サバイバルキャンプ生活開幕!
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
ブラフマン~疑似転生~
臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。
しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。
あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。
死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。
二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。
一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。
漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。
彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。
――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。
意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。
「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。
~魔王の近況~
〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。
幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。
——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる