白い薔薇をあなたに

夢見 歩

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別れを予感しながらも、指輪を送ろうとするなんて矛盾してるってことは自分が一番よく分かっていた。

ただ、これから先に別れる運命が待ち受けていたとしても俺は優真と過ごした一年をカタチとして残しておきたかった。

別れを切り出すなんて俺には出来そうにもなかったから優馬の優しさに縋りつくので精一杯だったのかもしれない。

薬指にはめられた指輪を見た時に、別れを切り出すのを優馬が思いとどまってくれるかもしれないなんて自分勝手な願いも同時に込めた。

指輪を眺めれば眺めるほど今までの楽しかった思い出が溢れ出てきた。

しかし、この指輪を優馬に渡すことは一生ないと思う。

さっきの病院でのご両親の態度を見る限り、優馬がこのまま俺の事を忘れている方が都合がいいと思っているに違いない。

もしも、以前と考えが変わって俺と優馬が一緒に生きていくという将来を考えてくれているのであれば、病室の前で会った時に記憶喪失だということを事前に説明してくれたはずだ。

説明もせずに優馬に会わせたということは、きっと俺に現実をそのまま受け入れて身を引いて欲しいというご両親からの無言のメッセージだと思う。

今まで優馬の事を愛してきた俺にとってこのまま別れるというのはとても辛いが、優馬の将来を考えるとそうも言ってられない。

大企業を背負っていく優馬を支えてあげられるのは後ろ盾があるパートーナーの方がいいだろう。

優馬が愛情の方が大事だと言うなら隣に立っていようと思っていたけれど、当の本人が恋人の存在を忘れているからどうしようもない。

指輪を片手に色々なことを考え抜いた結果、俺は波風を立てずに静かに身を引くことを決意した。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

思い立ったが吉日と言わんばかりに、家の中に残る優馬の痕跡を一つずつゴミ袋に詰めていく。

洋服、歯ブラシ、雑貨…

手に取る度に「これは本人に返した方がいいんじゃないか」という愚かな考えが頭の中に浮かぶ。

見ず知らずのオメガから「あなたの物よ」
と渡されて喜ぶアルファなんて居ないだろう…と自分で愚かな考えを否定しながらゴミ袋へ詰める作業を進めた。

長い時間をかけて作業を進めていき、一番最後に手に取ったのは枕だった。

二人で愛を語り合い抱き合ったベッド。
「いつかユキは俺の番になるんだよ」と甘い言葉を囁かれて涙を流すこともあった。

この言葉は現実になることは無く、今の俺は優馬の言葉と正反対の行動をしている。

さっきまではなんとか自分のことを奮い立たせて作業を進めていたのに、枕を手に取ると「これで終わりか…」と言いようのない感情が押し寄せてきた。

「今日で最後だから…」と自分に言い訳をして優馬の匂いが染み込んだ枕を抱きしめながら深い眠りについた。
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