上 下
7 / 120
1

7

しおりを挟む
カタカタと心地よく揺れる感覚に私は目を覚ますと、父上に抱っこされて馬車に乗っていた。
私の前には母上とイディが並んで座っており、イディは何故かふくっつらな表情をしていた。

「おはよう…」

すっきりとした感じで起きる事ができた。

「僕ホロが寝るの邪魔しちゃったの?」

ふくれっつらだったのは父上に対してではなく、私が抱き締められていた所為でまともに寝れないようにしてしまった自分自身に対してなんだろう。
寝れなかった事に対してイディが悪いなんて私は思っていない。

「そんな事はない。私はイディと一緒に寝る事ができてよかったと思っている」

この発言は本心だ。
一人で寝る時よりもイディと一緒に寝ていた方が、むしろ普段より眠りが深かった。

「その、僕に遠慮してない?」

「していない」

視線を逸らさずにイディの目を見る。
不安が入り混じった瞳。

「イディは私の言葉を信じられないのか?」

「そ、そんな事ないよ!ホロは優しいから僕に話してくれないと思って…」

馬車は大きく揺れていないから、私は父上の膝の上から降りてイディの側によった。

「私はイディに嘘を言わない」

「本当に?」

「本当だ」

やっと私の言葉を本心だと分かったイディの瞳の不安が消えて表情も和らいだ。
普段のイディの表情を見る事ができてよかった。

「良かった」

ぎゅっとイディに抱きつかれ、私は姿勢を崩しそうになったがイディが私を支えてくれた。

「二人とも危ないから座りなさい」

父上に抱き上げられその隣にゆっくりと下された。

「仲が良い事はいいが状況を考えて動くんだ」

「はい」

「分かった」

「とくにホロはこのお茶会ではその話し方はしてはいけない。血筋だけで言えば今回のお茶会では一番高貴な存在になるが、家格だけで言えば上の家格の貴族も集まっている。今の様な話し方をしてはいけない」

「分かっている。だが、どうしてもという時は良いか?」

「どうしてもという時だけにはなるが許可をしよう」

その許可を貰えたのなら十分だ。

「ホロの喋り方ってダメなの?」

「いい話し方ではないよ。でも、家にいる間だけは、家族と一緒にいる間だけは自由に話して欲しいんだ」

「そうなんだ。僕はホロの話し方は聞いてて落ち着く事ができるからとても好きなんだ」

「イディはいい子だね。でもみんながイディと同じ優しい考えをしているわけではないんだ」

母上のいう事は最もだろう。
母上の中で魔王としての自我があった時、私よりも悪魔的思考の持ち主の聖女がいたぐらいだ。

でも私を受け入れてくれた母上も父上も、お祖父様もお祖母様も優しい心の持ち主だった。
特に父上とお祖父様、お祖母様から母上を奪い、殺そうとした存在を受け入れてくれる心の広い持ち主だった。

そんな人達以上の存在に会う事はないぐらい、私は恵まれた環境で過ごせている。

「ホロもお母様と同じ事を考えてる?」

「そうだな…貴族の世界で生きていくと決めたのだから、母上の考えに同意できる」

「ホロがそう考えているなら…」

イディはまだ納得できてなかったようだけど、一旦は自分の中で整理する事に決めたようだ。
まだまだ子供のイディには今回の話は難しかっただろう。

でもこれが貴族社会で生きてく上で重要な事になる。
一人で悩む時間も必要だと思い、お茶会の会場に辿り着く迄そっとして置く事にした。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

完結・虐げられオメガ側妃は敵国のイケメン王に味見されてしまう

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...