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時は移り、両国が待ちに待っていた王子と王女の初めての顔合わせの日。
国境付近に位置する新たな王宮に向かう馬車には四人が乗り合わせていた。
「イザベラ、お前なら大丈夫だと思うがくれぐれも粗相の無いようにしなさい。」
厳格な雰囲気を漂わせる男性が目の前に座る人物に話しかける。
「はい、心得ております。陛下。」
鈴を鳴らしたような声でありながら、確かな口調で返事をする女性。
艶やかな黒髪に次期王にのみ神から与えられるルビーのような瞳を持つ美貌を兼ね備えたこの人物こそが、かの黒の国の第一王女として生まれたイザベラ・ブラック・フェベリット。
生まれた時から自分の運命を決められていたイザベラは、その運命に悲観することなく強い女性に育っていた。
神の導きのままに自分が生きることによってプラスになるのであれば安いものだとすら考えていた。
王は立派に美しく成長したイザベラには何の不安も抱いていなかったが、その隣に座るもう一人の娘が気掛かりで仕方がなかった。
「ルチア、お前もわかっているであろうな?」
ルチアと呼ばれたのは、黒の国の第二王女。
艶やかな黒髪は姉と同じだが、ふんわりとしたウェーブがかかっておりピンクの瞳を持つ。
幼い頃は二歳年上のイザベラを慕って、姉のようになりたいと話していた子だったがここ数年でその態度から急変した。
今では自分が次の王女であると我が物顔で王宮の中を闊歩し、権力を振りかざすようになってしまった。
今回の顔合わせにルチアを参加させるつもりはなかったが、白の国は「王家の者はみな参加する」ということを聞きそれに合わせる形でルチアを連れて来ていた。
「はい、お父様。わたくしは王女ですからご心配には及びませんわ。」
この返事に黙っていない人物がいる。
それは、黒の国の王妃であり二人の母親だった。
「ルチア、あなたはいつになったらお父様では無く陛下と呼ぶのでしょうね。
陛下はあなたの父である前に我が国の王なのですよ。何度も注意しているのになんとも嘆かわしい。」
「ッ…でも!」
「でもではありません。王女としての自覚を持ちなさい。王に一番近しい人物がそのような態度でどうするのです。」
ルチアは王妃の言葉に唇を噛み、ドレスを握りしめて下を向いてしまった。
王妃は若い頃から自国で右に出る者は居ないほど完璧な淑女であった。
強い口調でルチアを叱ったが、姉妹に与える愛情をどちらかに贔屓したことも今までに無かった。
どうしても周りの人間たちは神託を受け取ってからすぐに生まれたイザベラを大切に扱おうとする傾向があったが、その態度について王妃は「公平に扱うように」と指示を出す側の人間だった。
王妃でありながらも母親としてルチアの行く末を案じていたのだ。
それでもルチアの態度は変わることなく今のように淑女としてあるまじき女性に成長してしまった。
嫌な空気が流れる中、刻一刻と王宮へ向けて馬車は進んでいくのであった。
国境付近に位置する新たな王宮に向かう馬車には四人が乗り合わせていた。
「イザベラ、お前なら大丈夫だと思うがくれぐれも粗相の無いようにしなさい。」
厳格な雰囲気を漂わせる男性が目の前に座る人物に話しかける。
「はい、心得ております。陛下。」
鈴を鳴らしたような声でありながら、確かな口調で返事をする女性。
艶やかな黒髪に次期王にのみ神から与えられるルビーのような瞳を持つ美貌を兼ね備えたこの人物こそが、かの黒の国の第一王女として生まれたイザベラ・ブラック・フェベリット。
生まれた時から自分の運命を決められていたイザベラは、その運命に悲観することなく強い女性に育っていた。
神の導きのままに自分が生きることによってプラスになるのであれば安いものだとすら考えていた。
王は立派に美しく成長したイザベラには何の不安も抱いていなかったが、その隣に座るもう一人の娘が気掛かりで仕方がなかった。
「ルチア、お前もわかっているであろうな?」
ルチアと呼ばれたのは、黒の国の第二王女。
艶やかな黒髪は姉と同じだが、ふんわりとしたウェーブがかかっておりピンクの瞳を持つ。
幼い頃は二歳年上のイザベラを慕って、姉のようになりたいと話していた子だったがここ数年でその態度から急変した。
今では自分が次の王女であると我が物顔で王宮の中を闊歩し、権力を振りかざすようになってしまった。
今回の顔合わせにルチアを参加させるつもりはなかったが、白の国は「王家の者はみな参加する」ということを聞きそれに合わせる形でルチアを連れて来ていた。
「はい、お父様。わたくしは王女ですからご心配には及びませんわ。」
この返事に黙っていない人物がいる。
それは、黒の国の王妃であり二人の母親だった。
「ルチア、あなたはいつになったらお父様では無く陛下と呼ぶのでしょうね。
陛下はあなたの父である前に我が国の王なのですよ。何度も注意しているのになんとも嘆かわしい。」
「ッ…でも!」
「でもではありません。王女としての自覚を持ちなさい。王に一番近しい人物がそのような態度でどうするのです。」
ルチアは王妃の言葉に唇を噛み、ドレスを握りしめて下を向いてしまった。
王妃は若い頃から自国で右に出る者は居ないほど完璧な淑女であった。
強い口調でルチアを叱ったが、姉妹に与える愛情をどちらかに贔屓したことも今までに無かった。
どうしても周りの人間たちは神託を受け取ってからすぐに生まれたイザベラを大切に扱おうとする傾向があったが、その態度について王妃は「公平に扱うように」と指示を出す側の人間だった。
王妃でありながらも母親としてルチアの行く末を案じていたのだ。
それでもルチアの態度は変わることなく今のように淑女としてあるまじき女性に成長してしまった。
嫌な空気が流れる中、刻一刻と王宮へ向けて馬車は進んでいくのであった。
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